日経ビジネス電子版 Special
企業文化が変革の鍵をにぎる

「データの民主化」の先にある
「データドリブン経営」

コロナ禍を境に日本のDXは進んだが、その要となる企業の現場レベルでのデータ活用はまだまだ定着したとは言えない。こうした「データの民主化」を進めるためには、どのような変革が求められるのだろうか。PwCコンサルティング合同会社代表執行役CEO大竹伸明氏と株式会社セールスフォース・ジャパン常務執行役員Tableau事業統括カントリーマネージャー佐藤豊氏が、AI解析を経営の意思決定にまで活用する「データドリブン経営」への道筋も含め、変革のあるべき姿について語り合った。

データ活用ができている日本企業はわずか5%

──日本企業のDXの推進状況をどのように見ていますか。

大竹 新型コロナウイルス感染症の拡大を機に大きな変化がありました。以前は「全社DX」や、「聖域なきDX」と表現されるような“総花感”がありましたが、コロナ禍がやや落ち着いてからは、「ここをDXしたい」と明確な指針を持つ企業が増えました。また、テクノロジードリブンではなく、いわゆるクライシスドリブンでインフラのデジタル化も一気に進展し、人の意識改革も進みました。それにより“総花感”は薄れ、日本企業の中でDXの方向性が見えてきた。そのような段階に入ったように感じています。

株式会社セールスフォース・ジャパン
常務執行役員
Tableau事業統括
カントリーマネージャー
佐藤 豊
PwCコンサルティング合同会社
代表執行役CEO
大竹 伸明

佐藤 大竹さんと同じく、私もコロナ禍は大きな転機になったと感じています。DXは本来、業務改善によって新技術やサービスを生み出すための手段ですが、デジタル化自体がゴールになり、目的と手段が逆になってしまっているケースが散見されました。しかしコロナ禍を経てアジャイルに何かを実現しなくてはいけないという状況に陥り、急激にDXが進んだものと捉えています。これまで日本企業は“変われない”状況が続いていましたが、この2年で一気に“変われる”という体験をしました。不確実性が増す時代に、十分に私たちも目的ベースでしっかりDXを進めることができる、と日本国が証明したカタチになりました。

──一方、日本企業のDX推進は海外諸国と比べて遅れているとの意見もあります。

佐藤 あるシンクタンクのレポートによると、「DXにはデータドリブンが重要」という認識が浸透してはいるものの、全社的にデータ活用ができていると答えた日本企業はわずか5%。米国の32%と比べてかなり差があることが分かります。他の国もおおむね、DXが進み、データを活用できることをポジティブに捉えている節がありますが、残念ながら日本だけがネガティブな受け止め方をしている。国民性の違いもあらわになりました。

大竹 5%というのは肌感覚的に正しいと思います。多くの日本企業は「データをどの程度共有できているか」「いつのデータを、何を目的に活用しているのか」という2つの問題を抱えています。データドリブンにおいては最終的に「社外のデータと合わせて何をするか」が最も大事なポイントになってくるにもかかわらず、自社データの取り扱いが不十分では、まだまだ道のりは遠い。そのような状況にある企業が非常に多いというのも事実です。

佐藤 データを情報にする「情報マネジメント」の次の段階として、情報を知識に変える「知識マネジメント」があります。ITユーザーだけでは知識化できず、結果として目的に結びつきづらくなるので、知識を持っている人がデータ使用の目的を明確にすることが重要です。目的ベースでデータ活用をデザインできる先進的な企業では、サードパーティも含めたデータ活用、データの経済圏の構築が進んでいて、そうでない企業との間に大きな差が生まれています。言い換えれば、ここに可能性があるということです。もともと、日本ではIT部門のみがデータ活用をするものであるという観点がありましたが、テクノロジーが進み、さまざまな知見が蓄積され、本来の目的を持っている人にデータが届くようになりました。

データの「可視化」と「活用」の違い。
業務の中にデータを盛り込むステップとは

──そもそも、なぜ日本企業ではデータ活用が進まないのでしょうか。

大竹 いくつかの理由があります。1つは企業文化。デジタル教育が行き届いていないという問題があります。PwCでは社内のデジタル教育を「デジタルアップスキリング」と呼び、PwC Japanグループでも精力的に推進しています。現場でデータを見て、現場で意思決定をするべきで、当然経営の現場もそうあるべき。私自身もITリテラシーの研修を受け、データの内容をしっかり理解し、データの使い方を理解しているつもりです。トップから意識改革をして、データの理解を企業文化ないし業務の一部にしていくことが重要です。

佐藤 経営者が自らデータに対してコミットするために学び直し、テクノロジーを見聞きする力を養うことは非常に重要です。日本の“変わらない”という文化を変えるためには、ビジネスの変革と文化の変革、そして人の変革も必要です。これらを妥協することなく底上げしていくためには、人材教育を業務に盛り込みながら、目的に合わせたデータリテラシー教育を織り込むことが必須と言えます。それを経験ある企業の支援を受けながら1つずつ進めていくのがグローバルのプラクティスになってきています。

大竹 アップスキリングを行い、データとツールを開放して使わせるなど、いくつかのステップがあります。データ活用を業務の中に無理やりゲート的に入れれば浸透率は上がっていきますし、実はそれが大事だったりします。うまくいっている企業ほど、そういうステップを1つずつクリアし、データドリブンを文化として醸成しています。

佐藤 残念ながら、多くの企業ではそれができていない。それを実践するためには、現状のデータならびにその分析結果を可視化するダッシュボードを作成し、分析官のインサイトをデータ活用とビジネス課題に結びつけ、ワークフロープロセスの中に盛り込むことが必要です。実はテクノロジーの観点からすると、これらの検証はすでに可能になっています。

大竹 まずは誰もがデータを活用するという感覚を持つ必要があります。それは経営者も現場も同様です。過去・現在から、未来に向けて、どのデータをどのように活用していくのかを考えることが、データドリブン経営の一番のポイントになってくると思います。

──Tableauは、これらの考えに基づいたプロダクトを提供されていますね。

佐藤 会社にとって重要な資産は、言うまでもなくデータと従業員です。Tableauはデータと従業員をつなげるためのビジュアル分析プラットフォームであり、同じデータを見ながらコミュニケーションを重ねるツールです。言うなれば、最初のインターフェースです。まずはデータを見ることから始めて、さまざまな体験から好奇心がかき立てられ、クリティカルシンキング、デザイン思考を養いながら段階的に学習リテラシーを高めていきます。その先にあるのがAIです。AIによって単なる情報が“使えるデータ”になってくる。これが進化してくると、今後も経営においてAIを当たり前のように活用する企業が増えていきます。そのために必要なデータを集めるため、すべてのプロセス、すべてのバリューチェーンをデジタル化し、その莫大なデータからインサイトを分析してプロジェクションを使っていく企業が出てきますが、それをやらなければ、先行する企業との差は歴然としたものとなるでしょう。一度諦めてしまうと追いつけないくらいに差が開いてしまうので、すぐに着手しなくてはなりません。とはいえ、独自でやるのは難しいので、PwCのような企業と協力しながらロードマップに沿って取り組んでいくことが重要だと思います。

大竹 佐藤さんのおっしゃる通りです。それがまさに“データの民主化”と言われる状態です。データが民主化され、誰もが積極的にデータを利活用できるようになれば、ビジネスも完全に民主化されます。これまで「見えない」と言われてきた最新の情報を得て、その場で考えることができるので、現場の活性化につながるのは間違いありません。

佐藤 テクノロジーの進化によってIT基盤が整備され、リユースフルなデータパイプラインを目的に沿ってしっかり用意できるようになったら、次はガバナンスやセキュリティが重要になってきます。IT部門がそれを管理できる形でデータを解放し、民主化を支援できるようなシステムを私たちは提供しています。また、今後さらに高度化するAIについては、ユーザーがAIと自分の知見を合わせてモデリングができるテクノロジーを用意することで対応します。これにより、IT部門でなくても誰もが活用できるので、さらに民主化を進めることができますし、AIを進化させることもできます。また、AI人材は今後も不足することが予想されます。企業の中でレイヤーを分けて人材を育成すると同時に、難易度の高い施策については、専門家とパートナーシップを結んで一緒に進めていくことが重要です。

大竹 実際にAIを活用し、データを駆使した新しいビジネスモデルを作ろうとしている企業も現れています。彼らはデータの民主化から業務自体の民主化を経て、徐々にAIのサジェスチョンを取り入れ始めています。AIを活用すると、業務レベルが劇的に向上します。もちろん、先ほどお話ししたように着実に一歩ずつDXを進めている企業もあるし、AIを活用して異次元の世界に到達するようなデータドリブン経営を実現している企業もある。日本は、企業全体が強く、新しい世界を切り開く人たちであふれる国であるべきだと思います。そのような意味でもデータドリブンは主要な考え方であり、重要なビジネス基盤であることは間違いありません。

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