日経ビジネス電子版 Special

持続可能な地球環境と
社会の構築をめざし
イノベーションを推進

科学技術振興機構研究開発戦略センター(CRDS)は、日本の科学技術イノベーション政策に関する調査、分析、提案を中立的な立場で行うシンクタンクとして、さまざまな分野で調査、分析、戦略提案を行っている。二酸化炭素(CO2)をはじめとした温室効果ガス排出の実質ゼロをめざす「カーボンニュートラル」は世界共通のテーマ。科学技術を通じた貢献の観点から検討を重ね、提案を発信する同センターの活動を紹介する。

中立的な立場から
科学技術動向の俯瞰と
戦略提案を行う

研究開発戦略センター(CRDS:Center for Research and Development Strategy)は、日本の科学技術イノベーション政策に関する調査、分析、提案を中立的な立場で行う組織として、2003年7月、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)内に設けられたシンクタンクである。同センターで環境・エネルギーユニット ユニットリーダーを務める中村亮二氏は、センターの活動を次のように紹介する。「CRDSは科学技術分野に基づいた4ユニット(環境・エネルギー、システム・情報科学技術、ナノテクノロジー・材料、ライフサイエンス・臨床医学)と、横断的なテーマを扱う2ユニット(科学技術イノベーション政策、海外動向)で構成されています。その活動は、大きく“俯瞰”と“戦略提案”の2つに分かれます。“俯瞰”とは国内外の社会動向や科学技術イノベーションの状況、政策などを幅広く調査するもので、“戦略提案”は俯瞰に基づき特定のテーマを抽出し、それについて今後取り組んでいくべき課題やあるべき方向性などを検討し、提案として取りまとめる活動です」。俯瞰と戦略提案、この2つの活動がCRDSの柱となっている。

中村亮二 氏 国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)環境・エネルギーユニット ユニットリーダー
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)
研究開発戦略センター(CRDS)
環境・エネルギーユニット ユニットリーダー
中村亮二 氏

同センターでは2年に1度、分野別に「研究開発の俯瞰報告書」を作成、公表している。社会は目まぐるしく変化し、先を見通すことが困難な時代になっている。学問分野は多岐にわたり、細分化し、研究者自身にとっても近隣分野で何が起きているかがわかりにくくなっている。そのため同センターは独自のネットワークを活かし、多数の学協会関係者や研究者の協力の下で報告書の作成を進めている。

科学技術イノベーション政策の現場では気候変動への対応が大きなテーマになっている。特にここ数年は温室効果ガスの排出を実質ゼロにする“カーボンニュートラル”という言葉が重要なキーワードとして取り上げられるようになっている。同センターでもカーボンニュートラルの課題に対する調査、提案に注力している。

カーボンニュートラル実現に向けて
大学や公的研究機関の活躍に期待

カーボンニュートラルについて、日本政府は「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすることをめざす」と宣言している。これについて中村氏は次のように指摘した。「カーボンニュートラル実現には規制、制度、国際連携、さらには金融などを含めたあらゆる方策を総動員する必要があります。科学技術もその一部であり、CRDSは主に大学や公的研究機関で行われる基礎、基盤的な研究や応用研究がその実現にどう貢献できるか、あるいはどう貢献すべきなのかという観点から重要課題を探索し、調査しています」。

同センターが最近注目するカーボンニュートラルに関する研究分野を3つ紹介する。1つ目は“ネガティブエミッション技術”だ。カーボンニュートラルに関する多くのシナリオ分析研究では、電源の脱炭素化、省エネ、電化・代替燃料などの手段に加えて、ネガティブエミッション技術の導入の必要性を示唆する結果が示されている。ネガティブエミッション技術には工学的な手法で大気中のCO2を捕集し、化学反応などを利用して分離回収する方法に加え、植林や森林管理、海洋生物によるCO2の吸収・固定、農地土壌への炭素貯留など、植物を介した手法が注目されている。しかし後者に関しては大規模に展開すると既存の産業や地域社会との間でさまざまな軋轢が生じる可能性があるなど、その実施に向けて予め考慮すべき課題も多い。こうした課題に全国各地の大学や公的研究機関の研究者が地域の方々とともに取り組み、どうすればうまく進められるかを考えることが社会実装を進めるためには重要になる。

次に“デジタルツイン”がある。これは現実世界の情報をサイバー空間内に取り込み、現実世界のモノやシステムを複製した仮想世界を構築する、一種のシミュレーション技術である。エネルギー関連機器の開発や運用・保守などに役立つほか、都市や気象・気候分野でも活用が期待されている。同センターではデジタルツインが今後の社会を支える基盤技術のひとつと考え、その重要性を提案した。3つ目はエネルギーの需要と供給を調整するためのエネルギーマネジメントシステム(EMS)に関する研究開発である。太陽光発電などの再生可能エネルギーや蓄電池の導入が進んだ場合、電力ネットワークは従来のように一方通行で供給される世界ではなく、一般家庭も供給する側になるような、ある意味双方向的なネットワークになる可能性がある。そのような社会において市民一人一人にどのような意識変化、行動変化が起きるかといった部分は、研究対象として重要になると考えられている。

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