企業価値の再構築を目指して、世界中の企業がDXに取り組むようになった。しかし、Talendの矢島 伸一氏は「最新のデジタル技術を活用したからといって、お客様の満足度が得られるというわけではありません」と指摘する。実際、多くの企業が顧客を全方位的な切り口で分析する「カスタマー360」を標ぼうしているが、期待に応えられずに失敗するケースが多い。
こうした状況を招く大きな要因として挙げられるのが、顧客に関するデータソースがサイロ化している点だ。「情報の収集・分析・配布を行うソリューションと企業の様々な部門が断絶し、正しくつながっていない『データカオス』の状況が、ビジネスの成長を妨げることになります」と矢島氏は説明する。
データカオスに陥ると部門間の連携ができず、顧客との良好な関係構築を著しく損ねることになる。顧客情報が大量にあったとしても、重複や漏れがあったり、形式が異なったりしていれば、顧客ごとにパーソナライズした情報を提供することは不可能になる。このほかにも、プライバシーやセキュリティーなどコンプライアンスの問題にも遭遇する。
それでは、データカオスを克服し、カスタマーエクスペリエンスを創出するにはどうすればよいのか。矢島氏は代表的な4つの課題と解決策を、企業事例を交えて解説する。
1つ目の課題は「すべてのシステムを接続する」ことだ。「組織内に点在しているオンプレミスシステムおよびクラウド上のシステムが管理するデータのすべてを連携させることで、カスターエクスペリエンスを向上させることが可能になります」と矢島氏は話す。これにより、顧客が過去に返品している商品を新たにレコメンドするような事態は起こらなくなるわけだ。
この実例として紹介したのが、世界最大のPCメーカーであるレノボの取り組みだ。同社はPCビジネスを展開する中で、マーケティング上の様々な課題を抱えていた。最も収益性を上げられる製品仕様はどのようなものか、どのような顧客がマーケティング施策の影響を受けるのか、顧客が注文をキャンセルする可能性はどれくらいなのか、ユーザーグループごとの違いは何か、どのタイミングでアプローチすれば通販サイトでカートが放置されることがなくなるのか――といった課題がその代表例だ。
同社は、これらの課題を解決するために、様々な切り口で顧客を分析するシステム基盤を導入することを決断し、ハイブリッド・クラウド・プラットフォームを構築した。毎年220億件以上の構造化・非構造化データを分析できるシステムだ。このシステムを導入した結果、ビジネスユニットごとの売り上げは11%増加、オペレーティングコストを100万ドル削減できたという。
2つ目の課題は「顧客のデータを修正する」ことだ。「すべてのシステムを接続できたとしてもデータの品質、例えば粒度や鮮度に格差があると、分析の精度は大きく低下します。誤った相手に誤った情報を送信するような事態に陥る恐れもあります」(矢島氏)。
こうした課題を解決したのがフィリピンの通信会社、グローブ・テレコムだ。同社は、データの品質のスコア付けを自動化するシステムを構築。データクレンジングを改善するための予防的な対策を講じるとともに、より多くのデータソースから顧客属性を拡充し、顧客キャンペーンに取り入れた。この結果、信頼できるメールアドレスが400%増加したという。キャンペーン当たりのROI(投下資本利益率)も向上した。リード獲得1件当たりのコストは30%削減、コンバージョン率が13%増加、CTR(クリック率)が80%増加という成果が表れた。
3つ目は「データを保護するガバナンスを策定する」ことだ。顧客情報へのアクセス権を多くの人に与えるとコンプライアンス違反や情報漏えいのリスクが高まる。さらに、データが誤って処理されて品質が落ちる可能性もある。しかしその一方で、情報を厳重に管理すると、事業部門が顧客をサポートする際に必要な情報にアクセスできなくなるという恐れがある。
レバノンの金融テクノロジー企業であるAreebaは、こうした課題を解決したデータレイクを構築している。このデータレイクには、銀行や加盟店の情報、政府機関のカードビジネスの情報など、ビジネスに必要なすべてのデータを蓄積。AI(人工知能)を活用して、リアルタイムの不正監視を実施する機能を搭載していることが大きな特徴だ。データの所有権はビジネスチームに付与。データの専門家である「データスチュワード」を設置してマスターデータ管理のフローを確立しているという。
4つ目が「ゴールデンレコードを作成する」ことだ。ゴールデンレコードとは、複数のソースからのデータを統合して顧客一人ひとりを360度全方位から確認できる単一のデータベースのことだ。これを構築したのが米国のクルーズ船会社であるロイヤル・カリビアンだ。ゴールデンレコードを活用することによって、1日当たり4万~5万人の乗客に対して個々の希望を予測することが可能になったという。
これらの4社は、いずれもTalendのソリューションとコンサルティングサービスを利用して新たなカスタマーエクスペリエンスを創出している。Talendは、データ・マネジメント・プラットフォームをサブスクリプション形式で提供する企業として2006年に創業。現在はソフトウエアだけでなく、カスタマー360を実現するための各種サービスを提供している。データサイエンティストからビジネスアナリストまで、すべてのユーザーを対象にベストプラクティスを実現するためのサービスを提供している。
「カスタマー360」の実現を目指す顧客のすべてに対して、ベストプラクティスと各種サービスを提供する
具体的には、Talendのカスタマーサクセスマネージャーが参画して、顧客の目的に即した計画立案と調整をサポートする「カスタマーサクセスマネージメント」を中核として、インストラクターの主導のもとでオンライントレーニングを提供する「Talendアカデミー」、最善のアーキテクチャーを実現する方法をレクチャーする「ストラテジックアーキテクト」、顧客のプロジェクトを成功させるために実践的な課題解決法をコンサルティングする「テクニカルコンサルティング」などを提供している。
矢島氏は「データカオスを克服することによって、お客様がDXを加速することに貢献していきたいと考えています」と語った。
顧客の計画立案をサポートする「カスタマーサクセスマネージメント」を中心に、カスタマー360の実現に向けてトレーニングやコンサルティングなどのサービスを提供