三井住友海上が本気で挑むDX戦略の未来図

三井住友海上火災保険 執行役員 ビジネスデザイン部長 本山 智之 氏 × A.T. カーニー日本法人会長 CIC Japan 会長 梅澤 高明 氏

MS&ADインシュアランスグループホールディングスの傘下で損害保険事業を営む三井住友海上火災保険。
同社でDXを推進してきた執行役員ビジネスデザイン部長の本山智之氏と、
コンサル会社A.T. カーニーの日本法人会長であり、イノベーション創出の拠点・CIC Japan会長の梅澤高明氏が語り合う。
三井住友海上が2022年3月までの4カ年の中期経営計画で取り組んだDXの成果を踏まえ、保険業界の未来図を展望する。

《前編》

DX戦略の先に見えてきた
新たなる目標

業務効率化と顧客体験価値の向上を
同時に進めたDX

梅澤DXというと、社内業務の効率化がDX1.0で、顧客体験価値の向上がDX2.0であるとも言われますが、御社の前中期経営計画「Vision 2021」にてDXを推進するにあたり社内業務プロセスのデジタル化と顧客体験価値の向上を同時に取り組まれたようですね。

本山はい、その通りです。以前は社内業務においては紙ベースの書類業務も少なくなかったので、まずはそれを一掃することに取り組みました。成果が目に見える分、やはりDX1.0のほうが進めやすかったですね。また、社内業務の効率化を実施しながら、顧客体験価値向上につながるものは何かを考えました。保険契約者様の9割は一度も事故に遭いません。保険の契約手続きや保険金の支払いをフルデジタル化することも大切ですが、そもそも事故を起こさないためにはどうすれば良いのか、事故が起こってしまった時にお客様に喜んでいただける迅速な対応はどのようなものか。顧客体験価値の向上につながるDX 2.0が必要だと考えました。

梅澤取り組まれてきた手応えや感触はいかがでしたか。

本山当初はどうしても業務のプロセスの前提を変えずにデジタル化するとか、このパーツの部分をデジタル化するという方法論に留まってしまいました。

本山 智之 氏

三井住友海上火災保険  執行役員 ビジネスデザイン部長

本山 智之 氏

1989年4月三井海上(旧大正海上)火災保険株式会社に入社。営業や営業推進、人事を経て、2019年4月にデジタル戦略部長に就任。2021年4月から執行役員デジタル戦略部長。前中期経営計画の重点戦略であるデジタライゼーション推進を統括。2022年4月、執行役員ビジネスデザイン部長。三井住友海上のビジネスモデル変革・創造の実現に向けた各種取組を推進。

梅澤それでは、デジタルトランスフォーメーションではなくて、単なるデジタイゼーションに過ぎないですからね。

本山ご指摘の通りです。その水準ではコストも時間もかかるし、お客様に喜んでいただけるプロセスに変革することはできない。そこで原点に立ち返って、「そもそも、我々はなぜこのやり方をしてきたのか」と自問すると、結局は前例踏襲とか、上司からの指示とか、そういった理由が大半を占めていたのです。だから、それを一つずつ潰していく作業をしました。残ったプロセスを練り直し、まずは徹底的にシンプルでわかりやすいプロセスに変革し、それをデジタル化していきました。ようやく、現状ではデジタルトランスフォーメーションになりつつあるという感触を得ています。

梅澤その過程では、どういう指標を重視してトランスフォーメーションを進められたのですか。例えば作業工程の数を減らすとか、リードタイムを短縮するとか、あるいは顧客満足度を上げるとか、KPIや目標の様々な置き方があると思います。御社では特にどういうところに注目されましたか。

本山最初は山のようにKPIを作り、それを進捗管理するという状態でした。途中まではそれで進めていましたがKPIをひたすら追っていくことに腐心するようになってしまって…。定量的な目安やKPIがないと不安になってしまいますが、そこを敢えて捨て、この領域はこの期限までにこの段階までできるようにしようというやり方にして。投資コストも短期・長期のリターンを考慮し、確実に回収できるよう運営を見直してきました。

梅澤 高明 氏

A.T. カーニー日本法人会長 / CIC Japan 会長

梅澤 高明 氏

東京大学法学部卒、MIT経営学修士。A.T. カーニー(日本・米国オフィス)で25年にわたり、戦略・イノベーション・都市開発などのテーマで企業を支援。国内最大級の都心型イノベーション拠点「CIC Tokyo」で、スタートアップコミュニティを構築中。
インバウンド観光、知財戦略、クールジャパンなどのテーマで政府委員会に参加し政策立案に関与。民間専門家チーム「NEXTOKYO Project」や観光庁・文化庁のプロジェクトを通じて、街づくり、文化創造、観光立国の融合を目指す。一橋ICS特任教授。

虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー内 CIC Tokyoにて撮影

DX、DI、DGという3つの領域に分類

本山4年間のうち2年で細かいKPIを追うのをやめ、領域をもう一回分け直したのです。既存の業務を改革する領域をDXと呼び、新しいビジネスを創造する領域をDI(デジタルイノベーション)と位置付けた。さらにDG(デジタルグローバリゼーション)という領域を設けました。これは、国内と海外でデジタルアセットや好事例を受け入れて相互に展開しようという発想です。これまでに進行していたものを3つのカテゴリーに分けてきちんと整理しました。さらに領域ごとの人材育成と対応するシステムの基盤づくりを進めました。あとは何をやってはいけないのかというルールが必要なので、デジタルガバナンスの観点から、独立した部署としてデータマネジメント部を新たに作ることで、それぞれの領域で、途中で一喜一憂しない仕組みを作ることに努めてきたのです。

DX戦略を推進するために、3つの領域に分類

DX戦略を推進するために、3つの領域に分類

梅澤今は何合目まで来た感じですか?

本山保険の契約手続きから保険金の支払いまでがフルデジタルになり、社内では業務時間も短くなり、業務の生産性が上がったことは確かです。しかし、今はここがゴールではないと気づきました。頂上だと思ったら、その後ろに見えない山があったのです。世の中でSDGsだ、地方創生だ、スマートシティだと盛んに言われている流れの中で、我々には社会的な価値をもっと生み出せるのだと考えるようになりました。

梅澤そもそもどこを頂上と定義するかにもよりますからね。目標が上がったというよりは、さらに重要な、高い目標が見えてきたということでしょうか。御社のRisTech (リステック)もその流れから生まれたものなのでしょうか。

本山RisTechは、リスクとテクノロジーを掛け合わせた言葉で、保険会社が持つ相当数の情報を活用し、事故防止につなげようという発想で生まれました。事故は偶然起こるのではなく、こういうプロセスを踏むと事故が起こるということはデータから示されます。そういう情報は、これまで保険会社では保険商品を開発する際に使っていました。

梅澤つまり保険料の試算に使うということですね。

本山そうです。このデータをもっと有効に使おうと考え、我々が持つ情報とお客様が持つ情報を掛け合わせて分析し、事故の防止をサービスとしてお客様に提供するのがRisTechです。現状では370~380社にサービスをご利用いただいていますね。

自社の持つ情報と技術を活用し、
社会貢献につなげていく

梅澤どういう分野の利用者が多いのですか?

本山ご利用者様の中で多いのは、小売業などがあります。例えば、「店舗の冷凍庫が壊れたから、アイスは売れません」ではまずいわけです。通常、修理する部隊がすぐにかけつけられるように待機しているのですが、実は店舗の立地とか使用頻度のデータを分析すれば、故障するタイミングが事前にかなりわかるのです。そこで我々は、機械が壊れて営業できない場合の利益を補償する保険とともに故障を予測するサービスをお勧めしています。我々にとってもお店が閉まらないことが重要ですが、故障する前にデータをもとに予めメンテナンスをすることで、壊れる頻度を圧倒的に下げられる。結果、修理部隊や在庫を抱えるコストも削減できるのです。

梅澤そのケースでは、データをリアルタイムでモニタリングされているのですか?

本山 智之 氏

本山機種によってIoT機器からデータを取ったり、シンプルなものは単なる耐用年数や店舗の情報などから調べるだけでも一定の効果はありますね。一定の頻度で故障が起こるようなケースでは、IoT機器をつけてデータを収集・分析することで事故を防止できます。

梅澤保険の観点から言えば、事故が生じて稼動率が下がることで損害が大きいものは、全部ニーズがあるということでしょうか?

本山はい。そうですね。簡単に言うとそういうことになります。その中でも、RisTechを人命にかかわるものに有効に活用したいと我々は考えています。近年、様々な自然災害が日本で多発しています。そのような中、地方自治体が避難勧告に踏み込む際の判断は非常に難しい。そこで、我々が少しでもサポートできないかと。この量の雨なら川の水位がどれくらい上がるというデータを活用し、ハザードマップなどを組み合わせてより高精度の避難情報を提供する取り組みを始めました。

梅澤 高明 氏

梅澤御社の情報と技術を社会貢献につなげていくということですね。

本山そうですね。もともと持っていたものがお役に立てれば、少しでも早い避難を促し、人命を救うことになると思います。保険会社にとっても、事故を減らせば損害を減らしていくことができます。事故をいかに防ぐか、事故が発生した後にいかに早く復旧できるかという補償・保障の「前後」の部分がお客様にとって極めて大切なこと。これらすべてが三井住友海上の保険だと考えます。今は、その延長線上にどんどん広げていこうとしている段階です。先ほど、山を何合目まで登ったかと言われましたが、その先に見えてきたのは、私たちの仕事が世の役に立つことを証明できて、初めてトランスフォーメーションなのだということですね。

  • 後編 DX戦略の先に見えてきた新たなる目標
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三井住友海上火災保険株式会社

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