ヤッホーブルーイング

明確な組織文化があるから成功につながる
地方クラフトビールメーカーのDXステップコロナ禍の成長を支えるデジタル戦略

長野県内に本社と醸造所を構えるヤッホーブルーイング。日本国内のクラフトビール人気をけん引してきた同社は、2021年まで19期連続の増収を達成、最高益を更新している。コロナ禍で打撃を受けるビールメーカーが多い中、成長を続ける要因の1つにはDXの推進があるようだ。

フラットな組織づくりに貢献する「雑談朝礼」をオンラインで

ヤッホーブルーイング
代表取締役社長
井手 直行 氏

自然な流れで踏み出した――講演者を務めた同社の井手氏は、セッションの冒頭、DXを進めた経緯について、こう振り返り、理想とする組織文化の維持、実現を考えた結果、デジタル化が進んだことを強調。そして、自社の組織文化についての説明を続けた。

同社には「ガッホー文化(頑張れヤッホー!文化)」という組織文化があるが、これはミッションを実現するための行動指針となるもの。そして、その中の「究極の顧客志向」の大前提となるのが、フラットな組織文化である。

「フラットな組織とは、社長、管理職、一般社員、パートやアルバイトなどの役割や、先輩後輩に関係なく、スタッフ同士が自由に何でも言い合えるような組織のこと。自由な議論の中で、一番良い打ち手を選ぶことで、皆が納得感をもって活動する――このような考えをベースに事業を展開しています」と井手氏。しかし一般に「会議では自由に考えを述べましょう」とルールを設けても、結局意見を述べるのは上長ばかりで議論にならないことが往々にして起こる。なぜなら、いくらルールがあっても、職場での心理的安全性が担保されていなければ、自由に意見を発することは望めないからだ。

そこで、同社では心理的安全性を向上するためには日頃のコミュニケーションが重要と考え、役職や年齢に関係なく、スタッフ同士をニックネームで呼び合ったり、直接業務につながらない雑談を交わしながら、関係性を築くことを心がけているのだ(ちなみに井手氏自身も社内では「てんちょ」というニックネームで呼ばれている)。

しかしコロナ禍で在宅勤務になったことで、前述のようなコミュニケーションをとることが難しくなってしまった。ここでスタッフが自発的・主体的に取り組みを進めたのが、「雑談朝礼」のオンライン化である。「雑談朝礼」とは、毎朝30分ほど仕事とは関係のない雑談を交わすもの。コロナ禍前には、事業所や部署単位で対面実施してきたが、これをオンライン会議ツールを介して行うことにしたのである。

ただ、取り組みを進めると、映像が途切れるなどのトラブルが発生する。「ネットワーク環境の増強や会議ツールの見直しなど、インフラも整えながら、ようやく『雑談朝礼』が軌道にのってきた」と井手氏は振り返る。

軌道にのった「雑談朝礼」は、デジタルのメリットを生かし、拠点や部署に関係なく、ランダムに選ばれたメンバー同士で雑談を交わす「シャッフル朝礼」という形に進化していった。

以上は、フラットな組織を実現するために取り組んできたコミュニケーションを、コロナ禍でも実現させるため、デジタルを活用した事例だが、その都度必要な対策を講じていった結果、さらなる発展を遂げたのである。

同社の組織文化を図示。フラットな組織内で、スタッフが「究極の顧客志向」を目指し、自らの個性を発揮する「知的な変わり者」として活躍していく

新顧客管理システムで情報を集約し、事業成長のジレンマを解消

セッションの後半には、先述の組織文化に位置づける「究極の顧客志向」実現のためのデジタル活用について言及。

「究極の顧客志向」を標榜し、ファンイベントを定期的に開催するなど、顧客との絆を築くことに力を入れてきた同社では、事業が拡大し、顧客やファンの数が多くなるにつれ、顧客情報を適切に管理することが難しくなっていったという。

ファンイベントの参加履歴やチャネルごとの顧客情報などは、担当部門ごとに管理していたため、それぞれの情報は紐づいておらず、顧客とのコミュニケーションに問題が生じるリスクをかかえていたという。例えば、久しぶりにファンイベントに参加した人に「ファンイベントへのご参加ありがとうございました。私たちのことを覚えてくださり嬉しいです」とイベント担当者が連絡したとする。しかし、この参加者が、ECでギフト用商品を定期的に購入していた場合、「結構、頻繁に利用しているのに、知らないの?」と思われてしまい、気を利かせて行ったことが逆効果になってしまうということもあり得るのだ。

そのような課題を解消するために「数年前から、全てのタッチポイントの顧客情報を集約するために、顧客管理システムを導入した」(井手氏)という。

購買情報やイベント参加履歴はもちろん、ギフト商品の送付先の情報も一元化されたことで、例えば、電話で注文してきた顧客が過去に父の日のギフトを送られたことも把握できるようになった。実際に「オペレータがその旨を伝えたところ、大変話が弾み、お客様に喜んでもらうという事例があった」と井手氏。他にも、顧客の誕生日にお祝いメッセージを送ることなども可能になった。このような取り組みは、あくまでオペレータスタッフ自らが行っているようだ。

「オペレータが、自分のできる『究極の顧客志向』の取り組みを、データを見ながら臨機応変に対応しています。ですから、オペレータが10人いれば10通りの対応、データの使い方がある。常に同じ対応ではないんです」(井手氏)

つまり、データさえあれば同社と同じことが可能になるわけではないのだ。同社の場合、DX推進前から「フラットな組織づくり」や「究極の顧客志向」という考え方が徹底されてきたからこそ、やるべきことが明らかになり、成果につなげることができたのだろう。

「(DXを成功に導くためには)まずはやるべきことをやることが大事だと思います。そしてデジタル化。そして変化に適応し、仕組みも変える。そして幸せの連鎖が始まる――このような流れかと思いますね」と井手氏は説明し、セッションを締めくくった。

チャネルごとの購買情報、問い合わせ情報、イベント参加履歴などを一元化し、顧客への感動体験の提供に役立てる