ケーススタディー DNP(大日本印刷株式会社)

製造業務委託取引の電子化9割への挑戦

積年の課題を全社プロジェクトで解決
理想の働き方を追求し続ける

祖業の出版印刷から、包装関連、エレクトロニクス関連まで、幅広い事業を手掛ける大日本印刷(以下、DNP)。その製品の多くは“一品一様”であり、協力会社に製造を発注する生産管理部門の担当者は、細かな指示や確認のためにコロナ禍でも出社せざるを得なかった。「不可能だ」と思い込んでいた生産管理部門のリモートワークを実現するため、協力会社との取引を電子化する全社プロジェクトが始動した。

イノベーションを起こすために
社員の働き方を変える

大日本印刷
常務取締役

橋本 博文

1876年に出版印刷会社の秀英舎として発足以来、140年以上の歴史を誇るDNP。戦後、紙器や包装材、帳票といった出版印刷以外の分野にも事業の幅を広げ、紙からデジタル媒体への移り変わりとともに、ICカードなどのセキュリティー関連事業、液晶ディスプレイ用のカラーフィルターや半導体用フォトマスクなど、エレクトロニクス関連の製品も手掛けるようになった。

現在では、出版や情報セキュリティー、イメージング事業を中心とする「情報コミュニケーション部門」、包装関連や生活空間・産業用高機能材関連事業などを手掛ける「生活・産業部門」、ディスプレイ関連製品や電子デバイス事業などの「エレクトロニクス部門」をビジネスの3本柱とし、飲料事業も行っている。もはや“印刷会社”という枠では括ることのできない、多面的な顔を持った世界でも唯一無二の企業だ。

「2015年に『P&Iイノベーション』という事業ビジョンを掲げ、当社が長年培ってきた印刷(Printing)と、情報(Information)の技術やノウハウなどを掛け合わせて、新たな付加価値を生み出していくという方向性を明確に打ち出しました。DNPが多彩な事業を展開できるのは、それを支えてくれる数多くの協力会社があってのこと。協力会社との緊密なパートナーシップも大切にしながら、我々だからこそできる社会課題解決のためのイノベーションを巻き起こしていきたい」と語るのは、同社 常務取締役の橋本博文氏である。

イノベーションを生み出す環境を整えるには、社員の働き方も変えていかなければならない。DNPはコロナ禍以前から、いち早く情報管理ツールやテレワーク制度を導入し、多様な働き方ができる環境を整えるとともに社員同士のコミュニケーションを活性化させるなど、デジタル技術を積極的に採り入れた業務変革を推進してきた。

その取り組みの一つとして2020年7月に始動したのが、製造業務委託先の協力会社への発注や業務プロセス管理などの取引を電子化する全社プロジェクトである。

コロナ禍を契機に
取引の電子化に挑む

大日本印刷
執行役員

金沢 貴人

協力会社との取引を電子化することになったきっかけは、コロナ禍であった。

2020年初めに新型コロナウイルス感染症が拡大すると、DNPも社員の安全を最優先するために在宅勤務を推奨した。しかし、協力会社に製造を委託する生産管理部門は、取り扱う製品の数が多く、協力会社に細かな指示や確認などを行う必要があることから、出社して業務を処理せざるを得ない状況が続いていた。

「当社が扱う印刷物や包装材、エレクトロニクス製品などは、どれとして同じものはありません。お客様ごとの注文に応じて色や形状、素材などを決める“一品一様”の製品ばかりであり、協力会社には発注のたびに細かくスペックを説明する必要があります。プロセスが複雑で細かいうえに件数も多いので、とても電子化できるような業務ではないと思っていました」と語るのは、同社の執行役員で情報システム本部を担当する金沢貴人氏である。

だが、生産管理部門の社員だけを感染の危険にさらすわけにはいかない。現場からも「本当に出社しなければできない業務なのか」、「デジタル技術を活用すれば、リモートでも指示や確認ができるのではないか」という声が上がり、不可能と思われていた業務委託先の協力会社との取引の電子化に挑むことになった。「コロナ禍という未曾有の危機が、積年の課題を一気に解決しようという意識変革を起こしたのだと思います」と金沢氏は振り返る。

DNPはこのプロジェクトによって、業務をリモート化するだけでなく、製品ごとに異なる発注プロセスを標準化することも目指した。扱う製品が異なれば、発注や管理の仕方も変わるものだが、各製品を担当する部門が実際にどのようなやり方を行っているのかを調べ上げ、合理的なプロセスに統一しようとしたのだ。

そのため、情報システム部門の他に、各製品の生産管理部門からメンバーを集め、全社プロジェクトとして取り組むことにした。さらに、社内の知見だけでプロジェクトを推進するのは困難だと考え、業務プロセス変革、電子化のためのシステムの選定、大規模プロジェクト管理をトータルに支援することが可能なKPMGコンサルティングに協力を仰いだ。

橋本氏は、KPMGコンサルティングのプロジェクト支援について、「各部門の発注や管理の方法を丹念に調べ上げ、部門間の意思疎通を図りながら標準化を進める作業プロセスにしっかりと伴走してもらったことに、仕事の丁寧さと調整力の高さを感じました」と評価する。

一方、金沢氏は、「社内のメンバーは全員、本業を抱えながらプロジェクトに関わらざるを得なかったのですが、全体の意見集約や進捗管理をしっかり行ってもらえたおかげで、プロジェクトを遅滞なく前に進めることができました。アドバイザーの立場にとどまることなく、主導的に支援してもらえたことに感謝しています」と語る。

プロジェクトメンバーの熱意が
何よりの成功要因

DNPは、取引を電子化するためのシステムとして、インターネットで接続できるWeb-EDIのSaaS利用による導入を志向した。

取引を電子化するには、協力会社にもそのための環境を整備してもらう必要があるが、Web-EDIなら、特別なシステム、ソフトウエア、専用回線などを要さず、パソコンのWebブラウザを介してインターネットにつなぐだけで使えるので、汎用性を確保しつつ、協力会社の負担も軽減でき、導入に前向きな協力を仰ぎやすいと考えたのだ。

しかし、Web-EDIは、国内に導入事例が少なく、どのSaaSベンダーのシステムが適しているかの確証が持てなかった。

「KPMGコンサルティングに、客観的な視点で、有力候補のリサーチや我々が目指す取引電子化に必要な選定ポイントの整理などをしてもらい、一気通貫の最適なシステムを選べました」と金沢氏は語る。

図:取引電子化後の業務イメージ ■DNP、取引先の双方でリモートワークも見据えた、時間と場所、紙書類に縛られない取引オペレーションへの変革 ■DNP/DNPグループを横断しての取引オペレーションの標準化、ヒトの作業のシステムへの移管による業務効率化 ■蓄積されたデータをもとに、取引QCDの向上や不適切・不正な取引検知に繋げる基盤の構築

手始めに2021年11月、15社の協力会社がWeb-EDIに接続。スモールスタートで運用効果を確かめながら、徐々に接続する会社を増やしていった。2022年3月時点では150社が接続しており、2022年末には一気に5000社まで増える予定である。これが実現すれば、DNPが行っている業務委託先との年間取引、約50000件中の45000件、つまり9割が電子化する。

橋本氏は、「おかげで生産管理部門の業務のリモート化は進み始め、理想の働き方に一歩ずつ近づいています。ゆくゆくは協力会社との取引だけでなく、購買など他の業務の電子化も実現したい」と抱負を語る。

プロジェクトを支援したKPMGコンサルティング パートナーの坂田英寛氏は、「プロジェクトメンバーの方々の『働き方を変えたい』という意欲が非常に高く、本業を抱えながらも熱心に取り組まれたことが、何よりの成功要因だったと思います」と振り返る。

また、KPMGコンサルティング 代表取締役社長兼CEOの宮原正弘氏は、「電子化によって取引履歴などの膨大なデータが蓄積されれば、データドリブン経営にも役立つはずです。DNP様のさらなるデジタル変革によるご発展を、引き続き支援させていただきたい」と語った。

KPMGコンサルティング

  • 代表取締役社長 兼 CEO
    宮原 正弘氏(左)
  • 執行役員
    オペレーションストラテジー統轄パートナー
    坂田 英寛氏(右)