デジタルトランスフォーメーション(DX)が迷走している。DXの定義がいまだに明確にならない中、DX推進者は経営トップから現場に至るまで、あらゆる従業員と対話しながら手探りで取り組みを進めている。企業の先頭に立つDX推進者はいま何を考え、どのようなDX像を見ているのか。JFEスチールとプラスのDX推進者とインテル日本法人の経営トップが語り合った。モデレーターを日経BPの戸川尚樹が務めた。

「同じ未来観の共有」で
DXの方向性を1つに束ねる

JFEスチール
IT改革推進部 主任部員
舩越 健一 氏

JFEスチール IT改革推進部 主任部員の舩越健一氏がDXでいま最も力を入れている活動は、プログラミングの労力が少ないローコード開発環境を工場の生産現場に展開することだ。アプリ開発の権限を現場に開放し、業務のデジタル化を一気に加速する狙いがある。

「アプリが50~80%完成した段階で使い始めてもらい、フィードバックを受けながら短期間で完成を目指します」(舩越氏)。現場の課題を解決するアプリを現場で開発できるアジャイルな手法は、管理者や工場長の評判も良い。

プラス
コーポレート本部 経営企画部門
デジタル統括部 部長
山口 善生 氏

続いて、インテル 代表取締役社長の鈴木国正氏が「DXに必要な対策」に関する最近の調査結果を引用した。「経営層の入れ替え」「社員の教育」「異業種との協業」の3つが急がれている。特に「異業種との協業」はDX成功へのカギになると述べた。

オフィス家具や文具製造のプラス(東京都港区)でコーポレート本部 経営企画部門 デジタル統括部 部長を務める山口善生氏も、それに同意する。異業種のDX推進者と情報交換しているうちに、新たなアイデアや協業が生まれることは多い。「DXの課題を共有し、仲間を増やしていくことの価値は大きいです」(山口氏)。

山口氏がDX推進者になってから、経営トップから現場に至るまで、あらゆる階層の人と話す機会が増えた。そこで重要だと感じているのは「同じ未来観を共有すること」だ。

事業部や組織ごとに指揮系統やカルチャーが異なり、それぞれが自身の責任で判断していく部分も多い。しかし、全社が目指す「DXの未来観」をしっかりと共有していれば、同じ方向へ進むことができる。山口氏の役割は、それを後押しすることだと語った。

カジュアルな言葉で伝えよ
ITと現場がDXでつながる

日経BP 技術コンテンツユニット長 日経クロステック発行人の戸川尚樹は、DX推進者に求められるコミュニケーションについてさらに話を進めた。DXの本質は、従業員の意識改革だ。DX推進者は従業員と効果的に対話しながら、DXを全社一丸の取り組みにまで高めていく必要がある。

山口氏が気をつけているのは「相手が誰であっても形式的にならず、カジュアルに接すること」だという。礼儀は当然わきまえたうえで、形式的な言葉をなるべく避け、本音で語るように心がけている。「経営の考えを事業部や現場の方に伝えるハブのような役割が求められます。相手がイメージしやすい言葉で伝えなければ、理解を得ることはできません」(山口氏)。

舩越氏は自身の「若手」という立場をうまく利用していると話す。「分からないことを素直に尋ねれば、相手との距離を縮めることができます」(舩越氏)。

インテル
代表取締役社長
鈴木 国正 氏

舩越氏は、ローコード開発環境の導入によって「IT担当者としての自分と現場の距離が縮まった」と感じている。従来の手法では、システム開発に年単位の時間がかかる。現場の反応も遠く感じていた。だが、ローコード開発環境では現場の意見や反応を即座に受け取れる。開発期間が劇的に短縮し、舩越氏の努力も現場から見えやすくなる。「現場の課題を解決して感謝されると、モチベーションが上がります」(舩越氏)。

戸川が鈴木氏にアドバイスを求めた。鈴木氏は「人格まで変える必要はないが、立場や状況に応じて対話のインターフェースを変えることは必要になろう」と語り、キーワードは「柔軟であれ」だと述べた。「柔軟であることを常に意識すれば、インターフェースはおのずと変わっていきます」(鈴木氏)。テクニックで何とかしようとするより、柔軟性を意識することで自然に表れるインターフェースの方が、その人らしさが出る。説得力も増すだろうと語った。

DX推進者は経営の中心へ
「好奇心」を忘れるな

JFEスチールが目指すDXは、本当の意味で「仕事を変えること」だと舩越氏はいう。「いまの現場では大勢の人が動いていますが、DXによって業務の内容が変わるレベルを目指したいです」(舩越氏)。

一方、プラスはDXによって「何でもできるアスリート体質に変化しようとしている」と山口氏はいう。まずは生産性を高め、オペレーションの無駄や重複を排除する。古い商流を改善し、モノリシックな仕組みをマイクロサービスに変え、データ中心の思想であらゆるシステムを統合していくと述べた。

日経BP
技術コンテンツユニット長
日経クロステック発行人
戸川 尚樹

「2人の話を聞いていると、とにかく着手する場所を決め、小さな成功体験を重ねていくしかないように思う」と戸川が述べると、山口氏も同意した。

「DXの定義が、いまだにはっきりしないからです」(山口氏)。例えば、「業務の小さな改善は単なるデジタル化であってDXではない」などと言う人もいる。しかし「1時間かかっていた仕事が1分でできるようになるなら、それをDXと呼んでかまわない。できるところから始めて成長していけばよい」と山口氏はいう。

「当社のDXは『みんなのDX』だと言っています。社員みんなで成功させようと」(山口氏)。特定のリーダーが引っ張るのではなく、全員でDXに乗ろうと呼びかけている。数年後に振り返ったとき、「あれは確かにDXだった」と言えることを目指すと述べた。

「欧米の先進的な事例を見ていると、自分がやっていることなど単なる草の根活動のようにも感じてしまいます。しかし、たとえそうだとしても、そこから成長していくことが大切です」(舩越氏)

「重要なのは、『環境が整った』ということです」(鈴木氏)。ITによる生産性や業務効率の改善など、「守りのDX」は以前からあった。それが明らかに変わったのは、テクノロジーの発達により、ビジネスモデルの変革や全体最適化などの「攻めのDX」が可能な環境になっているということだ。

「IT部門任せの時代が終わり、経営者が先頭に立つべきだと言われるようになりました。これは大きな変化です」(鈴木氏)。DXは経営の核心的な取り組みであり、舩越氏や山口氏のようなDX推進者は、ますます経営に寄り添う立場になっていくだろう。

そこで重要になるのは何かと問われ、鈴木氏は「好奇心だ」と答えた。「好奇心こそが新たな知識とスキルの吸収を可能にし、あらゆる課題への柔軟な対応を支える」という。戸川もこれに同意し、「DX推進者への期待は高まる一方だ。好奇心を忘れない人がリーダーとして活躍していけば、企業は必ず成長する」と話をまとめた。DX推進者たちの「今」を垣間見る価値の高い座談会となった。

インテル株式会社

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