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構造改革実行の基盤として大事な組織風土・文化を変革 「新しい文化」の醸成が好奇心と挑戦心を生む

世界有数のアルミニウム総合メーカーであるUACJは、企業理念や行動指針を社員に定着させるため、構造改革の一環として組織風土・文化の変革を推進。「褒める文化」の醸成によって、社員が理念の実現に向け、前向きに挑戦できる風土・文化を形成した。社長自らが率先して取り組んだ変革の軌跡に迫る。

市場環境の変化に合わせて
構造改革を推進

株式会社UACJ
代表取締役 社長執行役員
石原美幸
1957年生まれ。1981年4月、住友軽金属工業株式会社に入社。同社執行役員 生産本部副本部長などを経て、2013年10月、株式会社UACJ の執行役員に。その後、取締役兼常務執行役員 生産本部長などを経て、2018年6月より代表取締役社長兼社長執行役員。2022年6月より現職。

 UACJは、古河スカイと住友軽金属工業の経営統合によって2013年に誕生したアルミニウム総合メーカーだ。

 世界有数の生産量を誇るだけでなく、主力であるアルミニウム圧延品(板・押出)のほか、箔、鋳鍛、加工品、自動車部品など、用途に応じて様々な製品を提供できる、世界でも数少ない存在である。

 「熱伝導性が高く、軽量で頑丈なアルミニウムは環境負荷の軽減に貢献する素材であり、今後も需要が拡大し続けるものと期待しています」と語るのは、同社 代表取締役 社長執行役員の石原美幸氏である。直近の業績も好調で、22年3月期には売上高・利益ともに過去最高を記録した。

 躍進を支えているのは、アルミニウム需要の拡大ばかりではない。

 UACJは統合から6年後の19年、グローバル市場の環境変化に合わせて構造改革を推進。その成果が、3年がかりで大きく実を結んだのだ。

 「統合から数年間の業績は順調でしたが、中国経済の減速や米中貿易摩擦によって、経営環境は急激に悪化しました。厳しい状況を乗り越えるため、国内生産拠点の集約や海外での大型投資の早期立ち上げによる戦力化・収益最大化など、大胆な事業構造改革を推し進めたのです」(石原氏)

理念を全社共有するため
社長自らが社員と対話

 UACJは構造改革で6つの柱を掲げているが、その1つとして「組織風土・文化の変革」を打ち出している。事業に直結する構造改革の中に、組織風土・文化の変革を盛り込む企業はあまり多くない。しかし、「会社や事業を変えるには、そこに働く人たち全員が腹落ちし自らも変わっていくことが最も大事なことと考えていました」と石原氏は振り返る。

 組織風土・文化の変革を推進するため、プロジェクトメンバーがヒアリングを重ねた結果を基に、「素材の力を引き出す技術で、持続可能で豊かな社会の実現に貢献する。」という新しい企業理念を定め、より一層、推進をするために20年4月には「新しい風土をつくる部」を設置した。さらに、企業理念の実現に向けた社員の道しるべとして、「UACJウェイ」という行動指針を制定。「安全とコンプライアンス」を行動原則とし、「相互の理解と尊重」「誠実さと未来志向」「好奇心と挑戦心」という3つの価値観を(行動の羅針盤として)指針に盛り込んだ。

 同社は、これらの理念や価値観を全社で共有するため、経営陣と社員による理念対話会を重ねている。

 社長である石原氏自身においては2021年度には年37回もの対話会を実施。理念や価値観の意義を伝える一方、社員の生の声に耳を傾けた。

 「初めは『自分は何のために仕事をしているのか?』『自分の仕事は誰の何のために役に立っているのか?』という声が非常に多かった。そこで、社員が日々励んでいる業務が、理念や価値観の実現にどう結びついているのかを実感してもらえるように、様々な施策を講じています。今では誰かの役に立っていることが実感できてうれしいという声も聞かれるようになりました。うれしい限りです」と石原氏は説明する。

 その1つが、価値観を体現する行動を実践した社員を表彰する社長賞「UACJグループウェイ賞」だ。「目的を持って果敢に挑戦し、成功した人には惜しみない称賛を贈ることが、自己肯定感や、さらなる挑戦への意欲につながると考えました。たとえ失敗しても、それが意義のある挑戦であれば激励します。失敗を恐れず挑み続けるプロセスを重視しているからです」と石原氏は説明する。

心理的安全性を高め
挑戦する意欲を促す

 前述した3つの価値観の中でも、「好奇心と挑戦心」は、変革を推し進めていく上で欠かせない力だとUACJは考えている。

 ただし、その力を発揮するには、周囲から何かを言われて萎縮してしまうような風土を改めることが必要となる。社員の心理的安全性を高め、やりたいことに思う存分チャレンジできるような環境を実現したいと考えた。

安全への思いを込めて、日頃から挨拶を徹底している社員への感謝をUniposで送った画面。感謝のやり取りによって当たり前に思っていた仕事に意義を見いだし、やりがいが高まる社員もいるという

 そこでUACJは、社員同士が互いを称賛し、報酬を贈り合うサービスであるUniposを21年4月に導入。「新しい文化」を定着させて、社員の心理的安全性を高めようとした。

 「安全で確実な仕事が求められるメーカーの現場には、それらは『できて当たり前』だという意識が根付いています。当たり前だからこそ、『褒める』という文化はなく、自分たちが取り組む仕事の意義を実感できずにいる社員も多かったのだと思います」(石原氏)

 Uniposの導入によって、UACJの社員の心理的安全性は着実に向上した。

 導入前の心理的安全性スコア(7点満点)は、全国平均(4.8点)よりも低い4.6点であったが、導入から4カ月で5.1点まで改善された。

 「離れていたり、面と向かっては言いにくい感謝の言葉も、Uniposなら気軽に伝えられるという声も届いています。当事者同士だけでなく、すべての社員が称賛のやり取りを見られるのもいいですね。褒めるという『新しい文化』の定着に役立っていると思います」と石原氏は評価する。

 心理的安全性を土台に、社員が理念や価値観の実現に向けて果敢に挑戦すれば、UACJの成長はますます揺るぎないものになりそうだ。

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トップとボトムの呼応がつくる心理的安全性

株式会社ZENTech 取締役/
『心理的安全性のつくりかた』著者
石井 遼介

日本の成長を支えてきた伝統的な製造業の方から、組織の心理的安全性への悩み・課題はよく寄せられます。本取り組みは、そのような製造業の灯台となる事例です。トップの力強いリーダーシップのもと、この取り組みではUniposを土台に挙手制・全社横断の組織風土変革チームを組成し、心理的安全性スコアのモニタリングを行いました。トップとボトムが協調できる土壌開発の工夫が、成果に繋がる秘訣と感じています。