2022年6月1日、内閣官房が「デジタル田園都市国家構想」の基本方針案を発表した。日本のスマートシティが本格的に始動する。スマートシティの大きな目的は、地域住民の幸福感を高めることだ。これは、従来のようなテクノロジーありきのアプローチでは不可能だという。日本発のスマートシティ・モデルが目指すものは何か。今回の国家構想にも深く関わるスマートシティ・インスティテュートの南雲岳彦氏と、IoT(モノのインターネット)やクラウド技術で地方創生を支援してきたウフルのキーマン2人が語り合った。

スマートシティの実現には、
企業の協調とデータ連携が必須

株式会社ウフル
代表取締役社長 最高経営責任者(CEO)
園田 崇史 氏

園田 日本は海外と比較して治安がよく、独自の文化を持つ良い社会だと思います。しかし、なぜか幸福感を感じている人が少ない。私たちは日本人の幸福感を高めるために、クラウドやIoT、データ連携基盤などのテクノロジーを生かし、地方創生やエリアマネジメント事業を推進してきました。

2016年ごろから、自然が豊かで東京からのアクセスも良い和歌山県の南紀白浜でワーケーション環境の構築を支援し始めました。それをきっかけに、すさみ町や太地町など紀南地域全体で地域活性化のお手伝いをさせていただいております。現地の方とプロジェクトを進める中で、従来とは異なる新たなアプローチの必要性を感じるようになりました。それがデジタル田園都市/スマートシティです。

幸福感を高めるスマートシティを実現するには、人の幸福感を定量的に把握する手段が必要です。私たちはその開発に着手し、2020年にある特許を取得しました。「人を笑顔にする笑顔は良い笑顔」というコンセプトで、人の笑顔を測定して地図上に定量的に可視化する仕組みです。

ただ、こうしたテクノロジーを開発しても、スマートシティは1社だけで実現できるものではありません。地域住民や行政の協力に加え、多彩な企業とのパートナーシップが不可欠です。そこで、スマートシティ・インスティテュート(SCI)との協業を始めました。

一般社団法人スマートシティ・インスティテュート
専務理事
南雲 岳彦 氏

南雲 SCIの設立は2019年10月です。デジタルガバメントで有名なエストニアやスマートシティで有名なフィンランドのヘルシンキ、スペインのバルセロナなど、海外を視察してノウハウを吸収することからスタートしました。

日本全国の自治体への年次アンケート調査も行っています。いまの自治体の大きな悩みは、「市民参加の低さ」です。スマートシティの推進で起きがちなテクノロジー先行型の議論と、市民感覚の間に乖離が生じているのです。スマートシティを実現するには、テクノロジーを議論する前にまず地域住民に適したゴールを見定めなければなりません。それを見出す方法論として、ウェルビーイング(幸福感)とリバビリティ(暮らしやすさ)という2つの指標を、主観と客観の両面から定量的に把握する取り組みを始めました。

杉山 多くの自治体の課題解決を支援する中で、テクノロジーの導入が目的化しているような話をよく耳にし、以前から違和感を持ってきました。

日本はデジタル化が遅れているわけではありません。個々のサービスとしては良いものがあるけれど、連携できていないことが問題なのです。人は生活の中でさまざまなインフラやシステムに触れます。そこで生み出されるデータが連携しなければ、価値を創造することができません。そうしたデータ連携は、企業の競争ではなく協調によって実現されます。その観点から2021年にデータ社会推進協議会(DSA)が設立され、いま約160社が参加しています。協力すべきところは協力し合い、スマートシティへ向けたデータ連携の基盤を作る取り組みを進めています。

幸福感は街によって違う、
住民の本音を集める技術を開発

園田 そもそも「田園都市」という概念は、大平政権時代に提唱されました。東京一極集中を避け、地域のポテンシャルをもっと活用すべきだというコンセプトです。ようやく最近になって、その準備が整いつつあるのを感じます。例えば、コロナ禍の影響でリモートワークが普及し、ワーケーションのような動きが広がっていたり、インバウンドに頼ろうとしていた観光業界が能動的な取り組みを始めているなどです。

スマートシティで最も重要なのは、ゴールの設定です。そこで認識すべきことが2つあります。1つは「常に住民が主役だ」ということ。もう1つは「地域によってゴールは違う」ということです。当社がお手伝いしている人口3600人ほどの和歌山県すさみ町と、当社がある東京都港区では、住民の幸せの尺度が全く違います。

南雲 同感です。あらゆる街にアイデンティティがあります。例えば、鎌倉市でデータを取ると、市民意識のトップに「環境との共生」がきます。浜松市では「地域のつながり」がくる。何を大切に思っているかは、街によって違うのです。住民からデータを集め、深く分析しなければ、個性豊かで暮らしやすい街は実現できません。テクノロジーの議論から先に入ってしまうと、どの街も金太郎飴のように同じになってしまいます。

例えば、高齢者による運転免許の返納が進み、「移動難民」が増えています。これをテクノロジーの面から議論すると、自動運転やドローンによる自動配送を進めれば幸せになれると考えてしまう。しかし、ウェルビーイングの観点に立てば、高齢者でも運転しやすいクルマを作る方がずっとよい。高齢者でも誰でも自分の意思で自由に動きたいのですから。そうしたことをデータで探り、幸福感の向上に向かってテクノロジーを生かすわけです。

株式会社ウフル
Chief Data Trading Officer (CDTO)
杉山 恒司 氏

杉山 私が支援してきた多くの自治体の課題は、住民の本意を吸い上げることでした。これは意外に難しい。調査をしても、主な参加者は意識の高い人ばかり。本当に困っている人は生活に余裕がなく、調査にはあまり参加してくれません。また普通に何かを聞いても、日本人はなかなか本音を言ってくれない傾向があります。

住民の本音を知るには、テクノロジーが必要なのです。私たちは地域のコミュニティを作ったりワークショップをしたりして、まず住民の関心ごとや価値観を探ります。システムやテクノロジーの検討は、その後です。

「和」で実現する日本型の
スマートシティを世界へ

南雲 幸福感とは、それほど単純なものではありません。従来のスマートシティ構想でよく言われてきた自動運転やオンライン診療などは、生活の質を向上させますが、幸福感には必ずしもつながるとは限りません。

実際にデータを集めて分析すると、幸福感には「自分で自分の人生を決めている感覚がある」「学びたいことを学べる」といった自己実現の感覚や、「面白い人と出会える」「人に優しくできた」といった人とのつながりや感謝の感覚が含まれています。幸福感とは、そうしたものがあって初めて生まれる感覚なのです。

今の日本では、私たちが目指すスマートシティの目標は、生活基盤の整備の先にある「精神的な幸せ」の実現です。そのために作った「リバブルウェルビーイングシティ(Liveable Well-Being City)指標」は、デジタル田園都市国家構想の公式指標となり、世界へも発信する準備を進めています。

杉山 日本は高度経済成長を経てバブル崩壊まで物質的な豊かさを追求してきました。しかし、この30年ほどは経済成長が止まり、心の豊かさの重要性に気づきました。その意味で、日本は世界的にもまれな国だと思います。

データ流通の世界でも、日本はDFFT(Data Free Flow with Trust)をいち早く打ち出し、主導的立場になろうとしています。Society 5.0もそうです。世界が大きな転換期に来ているのを感じます。

園田 日本を表現する言葉の1つに「和」があります。データ連携の究極の姿も「和」ではないでしょうか。それを具現化できれば、世界は持続可能なものになっていくでしょう。

南雲 その意味で、日本的な幸福感を体現するスマートシティは普遍的な価値を持つと思います。例えば、権威主義的な国家は個人の幸せより統治のためにデータを使っているので、高圧的、抑圧的になります。逆に市場の自由競争に依存しすぎると、格差が広がります。

日本は、ちょうどその真ん中に立っているのです。ちょっと卑近な例ですが、コミックやアニメが世界に受け入れられたように、日本型の哲学とテクノロジーから生まれるスマートシティは、世界に喜ばれるでしょう。

園田 それを実現するには、1人でも多くの仲間が必要です。地域や政府、プラットフォーマー、テクノロジー企業、インフラ、医療、物流ほか、あらゆる分野の人たちにご参加いただきたいと願っています。

撮影地:WeWork 神谷町トラストタワー

株式会社ウフル

https://uhuru.co.jp/