デザイン重視の経営で、
ブランド価値を飛躍させる

住宅、オフィス、ホテルなど幅広いデザインを手がける三井デザインテックと、「くまモン」「相鉄」のほか、「HOTEL THE MITSUI KYOTO」や東京ミッドタウンなど、数多くの企業ブランディングに携わってきたクリエイティブディレクターの水野学さんとの対談企画。今回は、新しい働き方を実現するためのワークプレイス「CROSSOVER Lab」を昨年開設した三井デザインテックの新本社オフィスで、同社の檜木田敦社長と水野学さんが「デザインと経営」をテーマに語り合った。

檜木田 敦(三井デザインテック社長)

檜木田 一昨年三井デザインテックと三井不動産リフォームは経営統合し、社屋を東銀座に移して新しいスタートを切りました。「CROSSOVER Lab」と名付けたこのオフィスは、“新しい働き方”を実現するために様々な要素を盛り込み、ショーケースとしての機能も持たせたワークプレイスなんです。

水野 「協創(コ・クリエーション)」をテーマの1つに掲げられていますよね。英語の「コ(co)=ともに~する」という言葉がキーワードですね。

檜木田 その通りです。当社は住宅、ホテル、オフィスなど多様な空間のデザインを手がけていますが、様々なジャンルの知見を掛け合わせ、それをお客様の課題解決につなげる「クロスオーバーデザイン」が強みです。その強みを発揮するには、社員1人1人の専門性や個性を生かすことが大切で、イノベーションはその掛け合わせから生まれる。そんな思いを体現するオフィスを目指し、議論を重ねました。どういう会社にしたいのか、自分らしい働き方を実現するためにはどんな空間を作るべきか。その結果、オフィスの9割を「コラボレーション(連携・協創)」と「コミュニケーション」のスペースにしました。それらが、テレワークが進む時代のリアルオフィスに求められる役割だと確信したからです。「集まることで何かを生みだす」という方向に舵を切りました。

水野 僕はそれ(集まることで何かを生みだすこと)を、「トキワ荘効果」と呼んでいます。トキワ荘は、昭和を代表する漫画家たちが青春時代に暮らしたアパートで、手塚治虫さんや藤子不二雄さんといった著名な漫画家を大勢輩出しました。もちろん各人それぞれが優秀だったわけですが、何よりも仲間がいて、お互い切磋琢磨したことが大きい。トキワ荘という「場」「器」が必要だったのです。テレワークは便利ですが、「器」や「場」を設けることで、いい仕事につながるのではないでしょうか。

水野 学(good design company代表 クリエイティブディレクター)

檜木田 一緒にいることから生まれる相乗効果ですね。

水野 そうした「器」や「場」の持つ効果の検証はどうされているのですか。「こういうオフィスを作ったら、売り上げが倍になりました」と言えればいいですが、数値化しにくいですよね。

檜木田 社員へのアンケートという形で、「以前と比べて風通しはどうか」「生産性は上がったか」「コミュニケーションは取れているか」などを数値化し、移転前後を比較しています。それによると生産性については、10%ほど上がったという結果が出ています。「いいアイデアが出せた」「会社に来るのが楽しくなった」という回答も多数得ました。

水野 「これをやると売り上げが何%上がるのか」という質問は僕もよく受けます。顧客の満足度が上がり、売り上げが伸びることは大切ですが、その会社で働く従業員の方々がプライドを持って仕事をしていくこと、それ自体が企業価値の創造につながっていくと思います。
 例えば、リクルーティング上の優位性が上昇するなど、「ブランド価値」にはそうしたことも含まれていて、僕の仕事はそうした「ブランド価値」を築いていく作業です。

檜木田 「自分たちの会社はこうありたい」という独自の尺度を、企業がしっかりと持つことが重要ですね。
 企業価値を上げていくということでお伺いしたいのですが、ブランド力が高い企業に共通点はありますか。

水野 3つあると思います。第一に、トップ(経営陣)のクリエイティブ(創造)感覚が優れていること。具体的に言うと、アップルなどが代表的な事例でしょう。アップルの成功の要因は様々に分析されていますが、スティーブ・ジョブズというトップの美意識が企業活動に反映され続けた結果が、同社の飛躍につながりました。
 第二に、トップの“右脳”的な役割を果たすクリエイティブディレクターを招き、経営判断をしていること。僕の携わっている仕事(企業)の大半はこの形です。
 第三に、経営直下に「クリエイティブ特区」があること。「デザイン経営」が注目されていますが、ブランド力のある企業はその多くが、経営戦略の中核にデザインの視点を取り込んでいます。

檜木田 企業ブランディングは、経営課題の核心だということですね。水野さんは「デザインは装飾と機能の融合」「装飾も機能もどちらも大事」とおっしゃっていて、その考えには深く共感しています。

水野 「装飾」と「機能」は洋服に例えると分かりやすいです。機能だけを考えれば、服は着ることができれば何でもよいわけですが、ボタンの付け方や色をどうするかなど装飾によって見え方や世界観が変わります。
 似たような構図で、「文化」と「文明」があります。この2つは常に歴史の中で揺れ動いてきました。日本には平安時代や安土桃山時代など、歴史の中で高い文化レベルを保っていた時代がありました。しかし、近代化の流れの中で、文化は飾りだとして置き去りにし、文明へシフトしていた時代が続きました。昨今のデジタル革命は第4次産業革命とも呼ばれていますが、僕自身は「網業革命、ネットレボリューション」と呼んでいます。ネット(WEB等)の台頭で、また機能を重視する文明にスポットが当たりました。しかし、歴史の中で、文明と文化の流れが交互にやってきたように、そろそろ文化のフェーズが訪れると思っています。
 かつて日本は文明(=役に立つこと、便利さ)を武器に欧米を脅かしていましたが、その力は現在、中国や東南アジアに取って代わられ始めています。日本が文化(=意味のあること、世界観の醸成)にシフトし、進化できるかどうかがポイントだと思います。
 三井デザインテックの新本社オフィスも、ぜひ文化を生み出すオフィスであり続けてほしいと思います。

三井デザインテック本社

緑や光を豊富に取り入れたwell-beingなデザインのコラボレーションエリア。ここから中庭に出ることもできる。

三井デザインテック本社

ホテルのようなロビーのしつらえ。伝統と革新をクロスオーバーさせた四季折々のデジタルアートがお客様を迎える。

SORANIWA

屋内エリアと繋がる空中庭園SORANIWA。アウトドア家具が置かれ、開放的な空間でリフレッシュしながらイベントやワークをすることが可能。

D's CAFE

社員にも人気の高いWell-beingなデザインのカフェエリア。偶発的な出会いを生む空間が、コミュニケーションを促進する。

三井デザインテック本社 撮影/Nacasa & Partners

檜木田 「文明」と「文化」のどちらも大事であるのと同じように、「装飾」と「機能」のどちらも大切なのですね。そのことに気づいていれば、企業は時代に合わせてシフトチェンジしていけるのではと思います。
 当社はホテルの空間づくりのお手伝いをさせていただくことが多くありますが、当社の仕事も単なる室内装飾ではなく、その土地の文化や歴史を想起させるような工夫を求められるケースが増えています。そのようなホテルでは、リピーターのお客様がとても多いのだそうです。我々も「お客様が訪れる度、新たな発見をご提供できるようにしよう」と思いながら仕事をしています。もちろん、季節の食材を準備したり、庭を整えたりされる従業員の方々のご努力もそうですね。心遣いは様々ですが、それがお客様の満足につながる。そうしたことが、そこで働く人のプライドにつながる。ブランドの価値というのは、その結果だと思います。デザイン経営とは、そうした知見・経験を積み重ねることで実践できるものかもしれません。

水野 はい。ブランド価値とは、そうして育まれていくものだと思います。

文/平林理恵、人物撮影/世良武史、撮影場所/三井デザインテック本社

三井デザインテック株式会社

TEL 03-6366-3131
https://www.mitsui-designtec.co.jp/