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心理的安全性を育み“言いたいことが言える組織へ” 富士製薬工業が目指す成長のために企業があるべき姿

「社員の成長が、会社の成長につながる」。当たり前だが、忘れられがちな原理に基づく経営を貫いているのが富士製薬工業だ。「社員の成長」をさらに促すため、2021年には、社員同士が感謝や称賛の言葉を交わし合う「ピアボーナス®」制度を導入した。その狙いと効果について聞いた。

会社の成長は社員の成長に正比例する

 富士製薬工業は、新薬、バイオシミラー、ジェネリック医薬品などを開発・製造する医薬品メーカーである。1965年の創業以来、「優れた医薬品を通じて、人々の健やかな生活に貢献する」という経営理念の下、半世紀以上にわたって数多くの医薬品を提供してきた。

 医薬品の中でも不妊症治療剤や月経困難症治療剤といった女性医療用医薬品に特化しており、「女性医療領域No.1」となることを今後の成長シナリオの一つに掲げている。

 「女性の社会進出による女性活躍の舞台が広がる一方で、女性特有の病気に苦しむ人は年々増えています。女性が病気に苦しむことなく、仕事や生活で思う存分活躍できれば、社会全体が幸福になると考えています。当社はこれを従来から大きな社会課題と捉え、女性医療用医薬品に特化した事業モデルで課題解決に向けて尽力しております」と語るのは、同社 執行役員 経営管理部 部長の宇治 浩氏である。

 富士製薬工業は、先ほど紹介した経営理念の他に、もう一つの理念を創業当時から掲げている。それは、「富士製薬工業の成長はわたしたちの成長に正比例する」というものだ。

 この経営理念には、「『社員に成長機会を与えることが、会社の成長にもつながる』という意味も込められています」と宇治氏は語る。当たり前ではあるが、多くの企業ではつい忘れられがちな経営の原理である。

 理念を実践するため、同社は社員同士の交流を促すことに力を注いできた。互いを知り、切磋琢磨することが「人としての成長」に資すると考えるからだ。また、「そもそも医薬品メーカーは、研究・開発、製造、営業と部門ごとに専門性が分かれており、仕事以外では部門間の人の交わりが少ないことも、意図的に交流を促してきた理由です」と宇治氏は説明する。

 年2回の全体研修や社員旅行などを通じて社員同士の交流は深まり、信頼関係を土台とした部門間の活発なコミュニケーションが、新製品の開発など新たなアイデアや業務改善のヒントに結びつくという好循環が生まれていた。

宇治 氏

ピアボーナス®の導入で心理的安全性が向上

 しかし、「女性医療領域No.1」を目指して成長する中で富士製薬工業の社員数は増え続け、研修や旅行といったリアルな交流の場を設けることは、年々困難になった。さらに「コロナ禍によってテレワークが進んだことも、日常的なコミュニケーションを阻害する要因となりました」と宇治氏は語る。

 何とか社内交流を促せる方法はないかと考えた宇治氏は、その一つとしてUniposの「ピアボーナス®」を導入した。

 ピアボーナス®とは、仲間(Peer)同士がそれぞれの仕事の成果や貢献に対して、感謝や称賛の言葉とともに、ささやかな報酬(Bonus)を送り合う制度だ。Uniposは、この制度をすぐに導入できるウェブサービスであり、社員はパソコンやスマートフォンなどを使って、社内の誰にでも自由にボーナス付きのメッセージを送ることができる。

 同社は21年2月、手始めに本社部門を中心とする約200人を対象として制度を開始した。

 その後、利用した社員を対象に「心理的安全性サーベイ」を行ったところ、心理的安全性を感じるために組織内にあると良いとされる「話しやすさ」「助け合い」「挑戦」「新奇歓迎」の4つの因子の指標がすべて向上していた。このサーベイとともに、組織の状態がどのように変化したのかを見るアンケートを実施したところ、「他部署や他チームで働く人に感謝・称賛を伝える機会が増えた」と答えた社員は全体の68%に上った。

 こうした成果を踏まえ、富士製薬工業は21年8月、ピアボーナス制度の対象を約800人の全社員に広げた。

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上司から若手社員に向けて送られたUniposのメッセージ。プレゼンに対するアドバイスに加えて、直接伝えにくい励ましや気配りの言葉が込められている。

個人の成長と会社の成長を正比例させる組織へ

 一方で、同社の社員の特徴を聞くと「良い人が多い」「真面目」という声が上がるほど、“和を以て貴しとなす”のような社風が特徴であるという。これは魅力とも捉えられるが、価値観が多様化する社会の中で企業として生き抜くには、互いの意見を言い合うことで、新しいアイデアや現在の事業をより良くするような個性を発揮することも重要になる。そのため、現在の良い社風は大切にしながらも、相手を尊重しつつ自由な意見を言い合える心理的安全性が必要だと宇治氏は考えている。

 「感謝の人間関係からは、信頼関係が生まれます。その信頼関係がある組織は高い心理的安全性が育まれる強い組織だと考えています。そうした組織では対上司や部門間といった、一見すると壁があるように感じる関係性でも、遠慮なく、言いたいことが言えるはずです。それによって縦や横のコミュニケーションが活発化すれば、互いのアイデアや意見を忌憚なく交わせるようになり、ビジネスの発展にもつながります。まさに、『富士製薬工業の成長はわたしたちの成長に正比例する』という経営理念に合致する効果が期待できそうだと思いました」と宇治氏は振り返る。

 最後に宇治氏は、「Uniposであれば、楽しみながら知らず知らずに心理的安全性が高まり、その結果、社員がお互いを高め合いながら、お互いの成長を促す風土が広がり、それが企業としての成長につながっていくのだと信じています」と今後への期待を語った。

Profile
2005年に富士製薬工業に入社、経理財務部門を経て20年10月から現職。採用から幹部社員育成プロジェクトまで担当し、会社の人事制度である徳目制度の浸透にも注力している。
宇治 氏