2022年5月から不動産取引の電子契約が自由化される。これは事実上の「ネット不動産」解禁というニュースであり、金融や証券、保険業界がオンライン化したときと同様に、不動産業界に大きなパラダイムシフトが訪れることを意味する。どの分野から、いかなるイノベーションが始まるのか。創業時から不動産とテクノロジーの融合を追求してきたGAテクノロジーズ 代表取締役社長執行役員 CEOの樋口龍氏に、日経BP 総合研究所フェローの安達功が聞いた。

「ネット不動産」の出現は
まず投資運用と賃貸から

安達 昨年のデジタル改革関連法の成立を受け、いよいよ2022年5月から不動産業界の電子契約が解禁されます。ネット銀行やネット保険が各業界の常識を変えたように、「ネット不動産」は不動産業界を大きく変革するでしょう。どの分野から始まるとお考えですか。

GAテクノロジーズ
代表取締役社長執行役員 CEO
樋口 龍 氏

樋口 デジタルとの親和性が高いところから進むでしょう。不動産業界には主に「開発」「流通」「管理」「賃貸」「投資運用」の5つの領域がありますが、テクノロジーとの親和性が高いのは「管理」「賃貸」「投資運用」です。

投資運用では、すでに投資効果や利回りなどが数値化されています。株式投資と同様に、「ネット不動産」化が急速に進むと思います。また賃貸に関しても、内見から契約までをオンラインで完結させる動きが加速するでしょう。例えば、学業や就職のために地方から上京する場合など、わざわざ現地に行かなくてもオンラインで契約できるならありがたい。そんなお客様が、すでに相当数おられます。

日経BP 総合研究所
フェロー
安達 功

安達 御社が他社に先駆けて進めてきた不動産とテクノロジーの融合が、まさに本領を発揮し始めるわけですね。

樋口 はい。当社は「RENOSY(リノシー)」というオンライン不動産取引マーケットプレイスの事業と、「ITANDI(イタンジ)」という業界向けのSaaS事業を行っています。「RENOSY」は不動産の「借りる」「買う」「売却する」「貸す」「投資する」という5つのサービスをオンラインで実現します。「ITANDI」は不動産会社へ、リアルタイムな賃貸物件情報や、賃貸業務をなめらかにするSaaSを提供しています。

今回の法改正で、事業は本格的な「ネット不動産」へと進化します。現在の主要な不動産情報サイトは、空き物件の情報を提供して「物件選び」を支援しているにすぎません。そこから先の、物件の内見や契約に関するサービスはなく、顧客体験が途切れているのです。「RENOSY」がそれらと大きく異なる点は、当社が自ら宅建免許を持ち、情報提供から契約業務に至るまでワンストップでサービスを提供していることです。この「一気通貫の顧客体験」により、不動産業界の常識を変えてきました。しかし契約書だけはやはり紙で作らなければならず、お客様はそのために時間と労力を強いられてきたわけです。

電子契約が解禁されることで、物件探しから契約までオンラインで完結できるようになります。当社がめざしてきた「一気通貫の顧客体験」も100%オンラインで提供可能となり、真の意味での「ネット不動産」が実現します。

安達 「ネット不動産」が誕生することで、不動産業界の顧客体験が向上することは間違いありません。今回の法改正に対応できたサービスと、一般の不動産情報サイトとの違いはさらに際立ってくるでしょう。

他業界から異能人材を集め
経験者との化学反応で変革を

安達 御社のサービスは先進的でユニークだと感じます。なぜそのような取り組みが可能になるのでしょうか。

樋口 当社は不動産を扱っていますが、さまざまな分野から多様な人材を集めていることが大きな特徴です。副社長は三井不動産リアルティの専務を務めた者ですし、役員の中にはカカクコムやガンホー・オンライン・エンターテイメント、JPモルガン証券、監査法人など、異業界の経験とノウハウを持つ人が集まっています。

これまでは、不動産業の経験者よりIT系の人材を多く採用してきました。業界を知らないからこそ、新たな視点で変革をめざせると考えたからです。しかし当社はいま、事業拡大のフェーズに入り、今後は逆に不動産業の経験者を多く採用していきます。経験者と未経験者を混交させることで、さらなるイノベーションを期待しているからです。

安達 異なるバックボーンを持つ人が集まり、不動産業界にイノベーションを起こそうとしているのですね。他業界の経験とノウハウを取り入れ、他の不動産会社とは違うアプローチで事業を展開されているように思います。軸となるのは、顧客体験の向上ですね。

樋口 はい。例えば、不動産取引の顧客体験を向上させる「RENOSY」の仕組みは、他の不動産会社にも提供しています。業界全体の顧客体験を向上させたいという願いからです。

2022年が歴史の転換点となる
同じ志を持つ企業と共に歩む

樋口 国内の不動産市場は限られています。各社で切磋琢磨していくことも大切ですが、一緒にできるところは協力し合い、顧客体験や業務効率の向上をめざすことも重要だと考えています。テクノロジーを活用して不動産業界のイノベーションを進める。同じ目標を共有できる方々とは、ぜひ連合を組んで挑戦していきたいと思います。

安達 十分に可能でしょう。御社と同じような志を持つ経営者はたくさんいると思います。

樋口 一般生活の中にこれだけオンラインサービスが浸透しています。「ネット不動産」が登場するのも当然の流れでしょう。同じ方向をめざせる方々と協力し合い、業界を変える大きな力にしていきたいと思います。2022年を振り返ったとき、「ネット不動産の誕生が業界を変える転機になった」と言えるように。