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写真:大木 俊和氏、足立 桂輔氏

vol6 エンジニアリングチェーンとサプライチェーンにおける製造業のサステナビリティー対応

CO2や廃棄物を削減するための原材料や製造方法の見直し、人権に配慮したサプライヤーや環境にやさしい輸送手段の選択など、製造業がサステナビリティー経営を実践するために向き合うべき課題は多い。KPMGコンサルティングの担当者が、エンジニアリングチェーン、サプライチェーンのそれぞれにおける主要な課題と解決策について解説する。

サステナビリティー対応もプロダクトアウトではなく
マーケットインのアプローチが必要

写真:KPMGコンサルティング シニアマネジャー 大木 俊和氏

KPMGコンサルティング
シニアマネジャー

大木 俊和

製造業のバリューチェーンには、より良い製品を開発・設計して付加価値を創出する「エンジニアリングチェーン」と、QCD(品質・コスト・デリバリー)が最適化された状態で製品を製造し、市場に送り出す「サプライチェーン」の2種類がある。

「ESGやSDGsが重視されるようになった今日、サステナビリティーに対応する価値をいかにエンジニアリングチェーンとサプライチェーンに織り込んでいくかが、製造業の大きな課題であり、挑戦となっています」と語るのは、KPMGコンサルティングにおいて製造セクターとサステナビリティートランスフォーメーション(SX)サービスを担当する足立桂輔氏である。

エンジニアリングチェーンにおいては、設計開発段階における再生素材の選定や、ソフトウエアの制御方法の工夫によるユーザー使用時の省エネなどが、具体的な取り組みの例である。

ただし、「こうした取り組みも、実際はこれまで同様にQCDを最優先に可能な範囲で実施しており、あくまで企業の姿勢を厳しく評価する投資家や消費者に向けたアピールに留まっているケースも多い。さらに一歩進んで、サステナビリティーに対応することを機会として考え、製品の新たな付加価値として訴求し、商機を広げられるような取り組みが求められています」と、同セクターの大木俊和氏は語る。

商機を広げるために必要なのは、サステナビリティーにおいてもマーケットインの発想である。BtoB、BtoCに関わらず、ユーザーが真に求めているものは何かを徹底的にリサーチし、そのニーズにかなったサステナビリティー対応を実践することがポイントとなる。

例えば、大木氏が支援したある製造装置メーカーの商品企画部門は、経営者からマテリアリティー(自社に関わる重要課題)に基づいた商品戦略の見直しを求められたものの、脱炭素、水使用量削減、海洋汚染など様々なサステナビリティー課題から、どの課題の優先度を高くし、その課題に対してどのような商品戦略を立案すべきかについて考えあぐねていた。

そこで、大木氏がサステナビリティーに関する市場動向やそのメーカーの装置を使用する複数のユーザー企業のリサーチを行い、各サステナビリティー課題が社会や環境に及ぼす影響の大きさやその製造装置のサステナビリティー対応の効果を定量的に評価することで、どのような対応であれば、他社と差別化し、ユーザー企業に売価アップも含めてサステナブルな商品を提供可能であるかの道筋を示すことができた。

このように、ユーザーの顕在的ニーズを掘り起こすアプローチがある一方で、「潜在的ニーズを推察して、商機を広げる方法もあります」と大木氏は語る。

「最もわかりやすい例は各国の規制や税務動向です。サステナビリティー対応への社会的要請の高まりと共に、いずれ日本でもプラスチック税などが導入される可能性がありますが、そうした財務的インパクトを伴う変化が起こるタイミングやその影響の大きさを予測することで、それに対応する製品や技術を先行的に開発して提供するというアプローチも考えられます」(大木氏)

資源の無駄遣いをなくす
究極の方法は“サーキュラーエコノミー”

写真:KPMGコンサルティング パートナー 足立 桂輔氏

KPMGコンサルティング
パートナー

足立 桂輔

一方、サプライチェーンのサステナビリティー対応についても、「エンジニアリングチェーンと同じように、リスク対応と収益機会創出の両面からアプローチすべきだと言えます」と語るのは足立氏である。

リスク対応では、サプライヤーがサプライチェーン全体を通じてCO2排出量や資源消費の少ない方法で自社製品を製造しているかどうかや、人権侵害を伴う労働環境から生産されたものではないことを証明できるかどうかなど、多方面にわたって厳格に管理することが必要だ。

「2次サプライヤーや3次サプライヤーなど、サプライチェーンの上流に行けば行くほど目が届きにくくなるものですが、サプライヤー管理のデジタル化やブロックチェーンの活用も含め、自社のサプライチェーンにおいて、サステナビリティーの多様なテーマについて合理的な確証が持てる仕組みを効率的に構築すべき」と足立氏はアドバイスする。

また、原材料や部品といった直接材の購買は伝統的にQCDを軸とした管理を厳しく行ってきたため、サステナビリティー面の管理においても比較的目が届きやすい。一方で間接材については現場ごとの購買が行われており、購入先の背景チェックを含めて管理が不十分な企業も少なくないようだ。グループ全体における間接材購買の取引実態を可視化し、自社のパーパスやビジョンに基づいた対話を進めつつ、問題があれば速やかに対応できるような仕組みが求められている。

サプライチェーンのサステナビリティー対応で成長機会をも創出する方法として、“ジャストインタイム”、そして“サーキュラーエコノミー”が挙げられる。

「顧客にとって必要なモノを、必要なときに、必要なだけ供給するジャストインタイムは、顧客にとっての利便性向上を実現しながら、同時に資源の無駄遣いをなくす方法とも言えます。これを実現するためには、サプライチェーンをできるだけコンパクトにして、物流のエネルギーを抑えつつ、より迅速に製品を供給できるような体制に再構築するのが望ましいと言えるでしょう。さらに見据えるべき究極の姿は、資源循環により再生可能な自然のサイクルを取り戻す、サーキュラーエコノミーの実現です」(足立氏)

以上、エンジニアリングチェーンとサプライチェーンのサステナビリティー対応について見てきたが、「モノから、コトへ」に象徴されるビジネスモデル変革を推進することも、製造業がサステナビリティー経営を実践するうえで有効な方法だ。

大木氏は、「製品売り切り型のビジネスを、IoTを活用し使用頻度などに応じた課金ビジネスモデルにすることで、ユーザー使用後の回収、再利用、リサイクルもしやすくなり、サーキュラーエコノミー型のビジネスを実現しやすくなります。さらに、IoTで取得した稼働状況からユーザーの最適な使用状態になるようにソフトウエアを更新して、保有する製品の性能・機能を向上させるOTAアップデートを採用することも、長く、効率的に製品を使うことができ、余分なモノを作らなくて済むサステナビリティー対応だと言えます」と語る。

また足立氏は、「サステナビリティー対応を成長機会につなげるためには、サステナビリティーを受け身に捉えているだけでは不十分です。経営者、そして企業自らのパーパスに沿って、決して借り物ではない自社ならではのサステナビリティービジョンを内外に対して強く示すことも大切です」と提言した。

Future of Industry プラスチック資源循環法は単なる負担か、ビジネスチャンスか
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