持続的価値創造を目指し、新たに3社が協働研究拠点を開設
OI機構では、これまで研究者対企業担当者の関係にとどまっていた産学連携を組織対組織に発展させ、オープンイノベーションの加速を追求している。企業のR&D戦略に基づき、実効性のある産学連携を目指す企業にとって得難い価値を創出する場を提供している。2021年には新たにLG Japan Lab、アルバック、セルシュートセラピューティクスの3社が参画し、計9つの協働研究拠点が活動している。今後、着実に成果を創出し企業と大学双方の発展を目指すという。

東京工業大学
オープンイノベーション機構
副機構長・統括クリエイティブマネージャー
教授
大嶋 洋一 氏
オープンイノベーション機構
副機構長・統括クリエイティブマネージャー
教授
大嶋 洋一 氏

LG Japan Lab株式会社
代表取締役
(副拠点長)
吉田ᅠ康一 氏
代表取締役
(副拠点長)
吉田ᅠ康一 氏

株式会社アルバック
先進技術研究所
所長(副拠点長)
清田 淳也 氏
先進技術研究所
所長(副拠点長)
清田 淳也 氏

セルシュートセラピューティクス株式会社
共同代表取締役
(副拠点長)
田中 寛 氏
共同代表取締役
(副拠点長)
田中 寛 氏
分野横断的な研究体制で、グリーンイノベーションに挑む
エネルギーや環境といった問題に対し、無縁な産業は存在しない。各産業固有の最適解を考える必要がある一方で、特定産業だけが利する解決策を受け入れることは難しい。東京工業大学では、あらゆる技術分野を包含する理工系大学の強みを生かした分野横断的な研究体制で、それぞれの産業に根差し、なおかつ全体最適化したグリーンイノベーションに資する新技術の創出に挑んでいる。ここでは、脱炭素の最新動向と東京工業大学の取り組みの一部を紹介していく。
脱炭素は、努力目標から事業機会へ

株式会社日本経済新聞社
編集局 科学技術部
編集委員
滝 順一 氏
編集局 科学技術部
編集委員
滝 順一 氏
英国グラスゴーで開催された「COP26」では、これまで努力目標だった「1.5℃目標」が必達目標へと格上げされ、各国の政策にまで踏み込んで温暖化ガス削減策の妥当性を議論するようになった。日本経済新聞社 編集委員の滝 順一氏は、「1997年の『京都議定書』への合意時点では、各国は温暖化ガスの排出削減に伴う負担を押し付け合う状態でした。これが、2015年の『パリ協定』以降、脱炭素をビジネスチャンスと捉えるようになった。COP26は、こうした流れがさらに加速したことを印象づけました」と語った。
解決策を求めて、既成概念を拭い去る

東京工業大学
地球生命研究所
副所長・教授
関根 康人 氏
地球生命研究所
副所長・教授
関根 康人 氏
グリーンイノベーションは、従来の技術トレンドに固執したままでは太刀打ちできない困難な取り組みだ。思ってもみなかった技術分野の研究からブレークスルーが生まれる可能性もある。宇宙での生命探しという科学的探求に取り組む地球生命研究所の関根康人氏は、「地球上の生命が維持できる条件の洞察に立ち戻って、グリーンイノベーションを考える意義は大きい。近年、太陽系の中に、地球以外にも生物が生きられる環境があることが分かり、人類を宇宙に送る技術と、地球環境を持続可能にする技術との親和性は高いです」と話す。こうした、本質的な議論ができる点は、東京工業大学の懐の深さだ。
特許制度を利用して共創を加速

世界知的所有権機関
日本事務所 所長
澤井 智毅 氏
日本事務所 所長
澤井 智毅 氏
グリーンイノベーションの社会実装を加速させるためには、環境技術を保有する企業や研究者と、その技術を応用してシステムやサービスを生み出す利用者を、効果的かつ効率的にマッチングさせる必要がある。OI機構もこうした役割を果たす機関の一つだ。一方で、「技術の内容を公開する知的財産制度は、マッチングを促す役割を果たすことができる」と、世界知的所有権機関 日本事務所 所長の澤井智毅氏は言う。実際に、2013年より環境技術・ニーズ・エキスパートに関するデータベースを整備し、環境技術の保有者と利用者をつなぐ公的プラットフォーム「WIPO GREEN」の運用にも取り組んでいる。
炭素・物質循環型社会を目指して

東京工業大学
ゼロカーボンエネルギー研究所
所長
竹下 健二 氏
ゼロカーボンエネルギー研究所
所長
竹下 健二 氏
日本政府が目指す2050年カーボンニュートラル達成には、製造業・運輸といった広範な産業で、あらゆる手段を総動員した低炭素化が求められる。東京工業大学 ゼロカーボンエネルギー(ZCE)研究所では、「ゼロカーボンエネルギーに基づく炭素・物質循環社会の構築に向けたエネルギーシステムの実現を目指して、分野横断的に協働研究を進めています」と所長の竹下健二氏は話す。持続可能なエネルギーネットワーク、グリーントランスフォーメーション(GX)に向けた社会的要請の把握や実装方法の探求、さらには安全な小型原子炉など、扱う研究テーマは幅広い。
電力だけでない全方位のグリーン化
グリーンイノベーションの技術開発というと、電力関係の脱炭素化の話題に目が行きがちだがZCE研究所では、熱エネルギー貯蔵・利用技術での脱炭素化や環境汚染など、全方位でのグリーン化技術の研究開発に取り組んでいる。副所長の加藤之貴氏は、再生可能エネルギーの有効利用に貢献する化学蓄熱技術を研究。電力以外の熱利用での脱炭素化も見据えた技術となっている。教授の小林能直氏は、宇宙での製鉄にもつながる夢のある技術である、CO₂を排出しない炭素循環製鉄技術を研究。また、塚原剛彦氏は、高効率な資源循環プロセスを実現するマイクロ・ナノ化学デバイス技術を研究しており、リサイクル過程での廃棄物や汚染を最小化する技術となっている。大友順一郎氏は、化学ループ法と呼ばれる手法でCO₂や水素などを分離し、エネルギーや資源として活用するための材料開発やシステム設計に取り組んでいるという。

東京工業大学
ゼロカーボンエネルギー研究所
教授、副所長
加藤 之貴 氏
ゼロカーボンエネルギー研究所
教授、副所長
加藤 之貴 氏

東京工業大学
ゼロカーボンエネルギー研究所
教授
小林 能直 氏
ゼロカーボンエネルギー研究所
教授
小林 能直 氏

東京工業大学
ゼロカーボンエネルギー研究所
教授
塚原 剛彦 氏
ゼロカーボンエネルギー研究所
教授
塚原 剛彦 氏

東京工業大学
環境・社会理工学院
融合理工学系 教授
(兼)ゼロカーボンエネルギー研究所
大友 順一郎 氏
環境・社会理工学院
融合理工学系 教授
(兼)ゼロカーボンエネルギー研究所
大友 順一郎 氏
持続可能な社会インフラを具現化

東京工業大学
環境・社会理工学院
学院長
中井 検裕 氏
環境・社会理工学院
学院長
中井 検裕 氏
東京工業大学では、全学の力を結集して取り組む先導的研究開発分野の一つとして「持続可能な社会インフラストラクチャ(SSI)」を挙げている。「SSIの枠組みの中では、人生100年時代における安心・安全な一人ひとりの幸せを支える次世代の社会インフラの具現化を目指した研究を進めている」と環境・社会理工学院 学院長の中井検裕氏は語る。「レジリエント社会の実現」「地球の声のデザイン」「スマートシティの実現」「イノベーション」という、社会インフラに関する4つの具体的な社会課題を挙げ、その解決策を探求している。
※SSI:Sustainable Social Infrastructure
社会インフラの未来を複眼的に洞察
社会インフラは、単なる箱モノではない。人々の生活や産業・経済の営み、社会活動や文化などソフトウエア面での価値が宿る社会基盤である。このため、脱炭素化のような課題の解決策を探求する際には、革新的な科学技術の研究開発だけでなく、人文科学的見地や政治的見地など複眼的切り口からの洞察が欠かせない。SSIでは、環境・社会理工学院が中心となり東京工業大学全学の力を結集して、個別の課題に取り組んでいる。教授の鼎 信次郎氏は、近年被害の深刻化が進んでいる世界の洪水・水不足を、人工衛星から得た情報とシミュレーションを組み合わせて高精度に予測する技術を開発。准教授の池田伸太郎氏は、不動産の価値を左右する環境に配慮したグリーンビルディングや、快適で生産性の高いウェルネスオフィスのあり方と具現化の視点について研究している。

東京工業大学
環境・社会理工学院
土木・環境工学系 教授
鼎 信次郎 氏
環境・社会理工学院
土木・環境工学系 教授
鼎 信次郎 氏

東京工業大学
環境・社会理工学院
イノベーション科学系
准教授
池田 伸太郎 氏
環境・社会理工学院
イノベーション科学系
准教授
池田 伸太郎 氏