日経ビジネス電子版Special

ポストアンチエイジングの時代が始まる 細胞再活性化がウェルエイジングの新しいソリューション

全ての人間に訪れる老い。最新の研究によると、身体や見た目の老化には、細胞機能の低下が関係していることが分かってきた。そこで注目されているのが、身体の個別部位ではなく、根本から健康になる「細胞ケア」。機能が低下した細胞を再活性化させる技術だ。これからのウェルエイジングのあり方とは。その新潮流に迫った。

人生100年時代の「ウェルエイジング」の新潮流

武田氏
グローバルニュートリション
グループ
代表取締役社長
武田猛
35年間一貫して健康食品業界でビジネスに携わる中で、コンサルタントとしては国内外合わせて650以上のプロジェクトを実施。世界各地にネットワークを築き上げ、2004年に「グローバルニュートリショングループ」を設立。食品会社、化粧品会社、製薬会社の健康食品部門に対して、商品開発、マーケティング、海外進出などのコンサルティングを行っている。

 昨今では、「人生100年時代」という言葉を日常的に耳にするようになった。しかし、健康状態によっては、つらい老後が長引くだけという悲観的な未来になるかもしれない。

 WHO(世界保健機関)は、健康上の問題で日常生活が制限されない期間を「健康寿命」と定めている。厚生労働省の「令和2年版厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-」によれば、日本人の健康寿命と平均寿命の差は、男性で約9年、女性で約12年だという。もし、平均寿命だけが延びれば、健康でない老後期間が延びるというわけだ。

 長生きをしながら健康寿命を延ばし、高いQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を保つためにはどうすればいいのか。「様々なアンチエイジングの方法が提唱されていますが、中でも老化そのものへの根本的なアプローチが新潮流になりつつあります」と教えてくれたのは、グローバルニュートリショングループ代表取締役社長の武田猛氏だ。

 「現在の日本のアンチエイジングは、不調が現れた部位に対してピンポイントで効くサプリを摂取するなど、対処療法が中心です」と武田氏。例えば、膝の違和感が出た場合、グルコサミンを摂取するなどは分かりやすい事例だろう。武田氏は、「グローバルでは、老化の原因である細胞の機能低下を抑える『細胞ケア』を見据えたサプリや健康食品などの実用化が進んでいます」と語る。

「細胞ケア」で注目される食品素材への期待と可能性

 骨、臓器、筋肉、皮膚、毛髪、人間の全ては、約37兆個から成る細胞の集合体である。細胞が劣化すれば、身体の不具合や衰え、つまり老化に直結する。そこで目を付けたのが、劣化した細胞を再活性化させる仕組みだ。武田氏は、「近年の研究で、オートファジーやサーチュイン遺伝子という、細胞を再活性化させるトリガーとなる仕組みが詳細に解明されつつあります」と語る。これが、細胞ケアが世界的に注目される理由である。

 細胞ケアは、身体の一部に作用してアンチエイジングを促進する考え方とは異なる。細胞が再活性化することで、身体全体の調子を整え、不具合を少なくしようといった考えだ。老化に抗うアンチエイジングというよりも、正しく健康に老いるウェルエイジングと表現したほうが正しいかもしれない。すでに、サーチュイン遺伝子を活性化させるNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)やオートファジーを活性化させるポリアミンといった食品素材に注目が集まり、実用化も始まっている。

 サプリメントや栄養食品の大国と言えば、第一にアメリカが挙げられるが、細胞ケアに関しては、日本でも受け入れられる素地は大きいかもしれない。その理由のひとつを、武田氏は以下のように語る。

 「日本では、これまで食品の機能性表示制度には、国が個別に科学的根拠を審査する<特定保健用食品>と、国が栄養成分の規格基準を定め、国が認めた文言のみが表示可能な<栄養機能食品>しかありませんでした。しかし、2015年に<機能性表示食品制度>が施行。その食品が持つ健康をサポートする機能について、査読付き論文やデータといった科学的根拠が示されていれば、消費者庁への届け出だけで機能性の表示が可能になりました。これにより、日本の機能性食品市場はまさに花開いた。今後は、ウェルエイジングに効果があるサプリや機能性食品市場も活性化する可能性が高いと思っています」

 もうひとつの理由は、細胞再活性化に関わるオートファジーの基礎研究において、日本が圧倒的に世界をリードしていることだ。オートファジー分野における個人別論文の被引用数は、上位4人を日本人が占めている*。武田氏も、「日本発で世界に通用する細胞ケアのサプリや機能性食品が生まれる可能性があります」と期待を寄せる。

*出典: Scopus 原著論文のみ 2019.5現在