DXを成功させる
3つのポイント
日本企業の勝ち筋とは?

デジタル技術によって世界のビジネスは大きく変わっている。時価総額ランキングの上位にはアップルやマイクロソフト、グーグルの親会社、アルファベットといった米IT(情報技術)企業が並び、自動車業界にITを持ち込んだ米テスラも時価総額でトヨタ自動車を圧倒している。そんな世界で、日本企業はどう変革し、戦っていけばいいのだろうか。『アフターデジタル』『スケールフリーネットワーク』(ともに日経BP)などDXに関する著書も数多いフューチャリストの尾原和啓氏に聞いた。
SPECIAL INTERVIEW
 日本で「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が叫ばれるようになって久しい。しかし、いかにビジネスにデジタル技術を取り入れるか、四苦八苦しながら取り組んでいる企業もまだ多い。

 では、日本企業がDXを成功に導くには何が必要なのだろうか。尾原氏は、3つのポイントを挙げた。1つ目はDXの本質的な意味である「価値DX」を理解すること。2つ目は、「多産多死」思考への切り替え、そして3つ目は、「中長期的な視点」を持つことだ。順番に見ていこう。

目指すべきは「価値DX」

尾原 和啓氏
尾原 和啓
フューチャリスト。京都大学大学院で人工知能を研究。マッキンゼー・アンド・カンパニーやNTTドコモ、グーグル、リクルート、楽天など数多くの企業で新規事業立ち上げを担う。経済産業省対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザーなどを歴任。著書は『ITビジネスの原理』『ザ・プラットフォーム』『アフターデジタル』『ディープテック』など多数。
 日本企業が進めているDXには、「業務DX」「事業DX」「価値DX」 の3つが混在している。この分類は西口一希氏(M-Force共同創業者、Strategy Partners 代表)が提唱した概念である。「業務DX」は、今ある業務をデジタル化することで自動化したりコスト削減につなげたりする段階。例えば、従来、書類にハンコを押していた稟議(りんぎ)をデジタルに置き換えるのは、この業務DXに当たる。

 次の「事業DX」は、現在の事業をデジタル世界へと持っていくこと。ビジネスをオンライン化することで物理的制約を超えた規模拡大が可能になったり、データを取って個別最適化できるようになったりと、既存のビジネスをデジタルによって強化できる。従来はCD-ROMで販売していたパソコンソフトをダウンロード販売に切り替えるのが、事業DXの一例だ。

 日本で「DX」と言えば、この2つをイメージする人が多いが、「本質はそこではない」と尾原氏は指摘する。本来、DXとは「デジタルシフト」ではなく「デジタルトランスフォーメーション」、つまり非連続な変革を起こすことだ。「これまでは提供できなかった価値」を、デジタルを使って顧客に提供していくことが最終目標となる。

 価値DXの例として尾原氏は、中国で6億人が利用しているという「平安(ピンアン)保険」を挙げる。保険会社は顧客がケガをしたり、病気になったりしたときに、後からお金を提供する。つまり、顧客との接点は事後、発生する。

 ところが平安保険のアプローチは違う。顧客を健康にするために、事前にさまざまな施策を打っている。例えば顧客に万歩計を配布し、歩くだけでポイントがもらえる仕組みを導入した。ポイントを獲得するためには1日1回アプリを利用する必要があり、顧客は自然と健康に関する情報に触れるように設計されている。

 さらに医師による年中無休のチャットを使った無料問診サービスを提供。「本来病院に来なくても大丈夫な人」の受診を減らす一方で、本当に必要な人はアプリ上で病院の予約ができる。このように健康に関する総合的なサービスを提供することで、平安保険は医療費の削減に貢献し、顧客への保険金の支払額を抑えた。その結果、顧客が払う保険料も低額に設定できるようになった。

 これまで傷病という「点」でしか顧客をサポートできなかったが、デジタル技術によって、ずっと顧客に寄り添う「線」で支援できるようになった。それにより、平安保険が提供する価値も「『トラブル時のお金の憂いを消す』から、『人生における健康の憂いを消す』という保険会社が本来実現したかった価値へと変化した」と尾原氏は解説する。

 このように、デジタル技術を活用して「自分たちは本来、どんな価値を提供するための存在なのか」という点にまず立ち戻り、その後に提供する価値を広げていくのが「価値DX」だ。ただし、DXのゴールである「価値DX」にたどり着くためには「業務DX」や「事業DX」を着実に実行し、価値DXができる体質となっていることが前提となる。

「失敗を減らす」から
「失敗に学ぶ」へ

 2つ目のポイントとして挙げた「多産多死」思考を、日本企業は苦手とする。それは「過去の成功体験」に起因すると尾原氏は指摘する。製造業で成功してきた日本は「いかに失敗を減らすか」を追求することが勝ちパターンだった。品質のばらつきをなくし、安心安全な製品を安く提供するには、失敗の削減こそが最も効果的だったのだ。このため今の日本企業は、組織形態も「失敗しないこと」に最適化されている。

 ところがDXは「トランスフォーメーション」という言葉の通り、形を変えていくもの。何が成功するかは分からない中で新しいことに挑戦するため「多産多死」が条件となる。だからDXを成功させるには「できるだけ多くの挑戦をして、失敗から学ぶ」というトライアル・アンド・エラーを高速回転できる組織作りが重要だ。

 よくDXの成功例として取り上げられるシンガポールのDBS銀行は、「(米アマゾン・ドット・コムの創業者)ジェフ・ベゾスならどうするか?」と常に自問し、デジタル時代の銀行の姿を開拓し続けている。2万2000人の従業員一人ひとりが、まるでスタートアップであるかのようにいろいろな挑戦を仕掛けられる体制を作り、英金融誌で「世界最高のデジタルバンク」に選ばれるまでになった。そんなDBSでも、DXの前提条件として「デジタルで簡単に新しいことを試し、次につなげられる土台作り」には時間をかけて取り組んだと尾原氏は強調する。

 「今ある業務を自動化し、失敗を減らしてコスト削減しよう」という考えで業務DXを進めると、「多産多死で失敗から学ぶ」という観点が抜け落ちてしまうことが多い。だがDXを成功させて新たな価値を生み続けていくには、組織形態や会社の文化といった根本的な部分から変革していく必要がある。

技術革新が起こす
非連続な変化に備える

 3つ目のポイントは「中長期的な視点」だ。今進んでいるDXは、あくまでインターネットとモバイルという2大革命が起こったことによるトランスフォーメーションだ。平安保険の例に見られるように、リアルの体験をネットで上書きすることで新たな価値が提供できるようになった。尾原氏は、これを「短期のDX」としている。

 一方、根本的な変化を前提にしたときに我々はどう事業を設計すべきなのか、というのが中長期的な視点だ。中長期的な視点で考えると、ゲームのルールを根本から変えるような技術革新が起こり、社会に非連続な変化が起こってくる。米国ではこれを「エクスポネンシャルテクノロジー(指数関数的技術)」と呼ぶ。

 この中長期的な視点における変革を『DXの思考法 日本経済復活への最高戦略』(西山圭太著、冨山一彦解説/文芸春秋)では「インダストリートランスフォーメーション」と表現しており、東芝の島田太郎社長兼最高経営責任者(CEO)は、量子分野における非連続な変化を「QX(クオンタムトランスフォーメーション)」と呼んでいる。

 今とは全く異なるルールへとゲームチェンジが起こることを想定し、中長期的な視点から逆算して、現在必要な経営戦略を考えている日本企業は少ない。

 この例として尾原氏はテスラを挙げる。テスラは自動車業界に変革をもたらした電気自動車(EV)の会社、というイメージが強い。ところが、「実はテスラのミッションに『EV』という言葉はない」と尾原氏は指摘する。確かに同社のホームページを見ると、テスラのミッションは「世界の持続可能なエネルギーへの移行を加速すること」と明記してある。
尾原 和啓氏
 テスラは非連続な未来として、脱炭素社会を目指している。その実現のためには太陽光や風力などの再生可能エネルギーに移行することが不可欠だが、自然環境に依存する太陽光や風力は発電が不安定だ。それをカバーするためには大量のバッテリーが必要になる。ここでトランスフォーメーションを起こすには、バッテリー価格を圧倒的に下げなくてはならない。

 このように未来から逆算した結果、イーロン・マスクCEOが目を付けたのがEVだった。EVの普及によって、バッテリー価格を下げようと考えた。バッテリーが高価だった当初は高級EVからスタートし、量産効果によって徐々にバッテリー価格を下げようとしたのだ。

 今の産業を前提に考えるのではなく、「将来こう変わらなければならない」という未来像から逆算し、そのためにどんなイノベーションが必要なのかを考える。つまり「産業のイノベーション」と「企業のイノベーション」の2段階で考えるのが、中長期的な視点では重要だと尾原氏は説明する。

変化を予測して先回りする

 ではこれからの世界において、日本企業の勝ち筋はどこにあるのだろうか。「例えば量子コンピューターの実用化に伴う人工知能(AI)の高度化という点から見れば、非連続な技術革新は、素材や化学物質、創薬といった分野で起こる。日本企業はそこに投資すべきだ」と尾原氏は分析する。これらの分野は日本企業が得意とする領域でもある。

 さらに尾原氏は「自社でイノベーションを起こすだけがDXの勝ち方ではない」と言う。非連続な変化は、いつ起こるのかを予測するのは困難だが、変化の方向は予測できる。だから自ら変革を起こさずとも、変化を的確に予測して先回りするという勝ち方もある。

 その参考になるのが、ソニーのEVへの参入だ。自動車がEVとなり、自動運転になると、車内で過ごすヒマな時間が発生する。「車中体験をいかに楽しくするか」という部分では、エンターテインメントに強みを持つソニーにもチャンスがあるというわけだ。

 ゲームのルールが変わったとき、新たに「一等地」となる場所を予測し、先回りしておく。自前主義にこだわらず、ソニーがホンダと組んだように、いいプレーヤーと先に組んでおくという戦い方も、これからの時代は重要になってくる。常に「自分たちはどんな価値を提供する会社なのか」に立ち戻って考えることができれば、日本企業が再び強みを生かして最前線で活躍する日も遠くはない。
(構成:出雲井 亨、写真:的野 弘路)
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デジタルトランスフォーメーションの伴走者
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