ロイヤル オーク

いま最も手に入りにくい腕時計の一つ。「ロイヤル オーク」は、なぜ入手困難なのか? いま最も手に入りにくい腕時計の一つ。「ロイヤル オーク」は、なぜ入手困難なのか?

数ある高級時計の中でも、図抜けた人気を誇るモデルがある。
それが1875年に創業した名門オーデマ ピゲの
アイコンウォッチである「ロイヤル オーク」だ。

今年50周年を迎える現代まで、
基本スタイルを変えることなく受け継いできた時計界のマスターピースは、
なぜこれほどまで熱狂的に愛され、そして入手が困難なのか?
その理由を、今ここに紐解く。

初代「ロイヤル オーク」
ジェラルド・ジェンタ

上/チューリッヒの高級時計店の広告に登場した、初代「ロイヤル オーク」。時計をメインとしたビジュアルの下には「個性派が身に着ける高級時計」というキャッチコピーが入っており、この時計が誕生当時から特別な存在であったことを物語っている。
左/ジェラルド・ジェンタは1931年スイス生まれ。ジュエリーデザイナーを経て時計デザイナーへ転身。様々な時計ブランドと仕事をし、数多くの傑作を生み出した。

勘違いから生まれた
初代「ロイヤル オーク」

そもそも「ロイヤル オーク」とはどのような時計なのか? 一言で表すなら、現代の高級腕時計トレンドのど真ん中に位置する“ラグジュアリースポーツウォッチ”の原点、ということになる。そのプロジェクトの始まりは1970年のことだった。イタリア市場からの要請を受けたオーデマ ピゲは、天才時計デザイナーのジェラルド・ジェンタに無茶な依頼をした。“革新的なスティール製ウォッチ”のデザインを翌朝までに欲しい、と。彼はなんとその難題に応え、「一晩」でスケッチを上げた。ただし、完成させたのは、単なるスティール製ウォッチではなかった。実は、ジェラルド・ジェンタは、依頼を受ける際に大きな勘違いをしていた。革新的な“防水”ウォッチのデザインだと思っていたのだ。

防水性を備えるということは、ケース構造を吟味する必要があり、直径が大きなスポーツウォッチということになる。そこでジェンタは当時の標準だった36㎜サイズを大きく上回る39㎜というサイズを提案した。しかもケースやベゼルは力強い8角形になっており、ベゼルごとビスで固定するという大胆なデザインを考案する。これはジェラルド・ジェンタが幼少期に見た潜水士のヘルメットの力強い形状をイメージしたものだった。
いうなれば時計界の常識を打ち砕く前代未聞のスポーツウォッチだったが、当時のCEOジョルジュ・ゴレイには何か感じるものがあったのだろう。反対意見を退け、1970年4月、プロジェクトをスタートさせた。

しかし時計製造は困難を極めた。何よりも難しかったのは、その形状を作り上げることだった。平面を組み合わせた美しい稜線で構成されるケースやベゼル、そしてブレスレットを、硬いステンレススティールで作る技術が当時はまだなかったのだ。そのためプロトタイプの製作には加工しやすいホワイトゴールドを使用し、そこから約2年をかけてディテールの検討を重ねることで、1972年の4月15日に「ロイヤル オーク」は発売される。
販売価格は、ステンレススティール製にもかかわらず、ゴールドケースのドレスウォッチよりも高価だった。それだけ加工に手間がかかっていた証拠であり、その造形美と立体感、上質な仕上げから、のちに“ラグジュアリースポーツウォッチ”と呼ばれるようになるのだった。

ウォッチバレー 時計師
クロノグラフムーブメントCal.4401

上/オーデマ ピゲは1875年に、“ウォッチバレー”と呼ばれるジュウ渓谷にある小さな町ル・ブラッシュにて創業。北向きに開けられた大きな窓からは自然光が差し込み、時計師の手元を明るくする。社屋は近代化したが、この変わらない美しい自然の中で、美しい時計を作っているのだ。
下/50周年記念ロゴを使用したクロノグラフムーブメントCal.4401。ブリッジのコート・ド・ジュネーブ仕上げなど、細部まで丁寧な仕事をしている。

丁寧な手仕事がもたらす
審美性と希少性

1972年に誕生した初代「ロイヤル オーク」は、硬いステンレススティール素材を丁寧に切削し、パーツの面にヘアラインやポリッシュの仕上げを行うことで立体感を表現。メリハリのある輝きを作り出した。こうした仕上げは、今も継承されている。
現在は加工機械が進化しているが、それでもケースとブレスレットは製造だけでも約5時間。さらに162の工程があるという仕上げ作業にも同等の時間がかかるので、一つの時計の外装を作るだけでも、最低10時間はかかる。

さらに「タペストリー」と呼ばれるダイヤル装飾も、かなり凝っている。この模様はずっと使い続けられている古いギヨシェマシンで加工している。しかも光を綺麗に反射させるために精巧な台形型になっており、ダイヤルの中央に行くほど間隔を狭くするなど、その工程はあまりにも精緻だ。
「ロイヤル オーク」は誕生から今日まで、驚くほど手の込んだケースとブレスレット、ダイヤルデザインを続けてきた。そのため生産本数を大幅に増やすことができない。常に品薄状態になってしまうのには、こうした理由がある。

しかも搭載するムーブメントも最高峰だ。初代モデルには自動巻きムーブメントCal.2121を採用した。これはドレスウォッチにも使用される高級機で、スポーツウォッチに搭載するには望外の極薄ムーブメントだった。
そして現在の「ロイヤル オーク」には、話題のコレクション「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」でも使用されるセンターセコンド式ムーブメントのCal.4302や、一体型のクロノグラフムーブメントCal.4401など、最新型の完全自社製ムーブメントを搭載している。どれもハイビート&ロングパワーリザーブの高性能機であり、しかもパーツの仕上げも美しい。これもまた製造に時間がかかるポイントであり、やはり生産本数を増やすことを難しくする理由の一つだ。

今年の新作となる「ロイヤル オーク オートマティック」、ケース径は37㎜。Audemars Piguetのアプライドロゴが24KGになり、仕上げの美しさがより明確になったベヴェリングのサイズ変更など、あしらい方を変え、これまでと違った表情になった。タペストリー模様や細部の仕上げなど、ルーペでじっくり堪能したい時計である。

「ロイヤル オーク」ブレスレット

着用感を高めるためにブレスレットを変更しているが、新しいデザインに合わせてラグ部分も変更しており、ブレスレットと連続させるように台形型になった。こういった小さな熟成を50年間も積み重ねてきたのだ。

完成されたプロポーションを
熟成させた最新モデル

1972年のデビュー以来、大きな仕様変更をしていない「ロイヤル オーク」だが、50周年を迎えるにあたって、ディテールのブラッシュアップを行った。
印象的なのはダイヤル周りで、12時位置に入っていた「AP」ロゴがなくなり、「Audemars Piguet」のアプライドロゴに変更してスッキリとした印象にした。また、ダイヤルの分目盛りをタペストリー部分に直接プリントするようにしている。モデルによって長さを調整していたバーインデックスは、全コレクションを通して統一の長さにした。

ケースからブレスレットへとつながるラグ部分の斜面(ベヴェリング)の仕上げも変更され、ポリッシュ部分がより広くなったことで、立体感が増している。そしてブレスレットは、ケース側から徐々に薄くして着用感が高まるように仕様変更を行った。ちなみにゼンマイを巻き上げるローターは、50周年を記念する特別なデザインとなっている。
どの変更点も、旧モデルと見比べなければ気が付かないかもしれない。しかしこういった小さな進化と熟成を積み重ねてきたからこそ、「ロイヤル オーク」は時代を超えて愛されるマスターピースとなったのだ。

近年の時計業界では、ラグジュアリースポーツが大きなブームとなっている。スポーツウォッチの使いやすさと美しい仕上げの満足感、そして薄型ケースが作り出す着用感の良さなど、オールマイティな能力が評価され、次々と有名ブランドが参入している。
しかし「ロイヤル オーク」は、自らが作り出したスタイルを変えることはない。ジェラルド・ジェンタが生み出した革命的なデザインを守り、丁寧にケースやブレスレットを仕上げ、細心の自社製ムーブメントを搭載するという基本を、しっかり守るだけである。
その品質の高さと手間の多さゆえ、これ以上の量産は不可能であり、手に入れるために何年も待たされる状況は変わらないだろう。しかしそれだけの価値はある。「ロイヤル オーク」を手にするということは、時計界のレジェンドを手にするということなのだから。

21_21 DESIGN SIGHTにて開催。

見て、触れて、学べる
「ロイヤル オーク 時を刻んだ50年」

傑作「ロイヤル オーク」の50年の歩みを、見て、触れて、学べるエキシビションが開催。
1972年発表当時のモデルなど、数々の希少なヴィンテージモデルの他、
初公開となる当時のデザイン画や制作における技術的な著述、
広告ビジュアルといった貴重な資料を展示。
また、アイコニックな八角形ベゼルの静密な磨きを見学できるコーナーもあり、
多角的に「ロイヤル オーク」の世界を楽しめる。入場料は無料だが、事前予約をしておきたい。

見て、触れて、学べる「ロイヤル オーク 時を刻んだ50年」 展示会場
見て、触れて、学べる「ロイヤル オーク 時を刻んだ50年」 外観

開催概要

会期:
2022年4月15日(金)〜6月5日(日)
休館日:
会期中無休
開館時間:
11:00~19:30(最終受付19:00)
入場料:
無料(事前予約優先)
会場:
21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー3
(東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン)
HP:
https://borninlebrassus.audemarspiguet.com/ro50event

お問い合わせ

オーデマ ピゲ ジャパン

TEL 03-6830-0789

https://www.audemarspiguet.com/com/ja/

制作=プレコグ・スタヂオ
文=篠田哲生