半導体メーカーとしてパワーとアナログの要素技術を高い水準で併せ持ち、それらを融合したソリューション提供を加速するローム。今後の持続的な成長を支えるのが、研究開発体制だ。開発対象を4象限でとらえ、リソースを戦略的に配分する。外部連携も積極的に行うとともに、新たに「技術系スペシャリスト職」を創設。エンジニア職のキャリアパスを見える化すると同時に、エンジニアとして成長できる体制を構築し、人財開発を加速する。同社の研究開発体制やキャリア制度変革の狙いについて、CTOの立石哲夫氏に聞く。

先見性ある研究開発と
事業一体の取り組みで、SiCが成長の柱に

ローム
取締役 上席執行役員 CTO
立石 哲夫氏

「研究開発の使命は5~10年、さらにその先の未来を見据え、会社の持続的成長を支えること」と、ローム 取締役 上席執行役員 CTOの立石哲夫氏は語る。リソースは、直近5年間の事業拡大につながるテーマに大きく配分するが、その先に想定される新規分野にも早くから投資し、持続的成長を支えていくことが求められる。

ロームの研究開発におけるリソース配分

ロームの強みは、パワーとアナログの要素技術を結集し、顧客企業が求める高付加価値のシステムを実現する擦り合わせ技術だが、その源流には、「モノづくり」がある。創業以来、開発や生産の現場において最適化を繰り返し、「モノづくり」の技術を磨いてきた。その結果が、幅広い製品・技術のラインアップやソリューションにつながっている。

中でも今、最も注目されているのが「SiC(シリコンカーバイド)パワーデバイス」だ。1990年代から研究テーマには挙がっていたが、その研究開発が本格化したのは2000年に入ってから。当時のロームとしては技術面(パワーデバイス)、市場面(自動車・産業機器市場)ともに新規と言える状況で、まさに表の右下「新規市場の種蒔き」状態であった。

⻑年にわたる研究開発の末、2010年に世界で初めてSiC MOSFETの量産に成功するなど、業界をリードする開発を続けてきたが、業績を伸ばすことには苦戦していた。そうした中でも、SiCウエハーメーカーのドイツSiCrystalを買収するなど、開発とモノづくりの両面で積極的に事業の強化を図ってきた。結果、現在ロームではSiCウエハーからデバイス、モジュールまでの一貫した開発・生産体制を整え、全工程を通しての最適化と多彩な形態での製品提供を可能としている。

さらにSiCは「使いこなし」の技術も重要になる。ロームではWeb上に評価・シミュレーションツールを用意するほか、ドイツにパワーラボを開設するなど、手厚い設計サポート体制を構築してきた。研究開発においても現在は「現有事業の課題解決」部分に当たるためリソースを厚く配分している。その一つが「パワーエレクトロニクスの事前設計を高精度に実現するためのデバイスモデル開発」だ。SiCは高耐圧かつ高温特性が優れているがゆえに、その特性評価を行う際の測定範囲に限界があった。そこに、まったく新しい測定手法を開発し、測定範囲を大幅に広げることに成功した。このモデルを用いたシミュレーション手法によって、SiCパワーデバイスの動作を正確に予測することが可能になり、より精度の高い事前検証を実現した。同技術はIEEEの論文採択や電気科学技術奨励賞を受けるだけでなく、ロームのWEBからもダウンロードでき、実用化に貢献する技術として、まさに「現有事業の課題解決」を体現している。

参照:IEEE transactions on power electronics vol33 No9, 7314(2018)
https://ieeexplore.ieee.org/document/8094006

脱炭素の流れに加えて、こうした研究と開発・技術サポートが一体となった取り組みが奏功し、SiCは電気自動車での採用が急速に進み、同社の今後の成長を支える大きな柱になると期待されている。拡大する需要に備え新棟を建設したほか、8インチ化を推進するなど、開発と製造が一体となり、高品質で高性能な製品をタイムリーに届ける体制づくりに注力している。

第2のSiC創出へ
大学やベンチャーとの連携を強化

SiC以外のパワーデバイス関連のラインアップ強化にも積極的に取り組む。シリコンのパワーMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)のみならず、化合物半導体として新たにGaN(窒化ガリウム)パワーデバイスもこの4月から量産を開始し、ラインアップに加え、アプリケーションと合わせて最適なパワーデバイス群を提供する体制を整える。

電気自動車のような成長の著しい分野では、必要な機能をあらかじめ実装したASSP(特定用途向け標準製品)を先行して開発する戦略を進めている。同社のPME(プロダクト・マーケティング・エンジニア)が市場の要求性能や機能を調査し、製品企画を絞り込む。PMEの使命は市場ニーズを先取りし、開発をリードして顧客を魅了する製品を企画、提案、実現することだ。「必要な機能を全て入れ込むのではなく、市場要求を満足しつつ必須でない機能を如何に削ぎ落すかが重要であり、それが製品価値を決める。それを作りきる開発力も育っている」(立石氏)。

今後の研究開発を語るうえで、オープンイノベーションはますます重要なキーワードになっている。ロームでは、京都大学や中国・清華大学などに研究施設を寄贈し共同研究を進めているほか、研究公募制度を通じて若い研究者の支援も行っている。これら外部研究機関との連携は今後も強化していく方針だ。

これと並行し、新たな事業モデルを創出するための新制度として、「ローム版コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)」を創設した。10年間、50億円の予算で、スタートアップ企業への直接投資やベンチャーキャピタル・ファンドを通じたLP出資などを進める。「財務的リターンを主目的にはしていない。持続的成長・長期的視点からの投資を行い、発展する産業界のエコシステムの一員としての役割を担っていき、10年後、20年後に花開くような種を見つけたい」(立石氏)。LP出資では出資先のVCと頻繁にディスカッションをしながらソーシングを進めている。例えば株式会社みらい創造機構は東工大、高専発ベンチャー企業と強力な関係があり、ベンチャー企業との橋渡しだけでなく、大学・研究室とのコネクション構築も依頼する。また、株式会社Monozukuri Venturesは国内だけでなく海外への出資も多く、その関係を活かし、出資先の海外のベンチャー企業とも協業を進めようとしている。直接投資では、材料や接合技術などロームから見て上流に位置するベンチャー企業と話が進む。「優れた技術やアイデアを持つベンチャー企業と開発や生産、販売でシナジーが期待でき、予想していた以上に良い関係が構築できると考えている」(立石氏)。

成長の原動力は人財
「スペシャリスト制度」でキャリアパスを見える化

「ロームの持続的成長を支えるのは人財だ」(立石氏)。その中心となるエンジニアに持てる力を存分に発揮してもらうため、2019年に技術系社員のキャリア制度を大幅に見直した。これまでのキャリアパスでは「ライン職」と「専門職」しかなかった。ライン職とは、グループリーダー、課長、部長という形で昇進し、管理職になっていく道だ。専門職とは、研究員や技術員から主任研究員、技術主査という形で専門性を高めていく道だが、「専門職のキャリアパスが、ライン職に比べて明確でない難点があった」(立石氏)。

そこで、エンジニア職のキャリアパスを見える化するため、新たに「スペシャリスト制度(任期制)」を創設。一定の等級から自薦あるいは他薦で応募し、選考を通過すると技術主幹などに昇進する。その後、技術主務や担当部長を経て、さらに高度な技術者には「フェロー」「シニアフェロー」の称号が与えられる。「ロームの持続的発展に向けて、経営を担う人財だけでなく、その技術力で会社に貢献する人財を育て、処遇としても報いることが目的。フェローはこれから5年をかけて10名程度選任していく。本年度は3名選任された。シニアフェローには本部長、執行役員級の待遇を与える」(立石氏)。エンジニアがエンジニアとして成長できるキャリアパス制度を創設するとともに、待遇面も大きく改善することで、モチベーションを高めるのが狙いだ。

グローバルな市場で戦い、生き残るためには個々のエンジニアの能力を高めていく必要がある。スペシャリスト職にはエンジニアとしての高い貢献が求められるだけでなく、その重要な任務として「後進の育成」と「技術の継承」を掲げる。部下、同僚、後輩に対して技術的なアドバイスや指導を期待すると同時に、技術的な講演や発表を奨励。採用活動や標準化団体など社外活動にも積極的に参画し、ロームの技術を発信していく。

すでに数十名がスペシャリストとして活躍するが、フェローを除く新たなスペシャリストの選任は、認定済みのメンバー自身が行う仕組みにして、制度全体の主体性を高めている。「スペシャリスト職には社内外で活躍し、輝いてほしい。その姿を見て、さらに後進もそこを目指し研鑽してほしい。優秀なエンジニアが会社の成長を支える」(立石氏)。同制度によってエンジニアがプライドを持って仕事に挑み、同社の競争力を支える技術開発がさらに加速することを狙う。

「エンジニアが輝ける素地(土壌)はできている。持続的な成長のため、今まで以上に多様な人財が必要になるが、新卒、キャリア採用を含めて、より多くの人財が仲間になってくれることを願っている」(立石氏)

ローム 代表取締役社長の松本功氏のインタビューはこちら

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