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写真:栗原 純一氏、宮原 潤氏

vol3 ライフサイエンス企業が目指すべきサステナビリティー経営とは

医薬品、医療機器などを取り扱うライフサイエンス産業では、企業によってSX(サステナビリティートランスフォーメーション)の捉え方、取り組み方に大きな違いが見られる。真に患者の生命や社会を持続可能にする価値を提供するには、どのような経営変革が求められるのか。KPMGコンサルティングの栗原純一氏と宮原潤氏に聞いた。

「何を提供してきたのか」を踏まえて
SXの方向性を描き出す

写真:KPMGコンサルティング ライフサイエンス・ヘルスケア統括 執行役員 パートナー 栗原 純一氏

KPMGコンサルティング
ライフサイエンス・ヘルスケア統括
執行役員 パートナー

栗原 純一

経済産業省によれば、SXとは、「企業の稼ぐ力とESGの両立を図り、経営のあり方や投資家との対話のあり方を変革するための経営指針」である。社会を持続可能にするための価値を提供することで、自らの成長も実現する変革と言い換えることもできるだろう。

ライフサイエンス産業においても、SXに取り組むことの重要性は認識されている。ただし、「そもそも生命を救う画期的な医薬品や医療機器を社会に提供していることもあり、SXの重要性は認識しつつも、社会にプラスの影響を与える事業オペレーションの在り方について踏み込んで検討を進めている企業は、他の業界と比べると未だ少ないように見受けられます」と語るのは、KPMGコンサルティングでライフサイエンス・ヘルスケアセクターをけん引する栗原純一氏だ。

画期的な医薬品や医療機器を新たに開発し、それを高品質で製造し、必要な場所に安定供給するというライフサイエンス産業の一連事業は、それ自体が病気の治療や生命維持、QOL(クオリティー・オブ・ライフ)の向上という使命を担っており、ESGのS(ソーシャル)に深くかかわっている。そのため、「SXと言われても、『本業とどのように区別、もしくは関連づけて対応すべきか』と、方向性を見極められずにいる企業も少なくないようです」と同セクターの宮原潤氏は見る。

その一方、既存のビジネスモデルや、研究・開発する新薬のポートフォリオなど大胆に変革しようと試みている企業もある。遺伝子治療や再生医療、アンメット・メディカル・ニーズへの対応といった新しい領域に既存の経営資源をシフトし、新たな資本を集中投下するといった取り組みだ。

「こうした取り組みは、社会の要請に応える変革だと言えますが、半面、これまで注力してきた疾患領域の医薬品や医療機器への投資が縮小すると、長年使用してきた患者や医師を落胆させてしまうかもしれません。SXの方向性は、『この先、何を目指すのか』だけでなく、『これまで、誰に何を提供してきたのか』を踏まえて定める必要があるのではないかと思います」と栗原氏は話す。

既存事業の発展的継続と
新規事業投資を両輪で進める

栗原氏は、過去の取り組みを踏まえながら、その延長線上で整合性の取れたSXを推進している例として、ある医薬品メーカーを挙げる。このメーカーは、従来からある特定の患者層向けの医薬を専門としてきた。さらにSX戦略においてもこの分野に特化した新薬の開発にターゲットを絞り込み、既存の患者のニーズに継続的に応えようとしている。

「誰にどのような価値を提供するのか」という軸にブレがなく、この実現のための医薬品の製造・販売等の事業オペレーションにおいて、ポジティブな社会的インパクトを高めるマテリアリティー(重点課題)が設定できる。結果として、首尾一貫したサステナビリティー経営が実現するのである。

また、「明確なパーパス(目的)を描き、それに沿って既存事業の発展的継続と新規事業への積極投資を両輪で進めていくことが、社会がライフサイエンス企業に求めているSXのあり方ではないかと考えます」と栗原氏は語る。

栗原氏は、ライフサイエンス企業がSXを進める上でのポイントの一つとして、「エコシステム化」の重要性を指摘する。医師や患者だけでなく、産官学のあらゆるステークホルダー、場合によっては競合企業も巻き込んで、技術の進歩やマテリアリティーの解決といった質の高い医療の提供のスケール拡大を目指していくことが求められているという。

「新しい医療ソリューションの開発については、コロナ禍以降、ライフサイエンス企業と官学との連携や、スタートアップ企業をはじめとするライフサイエンス以外の企業との共創が盛んになりつつあります。それをさらに押し広げ、人間の生命と暮らしをサステナブルにする取り組み全般を共創していけるようなエコシステムの形成が求められているのではないかと考えます」(栗原氏)

図:AI Analytics:Big Data 自治体、健康保険組合・遺伝子検査事業者など、スタートアップ/SaaS、IoT、医療機関、アカデミア、製薬、医療機器メーカー、卸、薬局などの民間企業

より厳格な運用が求められる
個人情報保護とAI活用

写真:KPMGコンサルティング ライフサイエンス・ヘルスケアセクター ディレクター 宮原 潤氏

KPMGコンサルティング
ライフサイエンス・ヘルスケアセクター
ディレクター

宮原 潤

SXを推進するための基盤の一つとなるのがDXである。宮原氏は、ライフサイエンス産業の取り組みについて、「『KPMGジャパン CFOサーベイ2021』のレポートによると、SXを進めるためにDXへの投資を増やしたいと考えている企業の割合は、他の産業よりも高い傾向が見られます。実際、患者のゲノム情報や診療データ等を統合的に分析して新薬の開発を速めるなど、研究開発から上市に至るバリューチェーンの要所ごとで、スマートヘルスへ向けた取り組みが行われています」と説明する。

業界を問わず、DXを進める上で大きな課題となっているのが、個人情報保護とAI活用におけるモラル遵守だ。生命の危険に直結する遺伝子データなどを取り扱うライフサイエンス産業では、とくに慎重な運用が求められている。

栗原氏は「特に、ゲノム編集技術を用いた遺伝子治療に関しては、サステナビリティー経営においてこの取り組みをどう位置づけるかという問いに答えることに加えて、いかにデータ漏えいや改ざんなどのリスクを抑え、AIによるデータ分析や判断にバイアスが掛からないように監視するかが重要となっています」と提言する。

この他、宮原氏はライフサイエンス企業がさらにリスク管理を強化すべき対象として、サプライチェーンとコンプライアンスを挙げる。

「コロナ禍によって原薬の供給が断たれる問題などが起こりましたが、安定供給のためにサプライチェーンの国内回帰や分散化といった見直しに取り組むライフサイエンス企業は、今後ますます増える傾向になりそうです。また、ジェネリック医薬品メーカーによる法令違反が大きな社会問題となったことで、ライフサイエンス企業に対する社会の目はより厳しくなっています。これらの課題にしっかりと向き合うことも、ライフサイエンス企業がSXを推進するために必須だと言えます」(宮原氏)

KPMGコンサルティングは、これらの課題解決を包括的に支援できるサービスを提供している。ライフサイエンス企業によるSXの“あるべき姿”を描き、その実現を力強くサポートする同社のコンサルティングは、多くの企業から高い信頼を得ているようだ。

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