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写真:犬飼 仁氏、東海林 正賢氏

Vol1 収益モデルも大きく変わる EVシフトがもたらすインパクト

内燃エンジン車からEV(電気自動車)へのシフトは、単なる製品の転換ではなく、自動車メーカーや部品メーカーの収益モデルを大きく変えるインパクトを持っている。新たな収益モデルを構築する上でのポイントは、車両から収集されるデータの活用だ。KPMGコンサルティングの犬飼仁氏と東海林正賢氏が解説する。

EVシフトによって
販売後収益は大幅に減少する

写真:KPMGコンサルティング パートナー 自動車セクター統轄 犬飼 仁氏

KPMGコンサルティング
パートナー
自動車セクター統轄

犬飼 仁

EVシフトは、自動車メーカーや部品メーカーに、設備や人材といったリソースの転換を迫っている。しかし「これは単なる製品の転換ではなく、収益モデルそのものを根底から見直さざるを得なくなるインパクトを持っています」とKPMGコンサルティングの自動車セクターを率いる犬飼仁氏は語る。

「内燃エンジン車は、エンジン性能や、それがもたらすドライビングフィールといった情緒的価値が差別化の大きな要素となっていました。EV化によってそれらの要素は相対的に減少し、他の要素で差別化やブランド演出をすることが必要となってきます。例えば、情緒的価値をハードウェアではなく、ソフトウエアで提供する必要があり、自動車も『ソフトウエア定義型自動車(SDV:Software Defined Vehicle)』への転換が進んでいます」(犬飼氏)

また、ユーザーによる自動車の利用形態も、所有からサブスクリプション、シェアード(共有)、レンタルと多様化が進んでいる。その分、「売り切り型」の収益モデルと異なりユーザーとの接点も多くなり「個々のユーザーに、その時々のタイミングで最も有益な価値体験を、いかに提供できるかが差別化の大きな要素となります」と犬飼氏は説明する。

そもそもEVは製造コストに占めるバッテリーの割合が高く、これまで同様の生産・販売方法では収益確保の余地が減少してしまうという課題もある。これも収益モデルの転換を図らざるを得ない大きな要因だ。

しかも、「EVは内燃エンジン車に比べて稼働部品数が圧倒的に少ないので、販売後のアフターサービス機会が大幅に減少します。KPMGが2021年に発表した『ICE後の自動車業界のパワートレイン戦略』という調査レポートでは、自動車市場におけるEVのシェアが80%になれば、自動車メーカーの販売後収益が50%程度減少すると予測しています」(犬飼氏)。

こうした現実を踏まえると、EV化に対応する収益モデルの転換は、避けては通れない道だと言える。では、どのように収益モデルの転換を図るべきなのか。

車両から収集されるデータを活用し
新たな収益モデルを創造する

写真:KPMGコンサルティング パートナー フィンテック・イノベーション統轄 東海林 正賢氏

KPMGコンサルティング
パートナー
フィンテック・イノベーション統轄

東海林 正賢

犬飼氏がEVシフトにおける収益モデルの新機軸として提言するのは、①データを活用したユーザーエクスペリエンス(顧客体験)の差別化、②環境課題の解決と社会貢献、③車両から収集されるデータのマネタイズの3つだ。

「データを活用した顧客体験の向上や差別化は、インターネットやモバイルをマーケティングに活用する他業種では、既に当たり前のアプローチとなっています。自動車においても、コネクテッドカーの浸透によって、車両から収集される行動データをいかに顧客体験の向上に結び付けるかということが重視されるようになるでしょう」と犬飼氏は語る。

また車両から収集したデータは、環境課題の解決や社会貢献につなげることもできる。例えば、移動に伴う正確な炭素排出量を認識できれば、ユーザーはより排出量の少ない移動手段やルートを選択できるようになる。そうした「環境に優しい」機能を備えているかどうかが、自動車を選ぶ際の重要なポイントになっているという調査データもあると話す。

「環境に優しいクルマを製造しているかどうかは、機関投資家が投資先を選定する上でも重要な要素とな っています。従来、そうした投資判断のための情報は外部機関などが発表したものを参考にしていましたが、自社でデータを収集して率先的に発表すれば、投資家の評価はさらに高まるでしょう」と語るのは、 KPMG コンサルティングのフィンテック部門を統括する東海林正賢氏である。

ブロックチェーン技術で
“守り”も“攻め”も可能に

さらに今後の収益モデルとして有望なのが、車両から収集されるデータのマネタイズである。他の企業や業種にとって価値のあるデータであれば、それを販売することによって収益を得るという方法もある。

「組み合わせることで価値が生まれるデータを相互に流通させ、同業や異業種の枠を超えた『協争』型のエコシステムを構築するのが最も理想だと言えます。必要であれば『協力』し、自社でデータを囲い込んだほうが有利だと判断すれば『競争』するという関係性です」と犬飼氏は語る。

そうした動きが広がれば、従来のような完成車メーカーを起点とした垂直統合・ピラミッド型の業界構造は大きく変わる可能性がある。部品メーカーや素材メーカー、スタートアップなどが、系列に縛られることなくデータを自由にやり取りできる構図が生まれるからだ。

「データエコノミーにおいては、『価値のあるデータを持っているかどうか』が、競争力を決定付けます。その価値の大きさによっては、プラットフォーマーやプラットフォーム上における主要プレイヤーとしての道が開けるかもしれません」(犬飼氏)

図:車両から収集されるデータのマネタイズ例。行政、家庭・施設、通行税、充電、各種企業・研究機関、マーケティング・広告

データエコノミー×モビリティー

こうした自由なデータ流通を可能にするのが、データの改ざんが不可能なブロックチェーン技術である。東海林氏は、「自動車産業においても、『MOBI(Mobility Open Blockchain Initiative)』のようにブロックチェーン技術によるデータ流通の仕組みとルール作りを進めているグローバルコンソーシアムがあります。こうしたコンソーシアムにいち早く参画し、データのマネタイズ化に取り組み始めることが、EVシフトに対応して生き残るための有効な方策と言えるでしょう」と語る。

改ざん不可能なブロックチェーン技術を活用することは、自社の競争力の源泉である重要なデータを盗用から“守り”、安心して流通させられるので“攻め”のビジネスにもつながる。

東海林氏は、「データエコノミーの時代には、いかに価値のあるデータを生み出し、高く売るかが企業としての腕の見せどころになります。KPMGグループは企業のコネクティビティを向上させる『Connected Enterprise Framework』の取り組みや、MOBIをはじめとするコンソーシアムへの紹介などを通じて、データの価値創造や活用のためのケイパビリティー向上を支援します」と語った。

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