DXをビジネス成果につなげるには、経営層やビジネス部門、IT部門、ファイナンス部門のテクノロジー投資に対する共通理解が必要だ。それには、デジタル時代に即したITファイナンスプロセスの高度化が必要になる。Apptioは、これを実現するための方法論である「Technology Business Management」に基づき、SaaSソリューションと具体的なアクションを示すフレームワークを提供している。
増え続ける既存システムの維持・運用費がDXに向けたシステム開発の足かせになっている。経済産業省がDXレポートで提示した「2025年の崖」を例に挙げるまでもなく、日本企業にとっては、これがDXの進展を妨げる大きな壁といえるだろう。
総務省の情報通信白書によると、日本企業のIT投資額は1995年ごろから増えておらず、ほぼ横ばいの状況。またDXレポートでは、このまま手をこまねいていると、既存システムの維持・運用費と新たなシステムの開発費の割合が1:9になるとも指摘している。
ただ一方で、気になる状況もある。これについてApptioの成塚 歩氏は次のように紹介する。「私が日本企業のCIO(最高情報責任者)やITリーダーと話す限りは、『年度末に必ずIT予算が余る』という声が多く聞こえてきます。つまりこれは、やるべきことがあるにもかかわらず、ITファイナンスが最適化されていないことを意味しています。この状況を改善し、DXに向けたIT投資を積極的に行える環境を構築することが急務です」。
ITファイナンスの見直しを行う際に指針となるのが「TBM(Technology Business Management)」だ。これは、ITファイナンスプロセスの高度化を実現し、テクノロジー投資によるビジネス価値の最大化を実現するための方法論。米Apptioの創業者であるサニー・グプタ氏が2007年に提唱したもので、同社が2012年に設立した米国のNPO法人「TBM Council」でも、全世界の1万人を超えるビジネスリーダーにより議論されている。
「これを参照することで、DXを支えるためのITファイナンス戦略を描きやすくなります」と成塚氏は説明する。
TBMは①TBMフレームワーク、②TBMタクソノミー、③TBMモデル、④TBMメトリクス、⑤TBMシステムの5つで構成されている。このうち、中核的な役割を果たすTBMフレームワークは、ITコストを管理する部門向けの方法論である。
TBMフレームワークでは「経費の継続的な削減」と「新規開発投資の最適化」の2つをゴールに設定している。「経費削減だけでビジネス貢献度を高めることは困難なため、新規開発投資も同時に考えることがポイントです。イノベーション創出、アジリティ向上といったビジネス部門の要求を踏まえ、投資を再配分するのです」(成塚氏)。
取り組みに先立って必要なのが現状を可視化することだ。既存データをただ可視化しても、次に取るべきアクションは見えてこない。例えば、総勘定元帳のデータには、ハードウエア/ソフトウエアなどの「勘定科目」、セキュリティー対策、サポートサービスなどの「コストセンター」の2軸しかないからだ。「セキュリティー対策ソフトに使っているコストの総額は可視化できても、『どのベンダーの製品か』『個々の価格は』などが見えません」と成塚氏は言う。
そこで同社は、「プロジェクト」「アプリケーション」「ユーザーの利用状況」といった軸を追加することを提唱している。その上で、集めたデータを分類・再配賦し、どこでどのようなコストが生じているかまで可視化するという。
「こうして出来上がるIT可視化モデルをTBMタクソノミーと呼びます。これを使えば、『どの部門がどのインフラ上でどのアプリケーションをどのくらい使っているのか』などの分析が行えます。特定アプリの利用頻度が高い部門に課金額を増やす、オーバースペックなインフラのサービスレベルを下げるといった提案が行えるようになるでしょう」と成塚氏は語る(図1)。
もちろん、これらの提案はIT部門の独断で行うべきではない。経営層やビジネス部門、ファイナンス部門との合意が前提であり、その意味でTBMフレームワークはITファイナンスを共通言語化するためのツールといえる。IT部門とステークホルダーの対話を促進し、DXを阻害する組織内の分断を改善することができるだろう。
Apptioは、企業が一連の取り組みを進める際に必要なソリューションも提供している(図2)。具体的には、必要なファイナンスデータを特定し、既存データとの比較で足りないものを把握。既に存在するデータはツールによって自動で収集し、TBMタクソノミーを構築する。同時に、誰もが簡単に現状を確認できるダッシュボードも提供。これらを包含したソリューションが「ApptioOne」だ。
「世界1800以上の企業との取り組み経験、237のユースケースを基に、必要なデータのテーブルやカラムを的確に定義できます。IT予算と実績データの不整合や改善点を提示するほか、修正予算案をご提案することも可能です」と成塚氏は説明する。
DXを阻害するITファイナンスの問題。解決に向けては単にデータを見るだけではなく、全社のITファイナンスに対する見方や改善に向けた足並みをそろえることが不可欠だ。TBM、およびその実装に向けたノウハウを有するApptioの提案は、取り組みを進める上で大いに参考になるだろう。
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