大和ハウスグループの一員として、分譲マンションやビル・商業施設、物流センターなどの不動産の総合管理を手掛ける大和ライフネクスト。同社の業務運営に欠かせないのが、「BACS」および「NEO案件管理システム」という2つのシステムである。
BACSは、同社が管理している物件の情報や顧客の契約情報などを管理するシステム。一方のNEO案件管理システムは、コールセンターに顧客から寄せられた問い合わせ内容などを登録管理するシステムだ。
しかし両システムは、いずれも稼働を開始してから10年以上が経過して老朽化が進んでいる。そこで大和ライフネクストは、両システムで利用していたデータベースがサポート切れを迎えるのを機に刷新することを決断した。
「メンテナンスのしやすさを考慮し、市場でも技術者の多いMicrosoft SQL Serverへの変更を決定しました。今回は既存システムの継続利用を前提としているためデータベースのみのリプレースとなりますが、今後はシステムそのものをWeb化・クラウド化していくことを予定しており、その意味でも汎用性の高いSQL Severに乗り換えておくことが得策と判断しました」と大和ライフネクストの松井 勇輔氏は移行プロジェクトの基本方針を示す。
もっとも自社のみでデータベースのリプレースを行うのは負荷やリスクが高い。そこで大和ライフネクストがプロジェクトのパートナーに選定したのがソフトロードである。
「移行期間中も現行システムを使い続ける必要があるため、できる限り短期間で作業を終わらせる必要がありました。そこでシステムリフォームを専門に行っているソフトロードに相談したところ、既存の保守ベンダーよりも短納期でなおかつコストも抑えた対応が可能という回答を得て、依頼することにしました」と松井氏は語る(図1)。
移行期間中も現行システムを使い続ける必要があり、できる限り短期間で作業を終わらせなければならなかった。そうした中で、既存の保守ベンダーよりも短納期でなおかつコストも抑えた対応策を示したのがソフトロードだ
BACSおよびNEO案件管理システムはVB.NETで作られており、10年以上改修が加え続けられた結果、その規模は非常に大きくなっている。これに加えて約180種の帳票、データベースについては469テーブルが今回の移行対象となる。さらにSQL Serverへのリプレースに伴い各種ミドルウエアについてもバージョンアップを行う必要があり、プログラムの改修が発生する。
大和ライフネクストは2020年7月にプロジェクトをキックオフし、新システムを2021年8月にリリースするというスケジュールを立ててこの移行に臨んだ。
「しかし、プロジェクトがスタートした途端に、3つの問題点が浮き彫りになりました」と大和ライフネクストの廣川 真輝氏は振り返る。
1つ目は、現行仕様の設計書不足。前述した通りBACSおよびNEO案件管理システムも10年以上前に作られたシステムであり、しかも継ぎ足しの開発が何度も繰り返されてきたことから、その内容が正確に設計書に反映しきれていなかったのだ。「現在の開発担当者もすべての仕様を熟知しているわけではなく、ソフトロード側とお互いにソースコードを確認しながらの移行となりました」と廣川氏は語る。
2つ目は、資産移行の対応中にも並行して行われる改修だ。既存システムも止められないことからやむを得ない改修が発生し、改修対象プログラムの改修凍結期間を調整しながら移行作業を実施することとなった。
そして3つ目は、隠れた不具合の発覚である。ソースコードを確認している過程でこれまで気付いていなかった不具合が見つかり、対応方針を協議するためにスケジュールの遅延が発生したという。
しかし、こうした課題があったにもかかわらず、大和ライフネクストは当初のスケジュール通り2021年8月に新システムを稼働することができた。
「もちろん品質も全く問題ありません。当社側の受入テスト時も本番稼働後も検出されたバグ件数は0件です。また、追加コストは発生したものの、当初の予算内に収めることができました。結果としてソフトロードは、品質・費用・納期のすべてにおいて予定通りの目標を達成してくれました」と廣川氏は強調する(図2)。
様々な課題があったが、予定通りのスケジュールで移行プロジェクトを完了した。特筆すべきはその優れた品質で、受入テスト時はもちろん本番稼働後もバグは全く検出されていない
今後、大和ライフネクストは自社を取り巻くビジネス環境の急激な変化や、多様なユーザーニーズに柔軟に対応できるシステムづくりを加速させていく方針だ。具体的には、ローコード開発ツールを導入してアプリケーション開発の高速化・高品質化を図りつつ、同時に様々なデバイスからシステムを利用できるようにアプリケーションのWeb化・クラウド化を進め、「最新のIT活用が可能となるメリットを、着実にビジネスの成果につなげていきたい」と松井氏は意欲を示す。
大和ライフネクストが活用した移行手法が、ソフトロードの「システムリフォーム」だ。「システムリフォームは、より早く、より低コストで、リスクの少ないモダナイゼーションを実現する手法です」とソフトロードの大橋 順二氏は語る。
それでは、どうやってこれを実現しているのか。その基盤となっているのは自社開発のAI変換技術だ。
「現行システムのソースコードを機械学習によって解析し、仕様書や設計書を再生します。これによりレガシー化したクライアント/サーバー型のシステムも最新のOSやデータベース、フレームワークに更新できます。要件定義や概要設計を行うことなく、すべての移行作業をAIで自動化できるのが大きな特徴です」と大橋氏は説明する。
実際、その効果は絶大だ。「移行後のバグ密度は、JUAS(一般社団法人 日本情報システムユーザー協会)の標準的な目標値である0.25を圧倒的に下回っており、ほぼゼロに近い数値を実現しています。開発コストもJUASの新規開発平均額と比較して3分の1から4分の1以下に収まります」と大橋氏は話す。
なお、既存資産をベースとするシステム再構築は、まず現状の見える化が欠かせない。ソフトロードは「これをサポートすることで、より多くの企業のIT変革に貢献したい」という方針のもと、実績のあるツールの無償提供を開始した。
棚卸・スリム化・見える化ツールはその1つで、正味資産・不要資産・不足資産、処理フローなどを整理し、見える化分析結果をドキュメントとして提供する。加えて古い言語のJava化サービスも無償で提供する。こちらは運用保守の改善を目的としたサービスで、機能は限定されるものの、比較的小規模なJava化には対応できる。
DXの推進にはレガシーシステムの再構築が避けて通れないだけに、今後もソフトロードは革新的なシステムリフォームによるIT変革に貢献していく考えだ。