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TOPINTERVIEW|高騰する電力価格、先物市場が果たす役割とは? TOPINTERVIEW|高騰する電力価格、先物市場が果たす役割とは?

原油や液化天然ガス(LNG)、石炭といった発電用燃料資源の価格高騰などを背景に、電力価格の上昇が続いている。「新電力」と呼ばれる電気事業者の経営環境が厳しくなる中で、電力先物市場はどのような役割を果たしているのか。東京商品取引所(TOCOM)代表取締役社長の石崎隆氏に話を聞いた。

2020年12月以降、電力価格の高騰が続く

──電力市場の現状について教えてください。

 TOCOMに電力先物市場が誕生した2019年当時は、再生可能エネルギーの流入拡大や原油をはじめとした燃料価格の下落などの影響により、電力価格は低位で推移していました。

 その状況は、2020年12月以降に一変しました。燃料不足や寒波の襲来により、日本卸電力取引所(JEPX)市場におけるスポット価格が急騰したのです。2021年秋には欧州の電力・ガス市場に混乱が起こり、足元ではロシアのウクライナ侵攻などを背景に原油・LNG・石炭などの燃料価格が高騰しています。さらに、円安の進行なども含めた複合的な要因が電力価格を押し上げ、現在もその状況が続いています。

電力先物価格推移(東エリア・ベースロード電力先物:2021年4月~2022年5月)

電力先物価格推移(東エリア・ベースロード電力先物:2021年4月~2022年5月)

電気事業者によるリスクヘッジの機運が高まる

──電力価格の高騰を経て、電力先物市場の取引はどのように推移していますか。

 2020年末から翌年1月にかけて生じたスポット価格の急騰を受け、電気事業者による電力先物取引を用いたヘッジ活動が活発化しています。

 2021年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画および資源エネルギー庁の「電力市場リスクマネジメント」では、電力先物取引がリスク管理ツールとして記載されました。これにより、電力先物取引は政府が政策ツールとして位置づけた初めての上場商品となったわけです。電気事業者の間でも関心が高まり、有効なリスク管理ツールとして認知度が向上しています。

 2019年9月の試験上場時には13社であった市場参加者数は2022年5月末時点で146社と、11倍に増加しています。「新電力」と呼ばれる小売電気事業者はもちろん、最近では大手電力会社の参入の動きも顕著です。

電力先物市場参加者属性

電力先物市場参加者属性

TOCOM電力先物市場参加者数推移

TOCOM電力先物市場参加者数推移

 4月の取引量は3億kWh超、5月の取組高は4億kWh超となり、2022年4月の本上場後2カ月間で過去最高を更新しています。

電力先物 取組高(棒)・取引高(線)

電力先物 取組(棒)・取引高(線)

電力先物取引によるヘッジが経営安定化に貢献

──電気事業者が電力先物取引を行うメリットはどのような点にありますか。

 主に2つのメリットがあります。

 ひとつは、価格変動リスクをコントロールし、経営の安定化に役立てられることです。例えば、新電力はJEPXスポット市場での調達に先立ち、「買いヘッジ」を行うことであらかじめ取引価格を固定した現物調達が可能となります。費用予測の確度が高まり、経営安定化につながる効果が期待できます。

 新電力にとって足元の事業環境は厳しく、2021年度には30社を超える企業が電力小売りビジネスから撤退・廃業しました。しかし、TOCOM電力先物市場を活用し、リスクヘッジに取り組んだ新電力の多くは事業を継続することができています。

 また、大手電力会社をはじめとする発電事業者は、「売りヘッジ」を活用することで電力価格の下落に備えることも可能です。燃料先物とセットでヘッジすれば発電マージンを事前に固定化することもでき、ビジネスの安定化に寄与します。

 もうひとつのメリットは、相対取引における信用リスクをヘッジできることです。TOCOM電力先物市場で成立した取引は、財務基盤が強固なクリアリングハウスである日本証券クリアリング機構(JSCC)が取引の履行を保証します。TOCOMの立会外取引を利用することで相対取引を取引所取引に転換でき、クリアリング機能を利用することが可能になります。これにより、相手方の信用リスクを気にすることなく取引できるようになるのです。

 最近は新電力などの事業撤退が相次いでいることもあり、相対取引の相手方の信用リスクに対する見方が厳しくなっています。そのため、この機能を積極的に利用する動きが見られます。

──電気事業者ならびに電気事業への参入を検討している企業に向けてメッセージをお願いします。

 TOCOM 電力先物市場には、「価格変動リスクヘッジ機能」と「信用リスクヘッジ機能」に加えて「価格発見機能」もあり、相対取引などの際の参考価格としても活用されています。これらの機能提供が電気事業者の経営安定化に資すると考え、市場参加者の利便性向上に向けたさまざまな施策を行ってきました。

 一般的には、「先物取引は難しい」という印象が強いかもしれません。しかし、実際に取引に参加した電気事業者からは「思っていたほどではなかった」という声が多く聞かれます。TOCOM では先物取引に不慣れな事業者に対して「電力先物スクール」を随時開催しており、2019 年の試験上場以来141 社、延べ155 回の実績があります。不安や疑問点があればぜひお申し込みください。

 今後もエネルギー先物市場の発展を通じて、電力事業者の経営安定、ひいては日本国経済の伸張に尽くしていきたいと考えています。

  • 石崎 隆氏
    エネルギー先物市場の発展を通じて、電力事業者の経営安定、ひいては日本国経済の伸張に尽くしていきたい
    石崎 隆
    株式会社 東京商品取引所 代表取締役社長
    東京大学法学部卒業、1990年に通商産業省(現経済産業省)に入省。流通業の不良債権処理、途上国への経済協力(在ミャンマー日本大使館一等書記官)、地域振興(長崎県産業労働部長)、エネルギーミックス、コモディティ政策、電力の需給対策・インフラ整備、中小企業支援、規制改革(行政手続の簡素化、デジタル化)などを担当。前職は経済産業研究所上席研究員。2020年より、株式会社 東京商品取引所代表取締役社長・株式会社 日本取引所グループ執行役