環境変化の激しい時代でいかに競争優位性を獲得するか。これは多くの企業にとって共通した重要テーマだといえるだろう。この実現手段としてDDDM(Data Driven Decision Making:データドリブンな意思決定)が注目を集めている。自社の目標、目的、イニシアチブに合致する戦略的なビジネス上の意思決定をファクト(データ)、メトリックス(指標/KPI)に基づき実施するわけだ。
「DDDMによって、生産性やコスト削減、事業成長、カスタムサクセス、リスクコンプライアンスといった領域における経営判断の優位性を引き出すことができます。また、従業員一人ひとりが自信を持って意思決定を行い、プロアクティブに活動することにより、組織全体をエンパワーしていくメリットも生まれてきます」とセールスフォース・ドットコム Tableauの佐藤 豊氏は説く。
とはいえDDDMを実現しようとしても、企業は様々な課題に直面する。まず挙げられるのは「企業風土」である。データの価値が認められず、勘や過去の事例・習慣にとらわれた意思決定を重要視している企業では、その旧態依然としたカルチャー自体がDDDMの障壁となってしまうのだ。
次に「データ環境」という問題もある。企業が所有しているデータの品質や量、データアクセスの容易性など、データを利活用する環境が整っていないとDDDMは進まない。さらに「人材」がボトルネックとなるケースも多い。データサイエンティストがいないという声が多くの企業から聞こえてくるが、不足しているのはそうしたデータ分析の専門家だけではない。むしろ問題は現場レベルでデータを利活用できる人材がいないことにある。
「こうしたことから現状ではDDDMを全社に展開できている企業はまだ少数で、なかなかビジネス効果が表れてこない、インサイトの数も増えないといった行き詰りを見せています」と佐藤氏は語る。
こうした課題を解消し、組織全体で効果的な意思決定をするためには、ビジネスを可視化できる仕組みを導入し、コミュニケーションにもデータを活用する風土を作ることが必要だ。また、その風土を支えるすべての従業員のデータリテラシーを強化し、誰もがデータを理解し、活用できるスキルを高めていかなければならない。
「第一歩として進むべき道は、企業内に存在する様々なシステムとデータ、そして従業員がもつ可能性を解放していくWall to Wall(全社レベル)なデータ利活用プラットフォームを作ることにあります。Salesforceでは、そのためのソリューションを提供しています」と佐藤氏は訴求する(図1)。データ分析基盤であるTableauは、基幹システムはもちろん、CRM、Excel、CSVファイルなど種類を問わず連携できるため、多様な視点からデータを分析し、インサイトを引き出すことが可能だ。
多様な種類のデータ分析が可能なプラットフォームであるだけでなく、データ管理に向けた機能も併せて提供。全組織が手軽かつ容易にデータ分析・活用が行える環境を整備できる
さらにデータ管理に向けた機能も併せて提供。具体的には、膨大な量のデータをより適切に管理できる「データカタログ」、手作業ではエラーが発生しやすいプロセスを自動化する「データ準備(データプレパレーション)」、さらにはデータを保護するための「データセキュリティ」といった機能が提供されている。
ただし、こうしたテクノロジーによるイノベーションだけではDDDMの実現には十分ではない。組織におけるデータ利活用をDNA化し、すべての従業員に定着させていくためにはデータカルチャーの醸成が不可欠となるからだ。そこでTableauではその取り組みに有効なフレームワークとして「Tableau Blueprint」を打ち出している。
Tableau Blueprintとは、データを重視した組織を構築するために必要なプロセスを段階的に実行するためのガイダンスを提供するもの。全部で11のステップに分かれており、その初期段階ではデータ分析戦略の立案からプロジェクトチームの構築を行う。そしてこれに続くステップとして、ビジネス環境の変化にデータ活用環境を適応させるための「アジリティ」、教育を通じて徐々に成熟度を高めていく「スキル」、組織全体にデータドリブンカルチャーを醸成するための「コミュニティ」という3つの領域に分かれて専門性を深めていく(図2)。
データを重視した組織を構築するために必要なプロセスを段階的に実行するため、Tableau Blueprintは全部で11のステップに分かれたガイダンスを提供。これにより組織にデータカルチャーを醸成し、定着させていく
「Tableau BlueprintにはTableauがマーケットのリーダーとしてデータカルチャーを醸成するために学んできたこと、そして多くのお客様で実践してきた変革の実績に裏付けられた知見がすべて盛り込まれています」と佐藤氏は強調する。
実際に既に多くの企業がTableau Blueprintを導入することで、データカルチャーの醸成に成功している。
その1つがブラザー工業だ。同社では、製造ラインに設置した検査装置からデータを集めていたものの、その量が膨大すぎて思うように分析できず、データはたまっていく一方で効果的に生かされていなかった。そこでTableauを活用することで問題点を効率的に見極め、改善が必要な部分により注力できるようになった。また、限られた人数でも状況を簡単に把握できるように見える化し、迅速に対応できる構造が出来上がった。加えてTableau Blueprintを活用することで、このデータ活用のご利益(=成功体験)を社内で共有。部署単位での講演会や勉強会を通じて積極的な横展開を図り、未来に資する人材を育成している。
Tableau Blueprintでユーザーの教育を推進する企業もある。NTTドコモでは、Tableauと共同して独自のアンバサダー育成プログラムを開講。2019年時点で3500人を超える社員がこの育成プログラムに参加し、中核人材「アンバサダー」の育成、エントリー層におけるデータ利活用の裾野を広げる環境整備、上級者および中核人材によるコミュニティの活性化を促している。これによって「セルフBI」が実現可能になり、データドリブン経営を加速させている。
オンライン商談システムを提供するベルフェイスも組織変革にTableau Blueprintを活用している。同社では、フェーズ1として全社で把握すべきKGI/KPIの設計およびそれらを可視化する仕組みを構築。続くフェーズ2では各部署の自走を支援した。これによりわずか2カ月間という短期間で組織の変革に成功し、具体的な効果としてデータ活用に必要な事務作業工数が80%削減された。また、全社員がデータを起点に物事を判断・意思決定できる状態になりつつあり、データドリブン経営を着実に組織に浸透させている。
なおTableauでは、データカルチャー醸成に向けた段階的な導入アプローチをサポートすべく、ベストプラクティスをまとめた「データカルチャープレイブック」を、Tableau Blueprintと併せて提供している。
データカルチャープレイブックは、「リーダーシップの指標をビジネスの優先順位に合わせる」「重要な意思決定ポイントに対処するためのデータソースを構築する」「特定のユースケースで価値を高める」「広範なデータ発見を促進する」という大きく4つのフェーズから構成されている。このステップを順に実行することで、最短1年で組織にデータカルチャーを根付かせることが可能だという。
今後も同社では、企業のDDDMの実現に向けデータ分析プラットフォームの提供とカルチャー醸成という両軸から強力に支援していく考えだ。
※社名は講演時のものです。