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ポストアンチエイジングの時代が始まる 細胞再活性化がウェルエイジングの新しいソリューション

注目高まる「細胞再活性化」のメカニズム

吉森氏
大阪大学栄誉教授
生命機能研究科長
医学系研究科及び生命機能研究科
教授
吉森保
生命科学者、専門は細胞生物学。医学博士。大阪大学理学部生物学科卒業後、同大学医学研究科中退、私大助手、ドイツ留学ののち、1996年オートファジー研究のパイオニア大隅良典先生(2016年ノーベル生理学・医学賞受賞)が国立基礎生物学研究所にラボを立ち上げたときに助教授として参加。国立遺伝学研究所教授として独立後、大阪大学微生物病研究所教授を経て、2010年から大阪大学医学系研究科と生命機能研究科教授を兼任。2018年生命機能研究科長。2019年紫綬褒章受章。

 細胞ケアによるウェルエイジングの鍵を握るオートファジー。自食作用とも呼ばれ、細胞の恒常性維持に大きな役割を果たす細胞の機能だ。一般的にその名が知られたのは、2016年に東京工業大の大隅良典栄誉教授がノーベル生理学・医学賞を受賞したことがきっかけだろう。大隅栄誉教授の愛弟子で、オートファジー研究の第一人者である大阪大学栄誉教授の吉森保氏は、「オートファジーには、大きく3つの役割がある」と述べる。

 1つ目は<飢餓状態のときに、細胞の一部を分解して栄養を作る役割>、2つ目は<細胞内の新陳代謝>、3つ目は<有害物質の選択的な除去>だ。細胞の再活性化によるウェルエイジングは、特に2つ目と3つ目の役割によるところが大きい。

 「そもそも、ひとつの細胞はタンパク質や核酸などの様々な部品が集まって形成されています。そして、細胞内部では、オートファジーによって常に各部品が少しずつ壊され、そして新たに作られています。これが<細胞内の新陳代謝>で、これにより身体の健康を維持されていることが分かりました」と吉森氏。続けて、3つ目の役割<有害物質の選択的な除去>も説明してくれた。

 「ここで言う有害物質とは、病原体、タンパク質凝集体、壊れた細胞小器官などです。まず、病原体が細胞に侵入したとき、オートファジーによりそれを隔離し分解してしまう。これにより、病原体による発病リスクを低下してくれます。次に、タンパク質凝集体の分解除去。パーキンソン病やアルツハイマー型認知症は、特定のタンパク質が神経細胞に溜まってかたまり(凝集体)を作ることで発症しますが、これも分解して除去します。また、壊れた細胞小器官の除去も行います。細胞小器官の中でも特にミトコンドリアが壊れると、中にある活性酸素が漏れ出てくるので非常に危険。この壊れたミトコンドリアも、隔離し分解します」

 オートファジーは加齢で増加する<ルビコン>という物質によりブレーキがかかるため、年齢を重ねれば病気になりやすくなる。心不全やがん、アルツハイマー型認知症なども、オートファジーの低下によって起こりやすくなるという。逆に言えば、歳と共に衰えるオートファジーを活性化できれば細胞も若返り、病気の予防にもつながって健康寿命が延びるということ。

 「もともと、細胞にはオートファジーなどの細胞の恒常性=細胞の健康を維持するシステムが備わっています。しかし、加齢や高脂肪食といった環境要因でそれらが低下してしまいます。それを食品成分や薬など様々な方法で取り戻す、あるいは低下を防止する。それが、細胞からケアするという考え方です。これからの健康は、キュアではなくてケアといった考え方が主流になるのではないでしょうか」と吉森氏は語る。

  • オートファジーとは

    細胞の恒常性を保つために細胞内の部品を回収して分解し、リサイクルする働きのこと。オートファジーができなくなったり低下した臓器では病気が起こることが、動物実験で確認されている。

  • サーチュイン遺伝子とは

    細胞が機能低下する大きな要因であるDNAの傷を修復するサーチュイン遺伝子。活性化することで、肌の悩みが改善したり、体力や気力が高まったりして若返りをもたらす。また、この遺伝子が活性化すると、オートファジーも活性化することが分かっている。

実用化で高まる「細胞再活性化」市場への期待

 オートファジーの低下防止には、いくつかの方法がある。例えば、傷ついた遺伝子を修復することから長寿遺伝子として注目されている<サーチュイン遺伝子>が活性化すると、オートファジーを活性化させる指令が下される。

 「他にも、高脂肪食を避けたり、カロリーを制限したりすることでも、オートファジーの低下を防止できることや、運動がオートファジーを活性化することも分かっています」と吉森氏。これらの日常習慣だけでなく、薬やサプリを使った活性化の研究も進んでおり、幅広い臨床応用を見据えているという。

 しかし現状では、「オートファジーの基礎研究では日本がリードしていますが、実用化は欧米に後れを取っています」といった懸念も示す吉森氏。その一方で、「大学など研究機関と大手企業、スタートアップ、社団法人などがタッグを組めば、大きなビジネスチャンスになることを伝えたい」と意気込みを語ってくれた。

 その意気込みに呼応するように、武田氏は「日本企業独自の成分として、オートファジー、サーチュイン遺伝子の両方を活性化させるザクロの腸内代謝物である<ウロリチン>という成分も実用化されています。これは、細胞再活性化市場のブレイクスルーになり得ると考えています」と明るい未来を見据える。

 機能性表示食品制度ができた今、サイエンスをマーケティングに使える土壌は出来上がっている。オートファジーによる細胞再活性化において、既に多くの知見を蓄えている日本。研究機関や大手企業、スタートアップなどが共創すれば、多くの人に、老後を健康的に過ごすウェルエイジングを届けられるはずだ。

阪大発ベンチャー「APGO」が企業と進める実用化

AutoPhagyGO(APGO)は、オートファジーを活用して生活者の健康寿命を実現することをミッションに発足。多様な企業の共創・協業を促進する目的を持ち、現在はダイセルや味覚糖など7社の企業と共同研究を進め、創薬、サプリ、化粧品の他、オートファジー活性化を計測する検査薬などを開発中。