攻めと守り 変革オーケストレーター Powered by KPMGコンサルティング

写真:箕野 博之氏、中嶋 功氏

vol4 消費財・小売業界が取り組むべきDXとサプライチェーン変革の方向性

デジタル化やコロナ禍による消費動向の変化、ESG重視をはじめとするステークホルダーの価値観の移り変わりなど、消費財・小売業界が向き合うべき課題は増え続けている。課題解決のために求められる取り組みは、さらなるDXの推進とサプライチェーン変革だ。KPMGコンサルティングの箕野博之氏と中嶋功氏が解説する。

パーパス・ドリブン経営への
取り組み強化が求められている

写真:KPMGコンサルティング パートナー 箕野 博之氏

KPMGコンサルティング
パートナー

箕野 博之

消費財・小売業界のビジネスに大きく影響する消費動向は、コロナ禍の前と後で大きく変化した。総務省統計局の「家計消費状況調査」によると、スマートフォンやSNS、比較サイトなどのインターネットサービスを利用した支出総額は以前から伸び続けていたが、在宅時間がさらに増えたコロナ禍以降は、その勢いが加速。「いち早くDXに取り組んできた企業と、取り組んでこなかった企業の間で、変化への対応力に開きが生じつつあります」と語るのは、KPMGコンサルティングで消費財・小売セクターを統括する箕野博之氏である。

コロナ禍による変化の一つがキャッシュレス化の拡大だ。KPMGインターナショナルが行った「グローバル消費者行動調査」によると、世界におけるキャッシュレス決済の割合は、コロナ禍によっておよそ20%から62%にまで拡大している。日本でもQRコード決済をはじめとする新たなキャッシュレス決済手段が急速に普及し、迅速な対応を迫られるようになったのは記憶に新しい。

一方、「ESGやSDGsを重視する傾向の強まりとともに、商品やサービスの内容以前に、企業のパーパス(目的)が問われるようになったのも大きな変化です」とも、箕野氏は語る。

「ある大手スーパーでは、一部値上げを発表した国内消費財メーカーの商品を棚から外そうとしたところ、価格以上にこの消費財メーカーのSDGsへの取り組みに共感するという声が多数寄せられたことから、販売を継続するに至った例があります。顧客、投資家や従業員といったステークホルダーの声にしっかりと耳を傾け、自らのパーパスを明確にした上で、それに沿った製品やサービスを提供することが求められているのです」(箕野氏)

KPMGインターナショナルが世界約1300社を対象に行った「KPMGグローバルCEO調査2021」によると、「パーパスを重視している」と回答した日本のCEOの割合は約80%と、海外の同62%に比べて高かった。「日本の経営者のパーパス・ドリブン経営に対する意識は高いと言えますが、気候変動や人権問題等に対する人々の目は年々厳しくなっており、さらなる高みを目指していくことが求められます」と箕野氏は提言する。

部門間の“壁”を取り払い
一元的なデータ利活用の実現を

写真:KPMGコンサルティング ディレクター 中嶋 功氏

KPMGコンサルティング
ディレクター

中嶋 功

消費財・小売業界の経営課題として「DXへのさらなる対応」を挙げるのは中嶋功氏だ。

「どの業界でも、データ利活用によるサプライチェーンの最適化や販売機会の拡大といった取り組みを行っています。消費財・小売業界は、デジタルで絶えず進化し続ける消費者の期待に応えるためにDXによるビジネスのアップデートが強く求められていますが、消費財・小売業界の経営者は、社員にデータ利活用のためのスキルやリテラシーが十分に備わっていないと考えられているようです」(中嶋氏)

KPMGジャパン CFOサーベイ2021」によると、消費財・小売における財務担当者のデータ分析能力やコミュニケーション能力に対するCFOの評価は、他の業界に比べて5~10ポイントほど低いことが明らかになっている。

中嶋氏は、「最もデータを取り扱う機会の多い経理財務担当者や経営管理担当者でも十分に利活用できていないのであれば、店舗や物流などの現場では、いまだに勘と経験に頼った仕入れや配送手配を行っていることが容易に想像されます。現場のデジタルスキルとリテラシーを高めつつ、これからの業務のスタンダードとして、従来の勘と経験の暗黙知に加えてデータを生かす業務に転換していくことが重要です」とアドバイスする。

一方、「部門ごとではデータ利活用ができていても、横の連携が取れていないために販売機会を逃すケースも多いようです」と語るのは箕野氏である。

例えば、著名なインフルエンサーが自社製品を紹介したことで、注文が一気に増えそうだとマーケティング部門が予測したとする。しかし、その情報が他部門に伝わらなければ、十分な供給量を確保できない。需要予測の精度を上げるためのデータは社内にそろっているのであれば、それを一元化して利活用できるように部門間の“壁”を取り払うべきだ。

「当社でも、経営者に自社のデジタル化の現状を把握してもらい、どこを改善すべきなのかを知ってもらうために、『デジタル成熟度診断』というサービスを提供していますが、サイロ化されたデータを一元化し、全社によるデータ利活用を推進するためには、経営者がその利点を十分に理解することが不可欠です」(箕野氏)

「フィジカルインターネット」が本格始動
速やかな対応が求められる

需要予測の精度を上げるためには、顧客データや販売実績といった社内データだけでなく、気象データやスマートフォンの位置情報、SNS上のコメントといったオルタナティブデータ(外部データ)を組み合わせることも重要である。

「気象データを使えば、気温の変化などに応じて季節性の高い製品の仕入れを巧みに調整できるだけでなく、数日後に大雪が降ると予測すれば、物流の輸送ルートを柔軟に組み替えられるようにもなります。結果的に、サプライチェーン全体の高度化が図れるわけです」と中嶋氏は説明する。

そのためKPMGコンサルティングでは、気象データを需要予測や物流の最適化に活用してもらうため、2020年に一般財団法人日本気象協会 (JWA)と提携を結んだ。様々な切り口による気象データの提供によって、消費財・小売企業の販売機会拡大などを支援している。

さらに、同社は最近、こうした社内外のデータをAIや機械学習によって分析し、需要変動を予測する「Business Analytics & Simulation Engine」による次世代企業業績管理テンプレートの提供を開始した。

図:社外データ(気象データ、ソーシャルメディア、外交通商、ファイナンス、ニュースフィード、二次データ、部品表、マスクデータ、カニバリ/シナジー、棚割/VMD、ポイント還元、宅配サービス、SNS、価格変更、カントリーリスク、関税/為替)→データレイヤー→見える化レイヤー→分析レイヤー→意思決定支援レイヤー→意思決定レイヤー、サプライチェーンオーケストレーション

「複合的なデータ分析に基づいて需要の変化を『見える化』し、タイムリーな意思決定を支援するためのツールです。経営層だけでなく、各部門が同じダッシュボード上の予測データを共有することで、部門の垣根を越えたマーケティングが可能となります。この他にも、当社では店舗ごとの労務状況や不正状況などを一元的に管理できるツールや、ブロックチェーン技術を使って改ざん不可能な産地・生産者証明用のラベルを商品に添付するツールなど、高度化するサプライチェーンを統合するための様々なサービスを提供しています」(箕野氏)

最後に箕野氏は、サプライチェーンの高度化について、「経済産業省が、複数業者による輸送手段や物流拠点をシェアリングする『フィジカルインターネット』に関する2040年までのロードマップを策定し、日本でも共同配送の取り組みが本格的に動き始めました。この波にいち早く乗って、環境負荷の低いサプライチェーンを構築していくことも消費財・小売リテール業界が取り組むべき優先課題の一つだと言えます。スマートリテール実現に向けて、データ利活用の促進とともに、ぜひ検討を進めていただきたいです」と語った。

Future of Industry 小売DXを捉える視座 推進に必要な3つのステップとは
KPMG 攻めと守り 変革オーケストレーター