日経ビジネス電子版 Special

デジタル大変革に突き進む世界 分断・対立・格差を超えて

サイバー空間とリアル社会の融合が加速している。世界中の経済や社会だけでなく、日常生活においてもデジタル領域が深く浸透。私たちのサイバー空間への依存度は増大の一途をたどる。サイバー空間が公共インフラとしての重要性を高める現在、あらためて向き合わなければならないのはサイバー攻撃の脅威である。サイバー犯罪は後を絶たず、その標的を拡大させている。デジタル技術を乱用したフェイクニュースや誹謗中傷の拡散も、今や大きな社会問題である。こうした中、国際会議「サイバー・イニシアチブ東京 2021」が2021年11月下旬に開催。サイバーセキュリティに関する世界各地の経験や知見、日本の取り組みが披露され、新しい国際秩序の形成についても議論が交わされた。ここではそれら講演の幾つかに注目し、エッセンスをお伝えする。

CYBER INITIATIVE TOKYO 2021

イベント概要
開催日    
2021年11月29日(月)、30日(火)
 
配 信    
オンラインライブ配信
 
主 催    
日本経済新聞社、日経BP
 
協 力    
一般社団法人日本サイバーセキュリティ・イノベーション委員会
慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート
 
 
協賛
ダイヤモンド
Diamond
   
  • Deloitte
 
プラチナ
Platinum
   
  • TRENDMICRO
 
ゴールド
Gold
   
  • BlackBerry Japan
  • クラウドストライク
  • ダークトレース
  • ディープインスティンクト
  • デル・テクノロジーズ
  • フォーティネットジャパン
  • NTTセキュリティ・ジャパン
  • 日本HP
  • SailPointテクノロジーズジャパン
  • セキュアワークス
  • ServiceNow Japan
  • 東京エレクトロンデバイス
 
 

「デジタル前提社会」が到来 サイバー脅威に協調して備えよ

初日のオープニングセッションに登壇したのは、「サイバー・イニシアチブ東京2021」の座長を務める村井純氏(慶応大学教授)である。村井氏はデジタル化の急速な進展に触れ、「少し前まではデジタルを導入することに取り組んだ段階。これからはデジタルが前提の社会となり、背後にサイバー空間を意識せざるを得ない。サイバーセキュリティのアプローチも見直す必要がある」と、現状認識の共有を求めた。

激化するサイバー攻撃 世界規模で攻撃対象を広げるランサムウエア

社会構造のデジタルへの転換がにわかに急がれた背景には、世界経済や人々の生活に大きな影を落とす新型コロナウイルス感染症の拡大もあった。ただ、コロナ禍で顕著になったのはサイバー攻撃の激化だ。

世界規模でランサムウエアによる攻撃対象が広がった。その裏では国家の関与が疑われるサイバー攻撃も頻発している。元米国土安全保障長官でチャートフ・グループ共同創設者・会長のマイケル・チャートフ氏は、「身代金の金額が上昇している。払うべきかどうかの判断も難しい。企業は脅威に対して被害に遭う領域を見定め、重要な資産の防御に備える必要がある。医療など重要インフラの根幹を狙うサイバー攻撃の危険性にも注目すべきだ」と力説。警察庁サイバーセキュリティ・情報化審議官の河原淳平氏も、「警察庁の調査では、日本の大手企業から中小企業まで、様々な分野の企業がランサムウエアの被害を受けている状況だ」と警鐘を鳴らした。

サイバー空間が社会インフラに必要な サイバーセキュリティの国際秩序

サイバー空間は、国境や時間、空間の制約を超えてデータや人々の自由な交流を可能し、まさに重要な社会インフラへと成長した。その一方、政治体制の異なる国家間、人々の間で分断や対立を生みつつあり、サイバーセキュリティには技術面にとどまらず、新たな国際秩序の形成が求められている。シンガポール・サイバーセキュリティー・コミッショナー、シンガポール・サイバーセキュリティー庁長官のデビッド・コー氏は、「サイバー空間の信頼性を維持するため、各国は協調してデジタル領域の新しいガバナンス、規範を作成する必要がある」と訴えた。新アメリカ安全保障センター(CNAS)最高経営責任者のリチャード・フォンテーヌ氏も「デジタル技術は、経済の安全保障に関わる重要な要素。民主的な国々が共通の目的のもとで信頼される価値観、共通の利益に基づいた規範づくりを行うべき」との見解を示した。

自由で公正な空間を守るため マルチステークホルダー参加も必須

一方、国家主導による国際ルール策定を懸念する意見もある。ハーグ戦略研究センター サイバー政策・レジリエンスプログラムディレクター、米戦略国際問題研究所(CSIS)シニアアソシエイトのアレクサンダー・クリムバーグ氏は、「インターネットはすべての人にエンパワーメントを提供する。自由で公正なサイバー空間を守るため、各国の政府だけではなく、マルチステークホルダーの参加による国際ルールづくりが必要」と強調する。安全・安心なデジタル社会に向けては、個人のリテラシーを高めることも重要だ。プログラマー/アプリ開発者の若宮正子氏は、「パソコンと違って、スマートフォンユーザーはどのようなセキュリティ対策が必要なのか知らずに使用している。高齢者を中心に、スマホユーザーへのセキュリティ教育を真剣に検討するべき」と主張。市民目線のサイバーセキュリティを提言した。

イベントの締めくくりに登壇した慶応大学教授の村井氏は、「2021年は世界中でデジタル前提社会を意識する元年だった。日本政府はデジタル庁を設置し、未来を見据えた体制を示したが、国民の意識改革も重要」と指摘。安全なサイバー空間の構築のため、一人ひとりが未来のセキュア社会に参加する重要性を訴えた。