桔梗原 改善とトランスフォーメーションの間には、大きな乖離がありますね。御社は、どのようなアプローチで企業のDXを支援しているのでしょうか。
柳 当社は、社名からITコンサルティングの会社と捉えられがちです。確かにITコンサルティングも強いですが、実は戦略コンサルティングやリサーチの比重のほうが大きいのです。戦略策定においては、その企業の強みをいかに生かしてビジネス価値を最大化するかが問われます。そのために最適な手段を考えるのですが、デジタルが必要なケースもあれば、そうでないケースもあります。私たちは「デジタルありき」の提案はしません。NTTデータグループのビジョンの柱である「クライアントファースト」の精神で、その企業にとっての最適解を追求します。
桔梗原 確かに、コンサルティング業界では「デジタルありき」と受け取られかねない提案も見受けられるようです。
柳 クライアントをシステム導入に誘導することができれば、大きな売り上げが見込めます。その実績がコンサルタントの報酬と連動する、そんな仕組みを持つコンサルティング会社は少なくありません。すると、コンサルタントはどうしても、システム導入につなげたいと考えてしまう。そんなコンサルタントにだまされたくなければ、「システム導入はいいです」と言ってみることです。その瞬間に、熱意を失ってしまうコンサルタントがいるはずです。
桔梗原 システム受注に誘導するのではなく、企業戦略にとって最適な手段を提案できるのが御社の強みということですね。先ほどリサーチ事業に言及されましたが、シンクタンク的な機能も特徴の1つですね。
柳 コンサルティング会社としては、常に時代を先取りして最新のビジネス、あるいは技術などの動向をウォッチする必要があります。当社の場合、長期スパンで取り組んでいるテーマが多いのは確かです。例えば、ここ数年で環境関連のテーマが大きくクローズアップされてきましたが、私たちは数十年前から環境についてリサーチ活動を続けてきました。ヘルスケア、金融決済、脳科学などを含めて幅広い分野の専門家がおり、継続的にそれぞれの知見を深めています。
桔梗原 現在注目しているのは、どのようなテーマですか。
柳 DXはもちろん大きなテーマですが、サプライチェーンの動向も注視しています。これまで「在庫はできるだけ少なく」ということが推奨されましたが、経済安全保障が重視される時代には、最適解とはいえなくなるでしょう。脱炭素の流れの中で、「グリーン」という観点も重要です。以前は「QCD(Quality、Cost、Delivery)が勝負」でしたが、こうした要素が新たに加わり、サプライチェーンマネジメントはますます複雑化しています。
桔梗原 サプライチェーンに関する専門的な知見が役立つ場面も増えそうですね。
柳 はい。DXの本質は「サービスのレイヤー化」だと考えています。製造業では、すべての部品を1社で内製している企業はほとんどありません。日本のものづくりも、世界中に広がるサプライチェーンに支えられています。一方、オフィス業務やサービス業務にかかわる分野では大半の「サービス部品」を自前で用意している企業が多い。しかし、デジタル化の進展によってサービスの分化・レイヤー化が進んでいます。企業はこれらのサービス部品をAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)などで簡単につないで組み立て、完成品としてのサービスを構築することが可能になったのです。自社はどのレイヤーを保持するか、どのレイヤーを外部から調達するか。それはDX戦略そのものといえるでしょう。