経済産業省が2020年に公開した「DXレポート2」では、大半の企業がDXに未着手か、一部の部門の実施でとどまっていることが明らかになった。要因は企業によって様々あるが、特に共通した課題として挙げられるのが人材不足だ。
DX推進のカギを握る人材不足をいかに解消するか。その積極的な支援を展開している企業の1つがNTTデータだ。同社は業界問わず幅広い企業と共にDXを推進しており、2020年度における実績は129事例に及ぶ(図1)。
この中核を担うのが、「デジタルテクノロジーディレクター」だ。
「デジタルテクノロジーディレクターは、お客様と伴走しながらDXの課題を解決します。具体的には、お客様のビジネスを理解して共に新しい事業を創出していく『ビジネス俯瞰力』、最先端の技術を駆使しながらイノベーションを推進していく『テクノロジースキル』、組織横断で発揮する『リーダーシップ』という大きく3つの付加価値を提供します」とNTTデータの小原 正芳氏は語る。
NTTデータは業界問わず幅広い企業と共にDXを推進しており、2020年度における実績は129事例に及ぶ。こうしたDXサポートにおけるキーパーソンとなっているのが、デジタルテクノロジーディレクターだ
それでは、どのようなアプローチでDX推進をリードしていくのか。小原氏は「DX推進」「DXマインド変革」「DX内製化」の3つを挙げる。
1つ目の「DX推進」は、企画から開発、運用までDXを共に実践していくというアプローチだ。実際、どの企業もDXの重要性は認識しているものの、「何から考えてよいか分からない」「実現しない施策(絵に描いた餅)にならないか不安」といった悩みを抱えているケースは珍しくない。
そこで多くのDX案件に携わり実績を培ってきたデジタルテクノロジーディレクターがその知見を生かし、トータルサポートを行う。「企画からシステム化検討、実行・開発、運用まですべてのプロセスを一貫し、デジタルテクノロジーディレクターがお客様の前を走ってDXを実践していきます」と小原氏は訴求する。
2つ目の「DXマインド変革」では、小さなDXを積み重ねながら企業が自ら変革する文化を醸成していく。DXという新しい試みに対して、社内から反発を受けたり、無関心であったりで、なかなか呼びかけに応じてくれないのが実情だ。「こうした社内の意識を変えていくことがまず重要です」と小原氏は説く。
そこでデジタルテクノロジーディレクターは、DX施策の検討に際して最初のうちは自らがファシリテートを担当し、DXの方法論や事例などを提示しながらプロジェクト立ち上げ時の議論をリードする。そしてチームのマインドが成熟してきた頃合いを見計らって、徐々にファシリテート役を顧客に移行していく。こうして最終的に、顧客自身が洗練化されたDX施策を打ち出していけるレベルまで持っていくというのが基本的なアプローチだ。
このDXマインド変革について、小原氏は1つの事例を紹介する。それは、様々な業務の中に紙や電話、ファックスを使ったアナログプロセスが大量に残っていた企業のある部門に対して、NTTデータがDX施策の一環としてWeb化を支援してきたというもの。「最初の取り組み自体は非常に小さいものでしたが、この成果を別の部門にも紹介したところ、『そんなことができるのであれば、ぜひ自分たちもやってみたい』という声が次々に上がるようになりました。小さな成功事例を共有し、『自分たちにもできる』という意識を醸成したことが、その後のお客様の全社的なDX推進を呼び起こしていく大きなターニングポイントになりました」と小原氏は語る。
3つ目の「DX内製化」では、ハンズオン指導によりデジタル技術を自社に取り込んでいくことがその狙いとなる。昨今、内製化の志向はビジネスの柔軟性やアジリティを求める企業の間で高まりつつあるが、それに伴い新たな課題に直面するケースが多い。「技術変化を目利きできる人材が社内にいない」「技術実装の全体像や道筋を立てられる人材がいない」といったことはその例だ。
ただし内製化といっても、あらゆる技術要素について企業が自ら取り組む必要はない。それらの技術の中には非常に難易度が高く、専門知識が要求されるものも存在するからだ。
「技術の目利きやシステム化の全体デザインといったところは、豊富な知見を持ったデジタルテクノロジーディレクターが主導しつつ、お客様がどの技術を内製化すべきか、逆に外注したほうがよいのかといったご相談にも対応しています」と小原氏は語る。
例えばクラウド活用やアジャイル開発といった技術は、一般企業でも比較的導入しやすいレベルにまで進展しており、DXに関するメリットも非常に大きいものがある。一方でコンテナやDevOpsといった技術はまだまだハードルが高く、最初から思い通りに使いこなすのは困難で、習得するにも長い期間を要する。いつかはチャレンジするにしても優先度を考慮したほうがよい。
こうして、いったん内製化の範囲が決まったあとはデジタルテクノロジーディレクターがトレーナーとなり、OJT(On The Job Training)をベースとした繰り返しの実践・指導を通して技術実装の流れを自社に取り込んでいくわけだ。
「もちろん講習会や勉強会などの座学を通じた体系的な知識の習得も重要ですが、DX内製化に向けてはお客様が主体となって技術をしっかり取り扱えるように、必要なスキルを体得する必要があります。そこでDXを推進していく中では、お客様自身に実際にシステムの開発や運用に当たってもらいます。デジタルテクノロジーディレクターはその折々の過程でレビューやアドバイスを行い、お客様がスキルを高め、実践的なノウハウを蓄積していくことに注力するのです」と小原氏は語る。
なお同社では、デジタルテクノロジーディレクターがDXに関する問題点や解決に向けたヒントを提示する発信サイトを提供。様々なケーススタディについてその考察を行っている。もしDXに課題を抱えているなら一度情報収集をしてみるのもよいだろう。
ここまで紹介してきた3つの勘所から、DXを推進していく上では「小さくやってみる」「成功体験を積み重ねる」「挑戦を受け入れる組織文化をつくる」というサイクルを繰り返しながら、目指すゴールに近づいていくことが重要だ(図2)。今後もNTTデータは、企業の共創パートナーとして伴走し、デジタルテクノロジーディレクターを通じて、DX推進に向けた次の一歩を踏み出す支援を展開していく考えだ。
DXは一朝一夕で実現するものではなく、社内からの反発や無関心によって思うように進まないこともある。従って小さな成功体験を積み重ねながら、挑戦し続ける企業文化を作り上げることが重要だ