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日米独の3研究機関のトップがRD20開催に向けて対談 世界の研究機関が連携し、カーボンニュートラル実現で結束を

 クリーンエネルギー技術の普及やカーボンニュートラル社会への移行に向けては、世界中の主要研究機関が研究成果や知見を共有して連携を進めていくことが重要だ。世界の二酸化炭素(CO2)排出量はG20各国・地域が大部分を占める。最先端の技術開発を行う研究機関には、研究アライアンスを発展させ、共同研究開発を含めた国際連携を強化することが求められる。

 「RD20=Research and Development 20 for Clean Energy Technologies(クリーンエネルギー技術に関するG20各国・地域の国立研究所等のリーダーによる国際会議)」は、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)が主催し、G20各国・地域から主要な研究機関、産業界の代表や専門家が参集し、国際共同研究、そして社会実装に向けた議論を行う国際会議だ。

 RD20を主催する産総研の石村和彦理事長と、RD20参加研究機関のうち米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)のマーティン・ケラー所長、独フラウンホーファーISE(太陽エネルギーシステム研究所)のハンス-マーティン・ヘニング所長が、日本とドイツをつないでオンライン対談を行った。

 3人のトップは、クリーンエネルギーの普及によるカーボンニュートラルの実現という共通の課題解決に向けた各機関の取り組みを語り合い、世界の研究機関が共創し知見を共有する場としてRD20の重要性を改めて確認、2022年10月に開催される第4回RD20に向けて協力していくことを約束した。

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RD20をG20各国・地域の
主要研究機関が

カーボンニュートラルの
知見を共有する場に

——地球温暖化問題など気候変動の解決に向けてはカーボンニュートラル社会への移行が大変重要です。RD20開催の目的とこれまでの成果を教えてもらえますか。

石村 RD20は、2019年1月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で、当時の安倍晋三首相が気候変動対応の観点から協力してイノベーションを加速するため、G20各国・地域からトップクラスの専門家を招待し、国際連携を進める場として日本主導で立ち上げた国際会議です。産総研が主催し、2019年から毎年開催しています。

石村和彦氏

国立研究開発法人産業技術総合研究所
理事長 兼 最高執行責任者
石村和彦氏

1979年4月旭硝子(現AGC)入社、2010年1月社長執行役員CEO、2015年1月会長、2020年4月産総研理事長(現任)、2018年4月経済同友会副代表幹事(現任)

 世界のCO2排出量の大部分を占めるG20各国・地域は、カーボンニュートラルの実現やクリーンエネルギーへの移行を促進するためイノベーションをリードすることが求められています。最先端の技術開発を行うG20各国・地域の主要な研究機関が研究アライアンスを発展させ、共同研究開発を含めた国際連携を強化したり、若手人材の能力開発を支援したりする役割を果たすことを会議の目的としています。

 2021年9~10月に開催した第3回RD20には、20の国・地域から24研究機関が参加しました。ここでは国際連携の強化を具体化するため、プロジェクト組成が目的のタスクフォースを立ち上げました。さらに、各研究機関のトップが参加するリーダーズセッションでは、カーボンニュートラル社会の実現に向けた長期的かつ横断的な課題について包括的な議論を行い、国際連携の一層の強化に向けた『リーダーズステートメント』をまとめることができたのは大きな成果です。

 RD20には、第一線の研究を行っている研究者、次代を担う若手研究者、産業界や金融セクター、行政など幅広い方々に関心を持ってもらいたいと考えています。

——RD20での国際連携を有意義なものにするため、どのようなことができると考えていますか。

ケラー 何よりも日本がRD20という国際会議を主催してくれていることに感謝しています。私はRD20が果たすべき重要な役割が3つあると感じています。

マーティン・ケラー博士

米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)
所長
マーティン・ケラー博士

独レーゲンスブルク大学で微生物学の博士号取得、2006年米オークリッジ国立研究所(ORNL)入所、2013年米科学振興協会フェロー、2015年NREL所長、Alliance for Sustainable Energy社長(現任)

 まず、世界有数の研究者が集まるRD20で課題や知見を共有し、連携していく場を提供することです。地球温暖化の課題はとても大きく1つの国や研究機関だけで解決できるものではありません。世界中が連携していくことが大変重要です。

 2つ目の役割は、次世代を担う若手研究者や学生を巻き込んで課題解決を目指していけるよう、人材の育成を進めて研究内容や連携への関心を高めていくことです。

 3つ目は、研究機関だけでなく産業界を巻き込んで、クリーンエネルギーやカーボンニュートラル技術の普及を推進することです。研究機関が気候変動のリスクを回避する技術を見極め、産業界と連携してカーボンニュートラルに向けて技術の普及を加速していくことが重要です。

ヘニング オンライン対談という形ではありますが、このようにRD20推進に向けた連携の機会を得られるのはうれしいことです。

ハンス-マーティン・オルデンブルグ博士

独フラウンホーファーISE(太陽エネルギーシステム研究所)
所長
ハンス-マーティン・ヘニング博士

1993年独オルデンブルグ大学で物理学の博士号取得、1994年フラウンホーファーISE入所、2014年独カールスルーエ工科大学教授、2017年フラウンホーファーISE所長(現任)

 地球温暖化という困難に立ち向かっていくには、RD20に参加する国・地域だけでなく、他の国・地域とも連携していくことが重要です。欧州では環境関連の技術開発や研究が進んでいますが、再生可能エネルギーのポテンシャルが高い国や地域で、グリーン電力を水素やその結合体の形態にして、エネルギー需要の大きな国や地域に輸送するといった世界の国々が連携する技術を確立する必要があります。

 また、RD20でエネルギー技術や活用に関する将来像を描き、政策立案に結びつけて社会実装していくべきです。研究開発した技術を社会に普及していくには、産業界との共創も大変重要です。

カーボンニュートラルの
研究開発が進む

それぞれの研究の
成果や知見を共有

——カーボンニュートラルに向けた、それぞれの研究機関の取り組みを紹介してもらえますか。

石村 産総研では、2020年にゼロエミッション国際共同研究センター(GZR)を設立しました。GZRを中心に、2014年に設立した産総研福島再生可能エネルギー研究所(FREA)などと連携して、カーボンニュートラル実現に向けた基礎から研究まで幅広く研究開発を行っています。

 カーボンニュートラルは単一の技術だけで実現できるものではなく、技術や知見を融合していくことが重要です。太陽光発電、風力発電、地熱発電などの再生可能エネルギーの開発を行うとともに、再生可能エネルギーの輸送・貯蔵のための水素利用技術、太陽光エネルギーを用いて様々な化学品を直接生産できる人工光合成、再生可能エネルギー由来の水素を用いた合成燃料であるe-fuelなどの開発を行うほか、これらの技術に関連した社会制度設計や評価法の分野でも研究に取り組んでいます。

 カーボンニュートラルを実現していくにはネガティブエミッション技術も必須です。産総研ではバイオマスエネルギー利用とCO2の回収貯留を組み合わせた「BECCS」(Bioenergy with Carbon Capture and Storage)や炭素固定量を増加させた革新的バイオマスによるCO2利用技術の研究に加え、産総研の強みである地質分野とエネルギー分野を融合させ、CO2を玄武岩のような天然鉱物に固定する技術にも取り組んでいます。

ケラー NRELのクリーンで衡平なエネルギーに向けた戦略は3つの重要な目標に向けられています。まず第一に、「Integrated Energy Pathways」(統合型エネルギー網)というコンセプトに基づき、クリーンエネルギー開発や電力網の刷新、また電力輸送や家庭やオフィスビルでのクリーン電力利用、さらに電力網のセキュリティーと耐性の強化による電力セクターのカーボンニュートラルを目指しています。現在の電力網を再設計し、今までとは違った形で電力制御することになります。

 次に「Electrons to Molecules」(電子から分子へ)は、いわゆる「電力を燃料へ」という考え方です。再生可能エネルギーにより生成した水素(H2)は、電子と化学エネルギーをつなげるクロスカップリングセクターとして重要な役割を担っています。それはまた、CO2を合成して天然ガスの代替となるメタン(CH4)を生成したり、窒素(N2)または高密度炭化水素燃料と合成してグリーンアンモニアを生成したりして、工業製品の生産や材料に活用することも可能となるでしょう。水素は将来、電力を輸送する媒介の役割を果たすことが期待されていますが、それ以外にも太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーから作られたH2とCO2を合成して製造される「e-fuel」に期待しています。

 「Circular Economy for Energy Materials」(循環経済に向けたエネルギー素材)では、直線型経済から循環型社会への移行に向けて製品リサイクルの可能性を改善するCO2排出が少ない持続可能な素材とシステムの開発や、製品のリサイクル性を高める研究を進めています。例えば小型・軽量な2次電池として広く活用が進むリチウムイオン電池は、産総研GZR研究センター長の吉野彰博士が2019年にノーベル化学賞を受賞した技術で、再生可能エネルギーの電力貯蔵用蓄電池として重要な役割を担います。携帯電話やノートパソコンなど幅広い電気機器の小型軽量化にも寄与していますが、電池の製造に必要なリチウム合金の再利用はあまり検討されていません。早い段階から蓄電に必要な資源の循環技術を考えていかなければいけません。

ヘニング 太陽光や風力などの再生可能エネルギー関連の業務に加え、フラウンフォーファー研究所では重要な業務の1つとして、複雑化したエネルギーシステムをデジタル化により自動制御をする研究や、CO2を排出しないグリーン燃料そして再生可能電力に向けた水素の開発は、エネルギーセクターにとって重要なだけではなく、化学産業に変革をもたらすでしょう。そして、化石由来資源を使用しないグリーン素材で現在のプラスチックを置き換えていく研究を進めています。電力セクターでCO2排出をなくすだけにとどまらず、レアアースなどの限られた鉱物資源や地球環境を効率的に活用する、持続可能な循環型社会の実現に取り組んでいるところです。

——それぞれの研究機関が共創できる分野や連携方法などについてどのように考えていますか。

石村 私たちは同じ方向に向かって研究開発を進めており、さまざまな分野で連携できると感じています。特にネガティブエミッションのような新技術に関する標準化や評価手法などは国際連携しやすい分野でしょう。

ケラー カーボンニュートラルをグローバル規模で拡大していくのは時間との勝負です。各国で行っている研究成果や知見を共有し、有望技術をいかに早く普及していくか議論していくことは大変重要です。

 例えば、今日私はドイツのフラウンホーファー研究所を見学させてもらいました。ここではアンモニア(NH3)を媒体に水素を貯留したり、燃料として利用したりする研究が進んでいます。燃料としてのアンモニアはCO2を排出しませんが、しかしながら、毒性の課題への対処、そして、アンモニアの燃料に伴う酸化反応により大気汚染物質の窒素酸化物(NOx)が発生します。こうした重要な課題をどう乗り越えるか、また研究成果の知財をどう活用して社会に普及させていくかなども検討すべき課題だと思います。

ヘニング 気候変動に関する政策決定に向けては、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が有用な科学的な研究の収集を行い、非常に重要な役割を担っています。RD20も同様に、研究機関が集まって地球温暖化問題や気候変動への具体的な対応を議論したり情報共有したりする場になると思います。先端技術の導入をRD20参加国・地域だけでなく、世界中の国々などに促す上でもRD20は大きな役割を果たすことができます。

石村和彦氏

カーボンニュートラルは
企業に大きなチャンス

研究機関との連携で
社会的なインパクトを

——カーボンニュートラルという大きな課題に取り組むには、研究機関だけでなく企業など民間セクターの役割が大きいと感じています。

石村 カーボンニュートラルはSDGsの目標13「気候変動に具体的な対策を」への取り組みという側面ももちろんありますが、今や産業界、金融界がカーボンニュートラルへの取り組みを投資判断の基盤とする動きが進展していて、企業にとって差別化する要素となっています。

 私自身、以前は旭硝子(現AGC)を経営する立場でしたが、企業がカーボンニュートラルに取り組んでいくことは、かつてのようにコスト要因ではなく、経済的にも社会的にも大きなインパクトを生む可能性のある大きなビジネスチャンスです。産総研GZR研究センター長の吉野彰博士もこの点を強調しています。今回の対談もカーボンニュートラルの取り組みを民間企業に促す狙いがありますが、RD20としてこの点を各国産業界へもっとアピールしていくことも重要です。

 民間企業がビジネスの一環でカーボンニュートラルに取り組むことで、社会に大きな影響を与えて変化を生み出すことができます。民間企業も努力していかなければいけません。産総研は日本の産業界を支える研究機関として、この分野で新たなイノベーションを生み出そうとする企業を全面的に支援していきたいと考えています。

ケラー 必要とされる規模感、そして速度を踏まえるとカーボンニュートラルは単独の研究機関の努力だけでは実現できません。NRELでは、スタートアップ企業から電力会社のような大企業まで非常に幅広く連携を進めています。カーボンニュートラルに向けて企業の経営判断を助け、規模の拡大に寄与することで社会的なインパクトを与えることができます。

 例えば、NRELでは米国の大都市ロサンゼルスの電力を100%再生可能エネルギーで賄う研究「LA100(The Los Angeles 100% renewable energy study)」を進めています。ガスタービンエンジンを稼働する燃料には水素がいいのか、バイオ燃料なのか、あるいはカーボンニュートラルLNG(液化天然ガス)なのか、どれが最適かまだ分からないことはたくさんあります。民間企業と連携してカーボンニュートラル技術を実装していくことが必要です。

ヘニング フラウンホーファー研究所のミッションは、研究開発の成果を産業界に移転していくことです。研究所で開発した新しい技術を製造機器に組み込み、製造業に利用してもらうことはこれまで行ってきました。けれども、カーボンニュートラルは今後どのような技術や仕組みが主流となるかはまだ分かりません。研究の成果や知見を提供して産業界に貢献していくことが大切です。

 企業のカーボンニュートラルに向けた関心はますます高まっています。将来に向けて気候の平準化に寄与し、コスト効率の高い最適なソリューションを見つけることが必要でしょう。企業や産業界との連携や協力がなければ、カーボンニュートラルという大きな課題を解決し、持続可能な経済と社会に移行していくことはできないでしょう。

石村 多くの国が2050年のカーボンニュートラル実現を目標に設定していますが、カーボンニュートラルは1つの研究機関あるいは1つの国だけでは実現できません。国際連携が重要です。RD20はカーボンニュートラルを実現するための重要な枠組みです。

 私たち3つの研究機関には、太陽エネルギーの研究に始まる共創を長く続けてきた歴史があります。RD20を通じて私たちの経験やこれまでの連携を、もっと幅広く実りのある共創につなげていきたいと考えています。

 RD20では、クリーンエネルギー技術の国際連携を推進するため、産学官を含むステークホルダー間の新たなパートナーシップ構築を強化しています。

 ぜひ一緒にやっていきましょう。

RD20に寄せて

カーボンニュートラルは、世界中が解決策を求める、企業にとって魅力的なビジネスチャンス。

この観点からも、カーボンニュートラルの実現に国際社会とともに取り組むRD20や産総研GZRの活動に、産業界も注目していただきたい。

吉野彰 博士

産総研

ゼロエミッション国際共同研究
センター長

吉野彰博士

1972年旭化成工業(現・旭化成)入社、2017年名誉フェロー。
2019年スウェーデン王立科学アカデミー ノーベル化学賞受賞。
2020年産総研フェロー兼エネルギー・環境領域
ゼロエミッション国際共同研究センター長

RD20 次回開催告知

第4回RD20国際会議リーダーズセッション
開催日 ━━ 2022年10月6日(木)
開催場所 ━━ 東京プリンスホテル

関連リンク

第3回 RD20(2021年度)

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