“顧客時代の到来”がもたらした大転換期デジタル化が進む小売業
事業ポートフォリオ経営をどう実践するか

KPMGコンサルティング アソシエイトパートナー 中嶋 功氏、あずさ監査法人 アカウンティング・アドバイザリー・サービス 統轄事業部 ディレクター 程原 真幾氏、KPMGジャパン 消費財・小売セクター 統轄パートナー 伊藤 勇次氏

小売業のデジタル化は急速に進展している。持続的な成長と企業価値向上のためには、ばらまき的なデジタル投資から脱却し、今後の市場やテクノロジーの変化を緻密に予測し、資本コストやリスクを意識しながら、どの事業に優先投資していくのかを合理的に判断することが重要だ。KPMGジャパンのスペシャリストたちが解説する。

将来の成長性を見極めながら
事業ポートフォリオを構築

“顧客時代の到来”。これが、近年の急速なデジタルシフトがもたらした大転換である。

「インターネットが本格的に普及し始めた1990年代以降、Eコマースの発展やサプライチェーンの高度化、モノやサービスを情報と掛け合わせたデジタルマーケティングなど、この20年余りの小売業のデジタル化は、主に企業側が働きかける流れで進んできました。しかし、コロナ禍以前から徐々に“主役”は顧客に入れ代わり、顧客視点で体験価値を高めるようなデジタルシフトを進めなければ小売企業の生き残りが難しくなりつつあります」と語るのは、KPMGコンサルティングの中嶋功氏である。

スマートフォンやSNSの普及により、顧客は時間や場所を選ばず商品やサービスに関する情報を得ることができるようになった。情報の非対称性が解消されたことで顧客の立場は強くなり、そのニーズを効率よく満たせるようにすることが、小売業が取り組むべきデジタル化の方向性となっているのだ。

「顧客行動などのデジタルデータを起点として、オンラインとオフラインの顧客体験を融合するOMO(Online Merges with Offline)、オンラインで購入した商品がリアル店舗で受け取れるBOPIS(Buy Online Pick-up In Store)などは、日本の小売業でも当たり前の取り組みとなっています。逆に、こうした『買い物のデジタル化』を積極的に推し進めなければ、ビジネスの先行きが弱含みとなってしまう可能性があります」(中嶋氏)

デジタル技術や顧客データを起点として、小売だけでなく、金融や物流、メーカー、卸などの機能が融合するエコシステム化が進んでいるのも最近の傾向だ。自社グループ内にこれらの機能を取り込んで顧客価値を高めようとする小売企業の動きもある。

「そうした企業は、どの事業セグメントに投資を集中させるのかを合理的に判断する必要があります。セグメントごとの将来の成長性を見極めながら、最適な事業ポートフォリオを構築しなければなりません」と中嶋氏は指摘する。

小売業界のビジネスモデルトレンド
店舗:店舗業務のデジタル化、デジタル空間に向けた顧客行動データ活用。EC:日配生鮮でもECが浸透、EC特性を生かした新たな販売機会の獲得、店舗とECを統合したMD。物流:ECに必要な宅配機能の強化、データ活用やデジタル化によるサプライチェーン効率化。メーカー卸:消費者の価値観の多様化に対する分析、D2Cなど販路の多様化。メディア:O2Oデジタルマーケティング、顧客データを用いた広告/マーケティング。金融:スマート決済による顧客囲い込み・顧客データ収集、ユーザー向けローン等が新たな収益源化等。

資本コストを意識しながら
最適な投資配分を決定する

とはいえ、企業が投資できる金額には限りがある。資本コストを意識しながら、戦略や事業ごとの最適な投資配分を意思決定するには、どのようなアプローチが求められるのか。

「事業ポートフォリオ管理のポイントは、それぞれの事業の現状や位置付けを可視化した上で、位置付けに応じた事業ごとの資源配分を決定し、低採算事業の入れ替えといったポートフォリオの再編まで検討することです」と語るのは、あずさ監査法人の程原真幾氏である。

事業の位置付けを可視化する方法として、程原氏は①過去実績による定量評価と、②将来見込みによる定性評価の2つの物差しを使用することを提言する。

過去実績による定量評価では、成長性と資本効率性を尺度に事業ごとの位置付けを評価する。「成長性も資本効率性も高い事業は、今後も成長や事業の拡大が期待できます。反対にどちらも低い事業は、規模縮小・撤退も検討するといった判断の目安ができます。これを見定めた上で、②の定性評価を行います」(程原氏)。

仮に、過去実績では成長性も資本効率性も低い事業だったとしても、将来見込みが大きいと判断すれば、ポートフォリオから排除することなく、むしろ投資配分を高めるという選択肢もある。また、「OMOやBOPISといったDXを推進することで、成長性がさらに高まる事業もあります。そうした事業は、より投資配分を高めるといったアプローチで、事業ポートフォリオ管理のPDCAサイクルを回していくのです」と程原氏はアドバイスする。

経営の意思決定を伴う戦略投資は
一定の予算枠を確保しておく

以上は、事業ごとの位置付けの定め方と、それに合わせた投資配分の考え方だが、企業グループとしての成長を実現するには、事業投資の他に、グループ全体としての戦略投資も検討する必要がある。

「顧客価値を高めるため、金融や物流といった小売以外の機能をグループ内に取り込むM&Aや、グループ全体としての共通EC基盤の構築、新たな業態や商品・サービスの開発といった戦略投資は、経営の意思決定に基づいて配分すべきです。一般にこうした戦略投資は規模が大きく、経営の裁量に応じて柔軟に配分できるようにするのが理想なので、一定の予算枠を確保しておくことが望ましいでしょう」(程原氏)

また、「戦略投資は、ビジネスモデル変革や新市場創出の可能性が高い分野への投資ほどリスクが大きく、新商品やサービスを開発する場合も相応のリスクを取らなければならないことを踏まえながら、配分を検討する必要があります」と程原氏は提言する。

戦略投資で新しい成長の軸となる事業を創出
コーポレート部門主導で行う新市場進出・新技術のための投資(コーポレート部門で枠を管理する)、事業側主導で行う既存事業の維持・合理化への投資(事業部門で予算枠を保有し、管理する)

KPMGジャパンで消費財・小売セクターを統轄する伊藤勇次氏は、「小売業の皆様が顧客体験を高めていくためには、ニーズに沿った事業ポートフォリオの再編やデジタルシフトへのさらなる対応は必須です。KPMGジャパンは、これらの課題を包括的に支援できるサービスを提供しています」と語った。

CFOアジェンダの具現化を支援

Future of Finance Framework

KPMGジャパンはデジタル技術を活用した経理財務戦略と価値創造を実現するFuture of Finance Frameworkの構築を企業に提唱している。これを具現化するデジタルテクノロジーを活用した統合業績管理(経営企画、オペレーション計画、財務予測が統合された業績管理モデル)を必要とする企業ニーズに対応するために、KPMGが開発したBusiness Analytics & Simulation Engineによる次世代企業業績管理テンプレートの提供を開始した。

Future of Finance Frameworkの詳細はこちら

次世代企業業績管理テンプレートの詳細はこちら