日経ビジネス

武田薬品スペシャル対談
「日本企業に求められるサステナブル経営」

vol.1 Interview名和高司氏×佐藤弘毅氏

2050年の視点から現在を捉える
グローバル水準の
「パーパス経営」とは

世界的に「パーパス経営」が注目されている。国内製薬トップに安住せず、グローバル企業へと進化を遂げた武田薬品工業も、その羅針盤を「パーパス」だとしている。
改めて、「パーパス」の力とは何なのだろうか。「パーパス経営」の強みとは。
「パーパスは資産である」と説く一橋ビジネススクール 客員教授の名和高司氏と、武田薬品工業コーポレートストラテジー オフィサーの佐藤弘毅氏の対談を通し探る。ファシリテーターは日経BPコンサルティング代表取締役社長の寺山正一が務めた。

ESGは規定演技。
パーパスが差を生む時代に

名和高司氏 一橋ビジネススクール 客員教授
名和高司
一橋ビジネススクール 客員教授
1957年生まれ。東京大学法学部卒、ハーバード・ビジネス・スクール修士(ベーカースカラー授与)。三菱商事勤務後、マッキンゼーのディレクターとして、多様な業界における、次世代成長戦略、全社構造改革などのプロジェクトに幅広く従事。2010年に一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授就任、2018年より現職。NECキャピタルソリューション、ファーストリテイリング、デンソー、SOMPOホールディングス等多くの企業の社外取締役も務める。

寺山なぜ今「パーパス経営」に取り組む企業が増えているのでしょうか。

名和現在、ESGつまり環境や社会に配慮し正しい形で経営を行うことが重要であると、広く知られるようになっていますね。それは「顧客市場」「人財市場」「金融市場」の3つの市場が求めるようになったからです。ESGに配慮しない企業は、顧客、消費者から支持されず、優秀な人材も集まらず、投融資を受けられないため市場から締め出されてしまう。そんな時代に入っています。つまりESGやサステナビリティへの取り組みは、もはや当たり前、規定演技になりつつあるのです。

では、企業が輝くためにはどうしたらいいのか。それは、ESGを踏まえた上で、自分たちが何のために存在するのか、自分たちの会社がないと誰がどう困るのかという、パーパス(存在意義)を明確にすることです。

そのパーパスは、社員や顧客がワクワクして、独自性があり、実現可能性を感じられる、“ワクワク” “ならでは” “できる!”が表現されていることが大事です。私はパーパスを「志」と訳しています。社員が自らの「志」を胸に刻んで、ワクワクしながら業務に臨む。これが企業の価値を上げるのだと、昨今、先進的なグローバル企業が気づき始め、パーパスを軸にしたパーパス経営に取り組むようになっているわけです。

寺山武田薬品工業(以下、タケダ)は、まさにその一社ですね。貴社がパーパス経営にかじを切った経緯をお教えください。

佐藤当社では2020年に、名和先生がおっしゃるように、私たちはどういう存在なのか、何をどう成し遂げていくか、そしてなぜそれが大切なのかを再考し、企業理念の見直しに取り組みました。そして、“世界中の人々の健康と、輝かしい未来に貢献すること”を私たちの存在意義(パーパス)に据えました。目指す未来(ビジョン)は、患者さん(Patient)、ともに働く仲間たち(People)、さらに地球環境(Planet)に対して責任を持ちながら、人々の暮らしを豊かにする医薬品を創出し、お届けすることです。

「志」をもとにした行動指針で
パーパスを実現する

佐藤弘毅氏 武田薬品工業株式会社 コーポレート ストラテジー オフィサー/チーフ オブ スタッフ
佐藤弘毅
武田薬品工業株式会社 コーポレート ストラテジー オフィサー/チーフ オブ スタッフ
2003年に入社し、日本や海外で様々な部門にてキャリアを積む。2012年に新興国事業部へ異動し、ロシア・CIS諸国にてベラルーシのジェネラルマネージャーなどの様々なポジションを務めた。近年ではウクライナやインドにおいてもジェネラルマネージャーを務め、2021年4月より現職。

寺山貴社には、「タケダイズム」という240年の歴史の中で培った「志」がありますね。それを持ちつつ、新たにパーパスをつくったということでしょうか。

佐藤1781 年の創業以来、タケダは様々な変革を果たしてきましたが、その中でも変わらずに受け継いできた普遍的な価値観があり、それが「タケダイズム」です。誠実であること、そして「公正・正直・不屈」の精神で支えられた、私たちが大切にしている価値観であり、私たちはこの価値観のもと、いつの時代においても広く社会への貢献に努めてきました。このタケダイズムが、私たちの企業理念、パーパスを形作っています。

寺山名和先生は「志」を軸とする資本主義を「志本主義」と名付けておられます。もともと貴社には「志本主義」の精神が根付いていたといえそうですね。

佐藤おっしゃる通りだと思います。クリストフ・ウェバー社長が着任してから、この「タケダイズム」の具現化とグローバルな規模での更なる組織への浸透に取り組みました。それが「PTRB」であり、患者さんに寄り添い(Patient)、人々と信頼関係を築き(Trust)、社会的評価を向上させ(Reputation)、事業を発展させる(Business)、を日々の行動指針とするものです。この行動指針は我々があらゆる局面で決断する上での揺るぎない判断基準であり、日本および世界において、ともに働く仲間と共有しています。

寺山なるほど。一方で気になるのが、パーパスと企業業績がどう関連するのか、という点です。名和先生、いかがでしょうか。

寺山正一 株式会社日経BPコンサルティング代表取締役社長
寺山正一
株式会社日経BPコンサルティング代表取締役社長
1964年生まれ。87年東京大学経済学部卒業後、麒麟麦酒に入社。89年日経BPに入社し、「日経ビジネス」編集部記者、ニューヨーク特派員、格付投資情報センター出向を経て、2008年から「日経ビジネス」編集長を3年間務める。2019年より現職。

名和私はパーパスは、目に見えない資産だと話しています。パーパスがあることで社員、顧客、社会の共感が得られ、力を合わせることができる。これが新しい価値をつくっていくときのエネルギーになるのです。

ただ、それを精神論で終わらせないためには、生産性と創造性を1桁上げ、しっかり収益を出す必要があります。収益を出し、それを社会に貢献する事業に再投資する。このサイクルを回してこそサステナブルに社会に役立つ会社になり得ます。論語と算盤、つまりパーパスとプロフィットの両方を成立させる仕組みが必要です。

1つの方法が、デジタルの活用です。DX(デジタルトランスフォーメーション)で、コストやリスクを下げ、新しい働き方、新しいアプローチの仕方を創造していく。タケダのデジタル&データで3つのPを支えるというやり方は、理に適っていると思います。

並行して働く人の高度化を図ることが大事です。デジタルをツールとして使いこなすスキルだけでなく、社員の意欲も高度化すること。それには自分が本当に社会に貢献できていると社員が感じられる環境が鍵になります。この点でも、「志」を持つことは有効です。

佐藤ビジネスをサステナブルにすることはグローバルに事業を展開するバイオ医薬品企業である当社の責務だと考えています。今回の企業理念の刷新においても、“私たちの約束”として、地球環境に責任を持ち、持続可能な未来の社会を創造するために、自然環境の保全に寄与することを誓っています。
後半へ続く)

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