日経ビジネス電子版 Special
4社協業で、三島市・裾野市・長泉町での実証を開始

利便性向上と地域活性化を目指す
新しい移動のあり方

交通弱者救済と観光振興のため
「移動のパーソナライズ化」を

株式会社日経BP
執行役員
伊藤暢人

1990年日経BPに入社。日経ビジネス副編集長、ロンドン特派員、日経トップリーダー編集長、日経BP総研中堅・中小企業経営センター長、日経ビジネス発行人などを経て2022年3月から現職。企業経営に詳しく、講演、テレビ・ラジオ出演など多数。

伊藤 地方都市は路線バスの運行本数が少なく、日々の移動もタクシーに頼らざるを得ないなど、公共交通基盤の脆弱さが共通の課題となっています。移住促進や企業誘致、災害時の避難といった他の社会課題の解決にも密接に結びつく課題ではないでしょうか。

豊岡 おっしゃる通りです。三島市でも、市民や観光客のために、公共交通をいかに利用しやすくするかということが積年の課題でした。

 三島駅は新幹線の停車駅で、首都圏からのアクセスも非常に良いのですが、駅に着いてから富士山や伊豆、箱根といった観光地にアクセスする公共交通手段が限られています。

 市民の交通手段も、通勤通学の時間帯である朝夕は路線バスの本数が多いのですが、平日の日中や土日は本数が減り、移動が困難になっていました。これを解決するため、22年4月から、平日の日中と土日はバス路線にジャンボタクシーを運行させる取り組みを地元のバス事業者やタクシー事業者と共同で始めています。

 裾野市、長泉町との広域連携では、住民の公共交通アクセスを広域でカバーするだけでなく、三島駅を起点として、観光客やビジネス客が2市1町を自由に“回遊”できるような移動体験を実現できないかと考えています。

伊藤 それが今回の実証が目指す「移動体験の変革」ですね。日本オラクルをはじめとする民間事業者4社は、この変革おいてどのような実証を行おうとしているのでしょうか。

永椎 移動分野の最前線でそれぞれの得意領域を持つジョルダン、トヨタマップマスター、ミックウェアのデータと仕組みを組み合わせ、日本オラクルが構築した基盤上でサービスを提供することで、新たな移動体験をもたらす実証に取り組む予定です。

 今回実証にご協力をいただく三島市・裾野市・長泉町では、都心からのアクセスの良さに加え、トヨタ自動車が中心となって実現するWoven Cityの街びらきも予定されていることから、今後の移住や関係人口の増加による潜在的な移動需要の増加が見込まれます。

 一方で、豊岡市長から平日、土日の路線バスに関するお話があったように、公共交通機関が発達していない地方都市では、マイカーを持たないお年寄りなどの交通弱者の足をどのように確保するのか、といった課題が存在します。

 そうした課題を解決するため、電車・バス・レンタカー・シェアサイクル・徒歩などの多様な移動手段を、一人ひとり異なる移動ニーズに合わせて最適に組み合わせられる仕組みを作りたいと考えています。「移動をどうパーソナライズできるか?」ということが、今回の実証における大きなテーマの一つです。

自治体や地元の企業と連携しながら
社会課題解決に取り組む

伊藤 豊岡市長は、今回の実証のように民間事業者と連携しながら社会課題解決に取り組むことの意義を、どのように感じておられますか。

豊岡 社会課題は、単独の自治体や企業だけで解決できるものではありませんから、何よりも“共創”が大事だと考えています。2市1町による広域連携で取り組んでいるのもそうした理由からですし、行政の力だけでは限界があるので、民間の力もお借りしながら、目指すべき未来を早期に実現していきたい。

 “共創”が求められる社会課題は、MaaSだけでなく、住民の幸福度を上げることや、行政DXの推進など、あらゆるテーマにわたります。ちなみに三島市では、「スマート市役所」の実現をはじめとする行政DXでも、日本オラクルからの支援を受けながら、いくつかの実証実験を行っています。

伊藤 日本オラクルにとって、行政との連携にはどのような意義があるのでしょうか。

永椎 当社は、ビジネスにおける業務効率や仕事のやり方を、ITの活用で改善することを長年にわたり支援させていただいております。その取り組みはこれからも変わりませんが、SDGsの観点から、誰一人取り残されない社会の実現や、教育機会が平等に得られる社会づくりといった課題についても、ITを活用したソリューションを提案していきたいと考えています。

 交通弱者が多い地方都市の移動手段や移動体験をどう変革するかということも身近で重要な社会課題の一つですが、豊岡市長がおっしゃるように、その解決は一企業だけではできません。自治体や地元の企業と緊密に連携しながら取り組みたいと思っています。

移動体験の変革をきっかけに
様々な社会課題を解決したい

伊藤 22年夏ごろに実証がスタートするそうですが、今後も連携の輪はさらに広がっていくのでしょうか。

永椎 そうですね。今回の実証の目的は、移動手段や移動体験を変革することだけにとどまりません。中長期的には、様々なサービスの参画を促し、データ連携をすることで、移動の動機自体をつくる、移動の意味を変えるというところまで変革できないかと考えています。

 例えば、三島駅から目的の場所に移動するまでの間に待ち時間が生じた場合、駅周辺の散策やちょっとしたサイクリングプランの提案が受けられたり、コワーキング・オフィスに立ち寄って地域のコミュニティとつながる機会を持てたり、貯まった移動マイレージでお得に食事ができたりといったように、移動をキーとして、様々なサービスをつなげることができるはずです。こういった利便性の向上や全国拡大も見据えて、様々な分野のサービスとの連携を促進させていく必要があると考えています。

伊藤 日本オラクルは、そうした様々なサービスを提供するための基盤を構築されるわけですね。基盤づくりにおける貴社の強みは何でしょうか。

永椎 今回のように現実世界とリンクして新たな価値を創造していく取り組みにおいては、例えば車両の位置情報や道路の混み具合、事故情報といった現実世界の様々なモノや出来事をデータモデル化して一元的に格納し、それらをリアルタイムに処理することができる柔軟かつ強靱なデータ管理基盤が必要不可欠です。さらに、位置情報や機微なパーソナルデータも扱うため、セキュリティ機能についても高い水準を要求されます。

 オラクルのデータ管理技術は、米国の軍事技術や諜報機関の情報処理に活用されるなど、セキュリティや処理性能に関しては高い実績と評価があります。また、宇宙探索用途にも活用されるなど宇宙規模の空間情報を取り扱えるほどの圧倒的なスケーラビリティを提供可能であることから、今回の実証に用いる基盤としては申し分ないと自負しております。

伊藤 それでは最後に、実証に対する期待をお聞かせください。

豊岡 先ほども述べましたが、今回の実証が、住民の健康や産業振興、観光・文化振興といった様々な社会課題の解決にも広がっていくことを願っています。

 昨今の技術やサービスは、“日進月歩”どころか“分進秒歩”で進歩しているので、我々行政だけでは時代の変化に追いついていけません。その意味でも、日本オラクルをはじめとする民間の力には大いに期待しています。

永椎 ありがとうございます。まだまだ取り組むべき社会課題は多くありますが、今回、解決に向けての第一歩を踏み出していただきました。私たち日本オラクルも行政と共に一歩ずつ進み、できる限りの支援をさせていただきますのでよろしくお願いいたします。

「地域の課題解決は、住民の理解を得ながら進めていくことが重要です」と豊岡市長。永椎氏は、「そのためには、スモールスタートから一歩ずつ実績を積み重ねていくことですね」と提言した