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デジタル化や制度改革で加速する“質の高い”医療ビッグデータ活用

かつてないほどデジタルヘルスへの期待が高まる中、これに応えるように社会実装へ向けた取り組みが加速している。
具体的に今どのような変化が起きているのか、そしてデジタルイノベーションが今後に何をもたらすのか、業界に精通する増田克善氏が解説する。

日本のライフサイエンス・ヘルスケア業界を取り巻く環境は、少子高齢化が急送に進む中、国主導で健康・医療・介護の一体的な改革が進められている。医療・介護報酬の圧縮を前提とする改革は、医療供給体制に大きな影響を与えると同時に、医療費の適正化や医療の効率性を重視しており、医療現場や関連企業に様々な課題解決策が求められている。

課題解決の一翼を担うとされるのが、他業界と同様にデジタルイノベーションである。製薬企業は、研究や臨床試験、製造、営業などの各場面で、急ピッチでデジタル技術を取り込んでいる。医療機器開発においては、新たな治療方法をもたらすデジタルセラピューティクス(Digital Therapeutics:DTx)と言われるデジタル技術やIoTを用いた治療方法・製品が国内でも登場する一方、人工知能(AI)を活用した診断や治療、予防医療技術も開発されている。

こうした研究開発では、リアルワールドデータ(RWD)と呼ぶ実臨床の中で得られる医療データを利活用した革新的な医薬品・医療機器創出が推進されるようになった。このRWDにはレセプトデータ(診療報酬明細書)や健診データ、電子カルテのデータなど様々あるが、それぞれが個人情報保護の観点からデータの収集や利活用に厳しい条件が付けられている。そこで、個人情報の中でも要配慮個人情報に区分される医療情報をビッグデータとして研究開発に利活用できるよう新たな制度が設けられ、実際に収集したデータを基に、医薬品・医療機器開発企業で研究開発が始まっている。

医療ビッグデータの利活用で加速する技術革新

この新たな制度は、2018年5月に施行された「次世代医療基盤法(医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律)」に基づいている。医療情報を患者本人と特定できないように匿名加工処理を行い、健康・医療分野における研究開発に利活用できるようにした。健康・医療に関する先端的研究開発の促進、新産業創出の促進、健康長寿社会をつくることの3つを目的としている。

従来、研究開発を目的とした医療情報(患者情報)は、利用者側が研究目的・収集する情報を明確にし、医療機関の倫理審査を受けた上で、個々の患者の同意を取得しなければ、医療機関は事業者などの第三者に提供できなかった。次世代医療基盤法では、医療分野の研究開発に資するという趣旨に反しない限り、利用目的を明確にしなくとも収集・提供できる。患者へはその旨を告知すれば、拒否されない限り個別の同意取得は不要である。

こうして収集された医療ビッグデータの利活用によって、次のような期待がされている。(1)年齢や性別などの患者背景と治療法などの組み合わせから、患者一人ひとりに最適な医療を提案するシステムが可能になる。(2)異なる診療科の情報を統合することで治療成績の向上が期待できる。(3)大量の医用画像などをAIに機械学習させることで最先端の診療支援ソフトウエア製品が開発され、診断から治療までを包括的に支援することが可能になる。(4)医薬品などの安全対策のさらなる向上が期待できる。製薬企業にとっては、研究開発やマーケティング、医薬品安全監視、新薬の開発から市販後までコーディネートするメディカルアフェアーズなど様々な業務の中で活用が想定される。

次世代医療基盤法の施行以降、医療機関から医療データを収集・連結して、匿名加工を施し、事業者に提供する「認定匿名加工医療情報作成事業者」が活動を開始しており、全国の医療機関から患者情報を収集する基盤を整備している。既に製薬企業と医療ビッグデータを活用した患者臨床アウトカム評価の研究なども開始されている。

こうした“質の高い”医療ビッグデータは、医療研究機関や企業が業種の垣根を越えてコラボレーションすることにより大きな価値を生み出す。企業規模の大小を問わず産官学連携、医工連携がさらに促進されることで、研究開発から社会実装への加速が期待される。

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