コロナ禍の需要急増で物流の変革は待ったなし!
フィジカルインターネットの実現に向け、日米欧のキーマンが議論

慢性的な人手不足やデジタル化の遅れに加え、新型コロナウイルスの影響による輸送量の増加で効率改善が急務となっている物流業界。その抜本的な解決策として「フィジカルインターネット」というコンセプトが注目を集めている。フィジカルインターネットの本質とは何か。フィジカルインターネットの日本での実現に向け、いま取り組むべきことは何か。米国と欧州の世界的権威と、日本の官民の専門家が集い、日米欧3極をライブでつなぐ形で、有意義な講演と活発な議論が行われた。

主催者挨拶

フィジカルインターネットの
旗振り役として3つの活動を推進

一般社団法人ヤマトグループ総合研究所
理事長
木川 眞 氏

「当研究所は一昨年、ヤマトグループの創業100周年記念事業の一環として設立されました」(木川氏)。2019年からフィジカルインターネットによる物流の高度化をテーマに取り組み、これを日本に広めるための旗振り役を買って出た。

フィジカルインターネットの概念をひと言でいえば、物流の究極的なオープンプラットフォーム化だ。この概念を実際に社会に実装することを考えると、そのハードルは非常に高い。

ヤマトグループ総合研究所では主に3つの活動を進めている。1つ目は本シンポジウムであり、昨年に続いて今回が2回目となる。2つ目が研究会で、物流に関わる民間企業や関係省庁に参加してもらい、フィジカルインターネットの実現に向けた議論を重ねている。3つ目が懇話会で、フィジカルインターネットに興味を持つ人が個人レベルで自由に参加できる。

フィジカルインターネットとは、物流の究極的なオープンプラットフォーム化だと木川氏はいう。物流に関わる機材や人などのフィジカルな面と、データ基盤を含む標準化をバランスよく検討していく必要があると述べた。

基調講演

総合物流施策大綱と
物流効率化へ向けた政策とは?

国土交通省
総合政策局 物流政策課 課長
阿部 竜矢 氏

冒頭で、総合物流施策大綱(2017年度~2020年度)の概要を解説。同大綱は1997年から約5年ごとに発表され、第6次を数える。

「昨今の国内の物流問題を考えるとき、その原点となるのは労働力不足です」(阿部氏)。物流業界は慢性的な人手不足に苦しんでいる。トラックの積載効率は90年代に5割を超えていたが、今では4割を割り込み始めた。複数の事業者による連携やモーダルシフトなどを支援する現行の物流総合効率化法が施行されて5年強、240件ほどの認定事例があるが、今後さらに強化する方針だという。

阿部氏は複数のトピックを挙げ、物流業界の課題を明らかにした。特に課題が多いのは、食品流通業界だ。農水省が中心となり、パレット化や出荷拠点の集約、モーダルシフト、ICTの活用強化などに取り組んでいる。

また、あらゆる意味での標準化は物流の大きなテーマだ。外装やパレットなどのフィジカル面と、データや伝票などのソフトウェア面の両方の標準化が必要になる。昨年、加工食品分野では、官民を交えた協議会を立ち上げ、アクションプランを策定した。

戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)は内閣府の予算により民間のコンソーシアムで研究開発を進め、これを国交省や経産省が支援している。5年間で数十億円規模の大掛かりなプロジェクトだ。

物流業界の課題の中でも、トラック運転手の労働環境は深刻だ。労働時間が全職業平均より2割ほど長く賃金は1~2割低い。人手不足感が約2倍高く、高齢化が進んでいる。国としても、令和6年4月1日以降は時間外労働を年960時間(月平均80時間)以内とすることを罰則付きで推進するなど、様々な施策を取っている。2021年度から始まる次期総合物流施策大綱では、「簡素で滑らかな物流」「担い手にやさしい物流」「強くてしなやかな物流」の3つを柱に物流デジタルトランスフォーメーション(物流DX)を推進。フィジカルインターネットについても言及し、その動向に注目していく予定だ。

「2020年代の総合物流施策大綱に関する有識者検討会」提言(令和2年12月23日)の概要

最後に、令和3年度予算に関する主要事項と予算額を説明した。物流DXに関する予算を厚めに計上。物流生産性向上推進事業では、輸送網の集約、輸配送の共同化、モーダルシフトにあわせ、機械化や自動化に対して補助の上限額を上乗せする。

招待講演

今こそフィジカルインターネットへ向けた
産官学の連携を

日清食品株式会社
取締役
深井 雅裕 氏

「私たちは、【持続可能な未来の物流】を実現するために産官学が連携して『フィジカルインターネット』を実現する為のムーブメントを起こしたい!」という熱いメッセージで講演が始まった。

深井氏は物流の改善に向けて様々な取り組みをしてきたが、一企業が解決できる問題には限界があることを痛感している。「今こそ産官学が連携し、フィジカルインターネットの実現にむけた具体的な施策を進めるチャンスではないでしょうか」(深井氏)と聴衆に問いかけた。

2020年、コロナ禍による最初の緊急事態宣言が出された際、同社のカップ麵や袋麵は一瞬で店頭から消えた。自然災害や異常気象などが起きると、同社の受注量は通常の2~5倍に跳ね上がる。また、年末には需要が急騰するなど、一年を通して需要の変動幅が大きい。その度に物流がひっ迫し、物流がネックとなって需要に対応できない事態となっている。

同社は現在、複数の取り組みを進めている。まず、パレットによる配送だ。T12型パレット(1200mm×1000mm、12.4キロ)による標準化を3カ年計画で進めている。

また、異業種とのアライアンスも進めている。アサヒ飲料と提携し、トラック台数の削減を実現している。飲料は重いのでトラックに満載できず、荷台の上部空間が空く。ここに、軽量な同社の製品を積載してトラックの有効活用を図った。その結果、トラックの台数を20%削減したという。

それだけではない。日清食品の需要が高まるのは冬、アサヒ飲料は夏と反対になる。お互いの倉庫の空きスペースを共有し、一年を通して倉庫の有効活用を進めている。両社の提携は数少ない成功事例だが、このように個社ごとのマッチングによって物流業界全体を改善していくには時間と労力を要する。また、運よく提携先が見つかっても、データ連携の共通プロトコルがなく、お互いのシステムを接続するのに時間がかかる。

個社による対応ではなく、産官学の協力によるもっと大きな枠組みでコード体系やデータベースの規格、ハードウェアの標準化、必要な法規制などが進めば、スピード感を持って共同配送が進められる。

フィジカルインターネットの実現には乗り越えなければならない課題が多数あり、コストと時間もかかる。大切なことは、産官学の全関係者が同じ理想像を共有し、その実現に向けて小さな成功を積み重ねていくことだと述べた。

招待講演:ライブ講演

物流効率を革新的に高める
フィジカルインターネットのコンセプト

米国ジョージア工科大学
教授
Benoit Montreuil氏

フィジカルインターネットへの取り組みは2006年頃から始まった。物を動かす部分ばかりが注目されがちだが、フィジカルインターネットはもっと広義なコンセプトであり、商品の実現や展開方法、製造、組み立て、梱包、パーソナル化、再利用などが含まれる。

フィジカルインターネットとは、13のコンセプトをモザイクにしたものだ。

例えば、商品を包含するデータパケット、Pコンテナ、物理的な接続性、マテリアル・ハンドリング、コンテナ・ストレージシステム、認証されたオープンな物流サービスプロバイダーや物流制御、トランザクションの基盤、物流設備、道路、コンテナ化された物流機材やテクノロジーなどが含まれる。

インターネットにおけるクラウドのような、オープンな流通センターを数多く共有して効率よく物を届ける。最も近くて利便性の高い地点を割り出し、無駄なく最終目的地へ運び、輸送コストや人件費を大幅に削減する。

専用の物流システムから高度に接続された輸送、さらに効率的な分布を組み合わせていくことで、物流効率はさらに向上する。

企業や自治体が設備をオープンに共有し、クラウドのような物流システムを構築することで、物流効率が劇的に向上。

各社が自社設備を用いて特定の配送物を運ぶ旧来型のシステムを解消し、各社がお互いの設備をオープンに共有できるハブのような形で利用する。ハブを効率的につなぎ合わせ、オープンな物流ネットワークを作る。配送物はハブを経るごとに他の配送物と組み合わされ、効率的に目的地を目指す。コンピューティングでいうクラウドのようなファシリティだ。最も効率的かつ利便性の高いルートを割り出し、それによって最終目的地へと運ぶ。電子メールがインターネット上の複数のサーバーを経由して届くのと似ている。

100を超える設備をオープンに利用可能にしている米アメリコールド・リアルティ・トラスト社や、フルフィルメントWebサービスを展開する米アマゾン・ドット・コム社、中国の深圳市などの事例を紹介。空輸、船舶、ドローン、鉄道、モノレール、地下鉄、トラック、オートバイなど、あらゆるリソースを共有し、最適な形で活用できるフィジカルインターネットの概要を解説した。

パネルディスカッション

日米欧のキーマンが議論!
フィジカルインターネットの
可能性と求められる施策とは?

■モデレーター

株式会社野村総合研究所
主席研究員
藤野 直明 氏

「ヨーロッパでは持続可能性、強靭性をどう実現するかが課題となっており、フィジカルインターネットがその課題に応えることができる手段と認識されている」(Ballot氏)。

冒頭、まずBallot氏が公共政策としてのフィジカルインターネットについて言及し、ドイツで実証実験準備中の「SmartBox」を紹介した。化粧品メーカー7社とドラッグストアを中心とし、小売事業者5社が工場と店舗の間でプラスチック製容器を再利用することで、木製パレット削減、トラック輸送台数削減、CO2排出量削減を狙うものである。重要な点は、この取り組みでは物理世界とデジタルの両面から広い視野で官民が協力していることだ。この取り組みが成功すれば、他の国や企業へ広まっていくだろうと語った。

また、2031年の実現を目指してスイスで検討されている地下物流システムを紹介し、このようなシステムの実現には多くのサプライヤーや荷主の協力が必要になると述べた。

ドイツで実証実験準備中の「SmartBox」。

次に、阿部氏が日本の物流政策について語った。日本の物流業界ではまだフィジカルインターネットの考え方が浸透していないが、その前段となる物流DXという言葉は定着してきた。フィジカルインターネットは物流DXの究極の姿として5年後の大綱で具体的な施策に反映される可能性がある。究極的な目標は、恐らくフィジカルインターネット的な世界になろう。これを目指して様々な施策に取り組んでいくことになると述べた。

西野氏は、人口減少で省人化・効率化、コロナ禍で非対面・非接触が求められ、物流DXが加速化していると語った。フィジカルインターネットは、全ての事業者がオープンに利用出来るメリットがある。DXは事業者間の格差が生まれやすく、メリットと課題の両方を考え、進める必要がある。西野氏からBallot、Montreuil両教授に対し、質問が出た。コロナ禍で、欧米でのフィジカルインターネットの評価は高まったのか、Vector Free Logisticsが紹介されたが、物流に変化が起こったのか、カーボン・ニュートラルにフィジカルインターネットはどう貢献するのか。

仏国パリ国立高等鉱業学校
教授
Eric Ballot 氏

国土交通省
物流政策課 課長
阿部 竜矢 氏

経済産業省
物流企画室 室長
西野 健 氏

Ballot氏は、欧州ではコロナ禍によってフィジカルインターネットが大きく注目されていると回答。また、カーボン・ニュートラルの実現にはかなりの投資が必要になるので、まずは物流の効率性を進めて余力を生み出し、その余力を投資に回す考え方を提案した。加えて、欧州の最新の動きとして欧州物流革新協力連盟(ALICE)について報告した。この組織がフィジカルインターネットのロードマップを作成し、世界に提案している。これを各国の事情に合わせて導入していく必要がある。当事者間の利益やリスクを管理し、適用範囲と効果を最大化していくためのガバナンスが非常に重要になると述べた。

モデレータの藤野氏がベクトルフリー・ロジスティクスについてMontreuil 氏に質問。Montreuil 氏がコロナ禍における米国とカナダの間の陸上輸送の状況を披露した。物流はライフラインなので緊急事態下でもトラックの行き来は許された。但し、感染を防ぐために非接触による運搬が喫緊の課題となった。国や地域などをまたぐ境界線まで物を届けたらトレーラーを切り離し、もう片方から来たトラックがそれを引き継ぐ。非常に単純なコンセプトではあるが、これがフィジカルインターネットの原点だと解説した。

米国ジョージア工科大学
教授
Benoit Montreuil 氏

日清食品株式会社
取締役
深井 雅裕 氏

株式会社野村総合研究所
上級コンサルタント
水谷 禎志 氏

深井氏はフィジカルインターネットへの期待を述べた。多くのメーカーや卸事業者、物流事業者と会談してきたが、問題意識は同じであり、個社それぞれで独自の取り組みをすでに進めている。問題は、個別の企業や業界単位の取り組みでは限界があることだ。まずは標準化から始め、フィジカルインターネットの実現を目指すべきだと力説。企業投資を引き出すには説得力のある数字が必要であり、そのためには小さな成功事例を重ねる必要があると述べた。

水谷氏は商流と物流の電子データ交換(EDI)が課題であると述べた。日本では、メーカー、卸事業者、物流、小売事業者のEDIに互換性がない。さらに、メーカーと卸間の商取引のEDIが業種別に分かれている現状がある。この状態でフィジカルインターネットを実現するには無理がある。すべてを共通のEDIに変える施策も考えられるが、それではあまりにも時間がかかり過ぎる。現実的な代替案として、商取引のEDIはそのままとし、荷主と物流企業の間の物流EDIを国際標準を使って共通化し、商取引のEDIと物流EDIが接続できるように両者間に変換機能を設けるという提案があった。これには政策的なアプローチが必要になると説いた。

最後に藤野氏が、

  • ・ 欧州、米国では、「フィジカルインターネット」が長期構想を描きつつ、多数の主要な民間企業を巻き込み検討が進められている。これは、単に物流の効率化だけではなく、環境問題やCorona感染抑制などの視点を含んで持続可能な物流を実現するという公共政策の視点がある。
  • ・ 日本でも、“フィジカルインターネット”は総合物流施策大綱会議で話題になり、大綱では「物流DXの推進」とそのための企業間での容器とITの標準化が重要な施策として位置づけられた。これは画期的である。
  • ・ 日本の物流DX推進に際して、フィジカルインターネットは1つの有力なモデルになり得る。

と述べて議論をまとめた。

閉会挨拶

参加登録者が1000人を突破、
フィジカルインターネットへの関心の高さを実感

東京理科大学
教授
荒木 勉 氏

シンポジウムには、海外から45人、合計1,080人の参加登録があったと報告。オンラインには常時650人ほどの視聴者がいた。1年前のシンポジウムには約200人が参加したが、今回はその3倍強の参加者が集まり、日本でのフィジカルインターネットの関心の高まりを実感した。物流を変えたい、消費者の多様なニーズに応えたいなど、様々な思いを持って参加登録していただいたと考えている。

複数の企業やグループが自発的に協力し、物流を個別に効率化する取り組みが進んでいる。しかし、フィジカルインターネットは一個人や一企業では実現できない。業界を代表する大企業が他社を従える形で推進したとしても、やはり競合他社を拒絶する形になってしまっては大きくは広がらない。そこで、多くの企業が究極のオープン型の共同輸送に取り組めるようなムーブメントを、行政による支援を得て進める必要がある。

Ballot氏はALICEのロードマップを2050年から2040年へと早めているが、荒木氏がサブプログラムディレクターを務める内閣府のSIPスマート物流サービスはあと2年で物流のデータ基盤となり得るデータベースが完成する。これを発展させることで、日本も2030年頃には何らかの形を作り上げられるだろうと語った。

「本シンポジウムの続きは、ぜひフィジカルインターネット懇話会で語り合いましょう」(荒木氏)。物流に関心のある方はぜひ誘いあわせて懇話会に参加してほしいと述べてシンポジウムを締めくくった。

近日中に、シンポジウムの収録動画閲覧や講演資料ダウンロードができるサイトが用意される見通しである。

お問い合わせ

一般社団法人ヤマトグループ総合研究所

https://www.yamato-soken.or.jp/