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Embedded Financeで金融の新しい未来を創るEmbedded Financeで金融の新しい未来を創る

NTTデータが金融サービスのデジタル化を後押しする新サービス「API Gallery®」を始めた。流通業やEC企業、通信会社など多様な業種の企業が決済など様々な金融機能を自社サービスに組み込んで提供しやすくなり、顧客サービスの新たな可能性が広がる。Embedded Finance(エンベデッドファイナンス)などと呼ばれる取り組みであり、成功の鍵はAPI(アプリーション・プログラミング・インターフェース)の活用促進にある。

NTTデータ「API Gallery」が目指す新たな世界
~あらゆる企業が自社サービスに金融機能を組み込み可能に~

 現在、大きな盛り上がりを見せている金融分野のテクノロジーがEmbedded Financeだ。Embedded Financeは一般企業が提供するサービスの中に、金融サービスをAPI経由で埋め込んで使えるようにする状態を指し、「埋込型金融」とも訳される。

 Embedded Financeは米国での取り組みが先行していたが、日本でも近年、先進的な企業を中心に事例が増えている。例えばファーストリテイリングは2021年、「ユニクロアプリ」にQRコード決済機能「UNIQLO Pay」を追加。店舗を訪れた買い物客がアプリ内で決済まで完結できるようにした。

株式会社NTTデータ
バンキング統括本部
OSA推進室 部長
青柳 雄一

 一般企業が自社サービスに金融サービスを埋め込むと、どのようなメリットがあるのだろうか。NTTデータの青柳雄一バンキング統括本部OSA推進室OSA推進担当部長は「サービスの体験がフリクションレス、つまり手間やストレスがかからなくなるのが最大のポイントだ」と説く。

 小売店のレジで客がポイントカードアプリを開いてPOS端末に読み込ませ、別の決済アプリを開いて支払いをするケースを想定してみよう。客は複数のアプリを操作する必要が生じ、店員の作業も煩雑になる。ポイントカードがアプリではなく磁気式のカードだったり、あるいは紙のクーポン券だったりすれば、客と店員の手間はさらに増す。「ユニクロアプリ」のように、1つのアプリで決済とポイント還元を済ませることができれば、ユーザーの利便性は間違いなく向上する。

 Embedded Financeによるユーザー体験の向上は、今後様々なサービスに広がっていく見込みだ。現状は決済機能が組み込みの対象になるケースが多いが、将来的には融資や投資などにも広がっていくと考えられる。

APIが金融の未来を拓く

 Embedded Financeの潮流は金融機関にとっても新たなビジネスチャンスになり得る。決済や融資、資産運用など金融機関のサービスを機能単位で提供できる好機だからだ。銀行機能のサービス売り、いわゆるBaaS(バンキング・アズ・ア・サービス)などと呼ぶ動きである。

Embedded Finance/BaaSのモデル

 BaaSに向けては、自社の金融機能をAPI経由で提供できるようにするためのシステム整備が金融機関には求められる。そうした取り組みを支援する目的を含め、NTTデータは2020年10月に金融業界向けの新たなシステムアーキテクチャー「Open Service Architecture(OSA)」を発表している。残高や顧客データを管理する勘定系などバックエンドのシステムと、データ分析や新サービスを支える柔軟なサービス基盤、そして社外とのAPI連携基盤のそれぞれを高度化していくための方式とロードマップを示したものだ。

 「従来から提供している勘定系アプリケーションは安全・安定をそのままにハードウエアのみ手を加え、オープン化してコストを下げる」(青柳部長)。その一方で、「新しいデジタルサービスを作る場合は、勘定系の外側でAPIを経由してアジリティ高く実現する」(同)といった戦略を実現しやすくするのがOSAの狙いである。

 金融機関が自社のサービスをAPI化し、Embedded Financeとして外部提供する際は、どれだけ多くの一般企業にそのAPIを活用してもらえるかが収益に影響する。だが「グローバルではAPI活用が広がっている一方で、日本は伸び悩んでいる」(青柳部長)。

 日本のAPI活用が進まない理由について、青柳部長は「どんなAPIがあり、何が出来るのかがまだ広く知られていないことが要因のひとつ」とみる。企業のデジタル担当者が世界中のWebサイトなどを調べて、自社のニーズに合うAPIを独力で探し出すのは至難の業だ。見つかったとしても、機能検証や料金交渉などの負荷がかかる。APIを提供する立場の金融機関にとっても、自社のAPIを宣伝したり、問い合わせに応対したりするには相応の工数がかかるという課題がある。

 こうした問題の解決を目指すのが、NTTデータの「API Gallery」だ。「API Gallery」はEmbedded Financeに役立つ様々なAPIをまとめて参照できるWebサイトだ。APIを使う立場の企業は、自社が求めるAPIや、APIの活用例などを無償で参照・検索できる。APIを提供する金融機関やIT企業についても、自社のAPIを無償で登録できる。

 「API Gallery」の目的は、APIの利用と流通を活発にするところにある。いわばAPIのプラットフォームだ。NTTデータと取引がない金融機関や企業だけでなく、ほかのIT企業も利用可能で、NTTデータのAPI活用に向けた本気度をうかがい知ることができる。

APIマーケットプレイス(API gallery TM)とは
「API Gallery」トップページ

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「知る」「つなぐ」「広げる」

 「API Gallery」は「知る」、「つなぐ」、「広げる」の3つをサービスのキーワードにしている。最初の「知る」に該当する機能としては、利用者によるAPIの参照・検索、サービス開発に必要な仕様の比較、APIの接続テストなどを備える。

 APIの仕様にとどまらず、APIの活用事例など「ソリューション」にまで踏み込んで掲載しているのも特徴だ。青柳部長は「APIの仕様を見るだけでは使い方がよく分からないという日本企業は少なくない。そうした企業でもAPIを利用しやすくするように間口を広げるように意識した」と話す。

 「つなぐ」では、API提供者と利用者のマッチング支援サービスを展開する。加えて、例えば、NTTデータが運営する金融機関向けの共同オンラインネットワーク「ANSER」やカード決済総合ネットワーク「CAFIS」などに代表されるような同社の金融サービスを組み合わせてAPIを利用しやすくする。

 この「つなぐ」に当たる具体例がある。NTTデータと横浜銀行が共同開発した「オンラインデータ連携基盤個別業務アプリケーション」だ。「住所変更等の諸届」や「各種口座開設」、「融資のレコメンド・申込」、「当座貸越申込」といった銀行業務に必要なサービスが既に20以上用意されており、これらはAPI経由で利用できる。これらのサービスを銀行同士で融通し合うなどの共創を広げていくような取り組みが既になされている。

 3つめの「広げる」について、青柳部長は「弊社がイベントやPR活動を通じ「API Gallery」について積極的に発信していくことで、APIのさらなる活用を促したい」と力を込める。提供者と利用者が「API Gallery」を通じてマッチングした事例についても、サイト上で成功事例として発信していく計画だ。

 「API Gallery」の開発・運用にあたって、NTTデータは新たなチャレンジをしている。「Open Canvas Atelier」という名称の、入社1~5年目の若手社員が所属するアジャイル開発の部隊が業務を担当しているのだ。これまではベテランを含めたチームを作ってプロダクト開発に当たっていたそうだが、「『API Gallery』という全く新しい取り組みを成功させるには、若手の新しい感性が必須だ」(青柳部長)と考え、前例のない挑戦をした。

API Gallery TM 利用メリット

更なる機能拡張を見込む

 2021年10月の「API Gallery」のサービス開始以降、APIを登録している企業は51社まで増えた。2週間に1社ペースで増え続けているという。(プロバイダー一覧ページ

 今後の展開として、APIの提供者と利用者が「こんなAPIがあったらいいな」といった活用法などを議論するオンラインコミュニティーを設ける予定だ。テクニカルな知識がない人でもより簡単にAPIが利用できるよう、ノーコーディングの技術でAPIをつなぐサービスの提供なども検討しているという。

 「APIは従来、オープンなテクノロジーを使いながらも、活用については技術に詳しい人や当事者など、一部の環境に閉じていた」。青柳部長は日本のAPI活用の現状についてこのように指摘する。「我々は『API Gallery』によってAPI活用の民主化を果たし、APIを活用した様々な共創をオープンな場で実現していくことで、新しい金融の姿を創りたい」と意気込む。

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