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写真:米谷 佳夫氏、宮原 正弘氏

vol2 「攻め」と「守り」の両輪で推進 三井物産が取り組むデジタル変革とは

ゼロトラストの考え方に基づいてITインフラの「守り」を固め、「6つの攻め筋」に沿って積極的なDX事業戦略を推進する三井物産。日本を代表する総合商社として「人材主義」「自由闊達」「挑戦と創造」という創業以来の精神を発揮しながら、新しい時代のビジネスづくりに挑んでいる。そのマインドと実際の取り組みについて、同社代表取締役副社長執行役員CDIOの米谷佳夫氏に、KPMGコンサルティング代表取締役社長 兼 CEOの宮原正弘氏が聞いた。

システム運用とDXの一体化によって
レジリエンス経営を実践

写真:三井物産 代表取締役副社長執行役員CDIO 米谷 佳夫氏

三井物産
代表取締役副社長執行役員CDIO

米谷 佳夫

宮原 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延によって、企業を取り巻く環境は大きく変化しました。この2年近くを振り返って、ビジネスの状況はいかがでしたか。

米谷 新型コロナの感染が拡大した2020年度は、ちょうど新しい中期経営計画の初年度に当たり、計画の見直しや、発表すべきかどうかも含め、社内で大きな議論が起こりました。当社の重要事業であり、人々の生活やビジネスに直結する、エネルギーや食料・原料の安定供給、電力インフラ、医療などの先行きがまったく見えない状況となってしまったからです。

結局、そうした状況下でもベストと言える中期経営計画を発表し、不透明感が漂う中でも最善を尽くしながら事業を推し進めてきました。足元は、サプライチェーンの混乱などのマイナス要因はあるものの、需要の回復とともに業績も伸びてきています。

宮原 市場が変化する中で、「攻め」や「守り」の様々な施策を打ってきたと思われます。三井物産では、どのような指針をもって状況変化に対応してきたのでしょうか。

米谷 私が管掌するデジタル変革の側面では、IT基盤の安定運用を図る「守り」と、デジタル技術を使って新しいビジネスに挑戦する「攻め」の両輪を一体的に回しながら、変革を推し進めています。

2017年には、総合商社の中でもいち早くデジタル変革を推進するCDO(最高デジタル責任者)を設置し、2020年にはシステム運用を担うCIO(最高インフォメーション責任者)と一体化させて、現在私が務めるCDIO(最高デジタル&インフォメーション責任者)というポストを設けました。万全の「守り」があってこそ、積極的な「攻め」が実現できるという考え方の下、一体運用を行うことにしたわけです。

余談ですが、CDIOのDとIは、「データ&インフォメーション」や「DX&イノベーション」、さらには「ダイバーシティー&インクルージョン」まで読み替えらえるものとして、私の役割であると考えています。

宮原 あらゆる領域で融合による化学反応が起きるのではないかという発想が大変興味深いです。KPMGコンサルティングは、環境変化によって起こる様々なリスクにしなやかに対応しながら、デジタル技術などを駆使してビジネス変革を推進する「レジリエンス経営」を自ら実践し、お客様にも提唱しています。三井物産が取り組む「守り」と「攻め」を一体化したデジタル変革は、まさにレジリエンス経営そのものですね。

6つの攻め筋で
中長期的なBig Winを目指す

写真:KPMGコンサルティング 代表取締役社長 兼 CEO 宮原 正弘氏

KPMGコンサルティング
代表取締役社長 兼 CEO

宮原 正弘

宮原 三井物産が取り組んでいるデジタル変革の「守り」の側面について、より詳しく聞かせてください。

米谷 DXの進展とともに、重要さを増しているのがサイバーセキュリティー対策です。働き方改革やリモートワークの普及によって、外部との接点が増えるほど脅威の侵入や攻撃を受けるリスクも高まります。

使い勝手を保ちながら重要なシステムやデータを守るためには、攻撃を受けるのは当たり前という前提で、すべてのアクセスを検証・制御する「ゼロトラスト」の考え方に基づいたセキュリティーが不可欠であると考え、サイバーセキュリティー専業の子会社と共に厳格に実践しています。

宮原 サイバーリスクと言うと、一般には個人情報の漏洩といったデータ流出ばかりにスポットが当てられがちですが、IoTの普及とともに、原子力発電所や工場などのオペレーションを不正操作して社会や産業を混乱させるリスクも高まっています。KPMGコンサルティングでも、そうしたリスクに対処するための支援サービスを提供していますが、数多くの電力インフラなどを手掛ける三井物産にとっても非常に重要な課題でしょうね。

一方で、「攻め」のDX戦略については、どのように取り組んでおられるのでしょうか。

米谷 2020年度に始動した中期経営計画に沿って、新たなDX総合戦略をスタートさせました。DX総合戦略は、「DX事業戦略」と「データドリブン経営戦略」の2つから成り立っています。「DX事業戦略」は、早期の効果が期待できる既存事業の業務改善から、中長期的な視点で大きな収益を目指す新規ビジネスの創出まで、「6つの攻め筋」に分けてロードマップを描いています。

Quick Win(早期の成果)を積み重ねることでノウハウやナレッジを少しずつ蓄積し、Big Win(大きな成果)に結び付けていく戦略です。このBig Winの実現には、当社にこれまでにないビジネスを「0→1」で創出するR&D機能を担うプラットフォーム企業として2019年1月に設立したMoon Creative Lab Inc.(ムーンクリエイティブラボ)とも緊密に連携しています。

Quick Winに関しては、既にいくつかの成果が表れています。例えば、三井海洋開発(MODEC)などと共に取り組んでいるブラジル沖合鉱区開発プロジェクトでは、浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備(FPSO)の操業によって得られたデータを用いてデジタルツインを構築し、AIを活用した高度分析による予知保全の実現によって、操業開始直後からのダウンタイムを削減することに成功しました。ここで得た知見を基に事業会社を設立し、現在は社外にも提供しています。

また、当社が筆頭株主として出資するアジア最大手の民間病院グループ、IHH Healthcare Berhadでは、アジア圏最大級となる3000万人超の匿名化された医療データを活用して、病院の経営効率の改善や、患者目線でのサービス向上などを実現する取り組みも行っています。中長期的には、上記医療データを製薬会社の治験などに利用してもらう新規ビジネスの創出なども視野に入れています。

宮原 三井物産のDX戦略は、企業としての存在意義であるパーパス(目的)を明確化した上で、スタートアップを含むパートナー企業とのオープンな交流を通じて取り組んでおられるのが、とても印象的です。

米谷 歴史を振り返ると、スタートアップとの親和性の高さに改めて気づかされました。三井物産は創業以来「人材主義」「自由闊達」「挑戦と創造」という理念を掲げています。これはまさにスタートアップのマインドセットそのものであり、これからも三井物産が大切にすべきDNAです。

また当社はESG経営にも積極的に取り組んでいるので、同じパーパスや価値観を持つ企業や人々との結び付きを深めやすいはずだと考えています。『論語と算盤』という渋沢栄一の有名な著書がありますが、この言葉が意味する「道徳と経営は合一すべきである」という考え方を現代風に言い換えると、「ESGとDX」になるのではないかと考えます。顧客視点、人視点といった観念を超越し、地球視点でサステナビリティーに貢献しながら、デジタルの力で社会により良い価値を提供していきたいと思います。

宮原 非常に共感できる考え方です。三井物産は、トップの方々が「会社はどうあるべきか」という本質的な価値を理解した上で、それを社員や世の中にしっかりと発信し、コミットメントされている点も素晴らしいと思います。本日はありがとうございました。

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