顧客やパートナー企業とコミュニケーションを取る上で、欠かせないものとなったWebサイト。これについて、現在は多くの日本企業がコーポレートサイトの刷新を検討しているという。背景にあるのが次の3つの要因だ。
1つ目は、東京証券取引所の市場区分の見直しである。東証1部、同2部、マザーズなどの市場区分が、2022年4月からプライム市場、スタンダード市場、グロース市場の3つに再編される。多くの機関投資家の投資対象になりうるプライム市場に上場するには「より高いガバナンス基準の具備と投資家との建設的な対話の実践」が求められる。ESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)に対する姿勢、財務諸表をはじめとするコンテンツの充実とタイムリーな公開に向け、サイト刷新が必要になっている。
2つ目が、コロナ禍によるビジネスの変化である。事業や拠点の立ち上げ/撤退が頻発し、パンフレットのような紙媒体では情報発信が追い付かなくなった。そこで、新たな情報発信媒体としてコーポレートサイトを位置付ける企業が増えているのだ。
そして3つ目が、スマートフォンなどのモバイルデバイスの普及である。5年ほど前から進む、Webサイトのモバイル対応の流れがさらに加速。主要ページの刷新に加え、全ページをモバイル対応させる企業も少なくない。
「こうしたサイトリニューアルの取り組みを進める際、欠かせないのが多言語対応です。国内市場が縮小傾向にある日本の企業にとって、広く世界に情報を発信し、ビジネス拡大を図ることは重要なミッションとなるからです」とWovn Technologiesの上森 久之氏は話す。既に英語版のコーポレートサイトを展開する企業は多いが、さらに第3、第4の言語にも対応を進めることが、これからのビジネスにおいて不可欠だという。
ただ一方で、実際の取り組みは進んでいるとは言い難い。日経平均株価の構成銘柄225社のサイトを調べると、日本語を含めて2言語のみに対応している企業が約70%。3言語に対応している企業、4言語以上に対応している企業は、それぞれ約15%にとどまっていたという(図1)※。
約70%が日英2 言語のみの対応にとどまっている。なお、12%ある6 言語以上対応の企業には、複数の海外拠点を持つ製造業やロジスティクス系企業が多く含まれる
「外国語サイトの展開においては、日本語コンテンツを翻訳する手法が一般的です。コンテンツが少ないうちは人手で何とかなりますが、コンテンツが増えてくるとそう簡単にはいきません。しかも、一度翻訳して終わりではなく更新作業も必要です。そのため、どうしても日本語サイトより情報量が減ったり、更新が遅れたりします。このような状況が、多言語サイト運用のハードルを上げる要因になっています」と上森氏は説明する。
この状況を打開するため、同社が提供するのが、Webサイト多言語化ソリューション「WOVN.io」だ。
※Wovn Technologies調べ
WOVN.ioは、多言語化の対象となるWebサイトからコンテンツを取得し、自動翻訳する機能を備えたソリューション。最大43言語・77のロケール(言語・地域の組み合わせ)に対応させることで、新たな顧客体験の創出を支援している。
機械翻訳、用語集登録などに基づく自動翻訳のほか、Wovn Technologiesのスタッフやクラウドソーシングによる人力での翻訳も組み合わせられる。またユーザー側での事後編集も可能だ。Webサイトを表示した画面上で、ダイレクトに画像やテキストなどのコンテンツを修正できる。直観的な操作で言語やUI/ UXをローカライズできる点が大きな特長といえるだろう。
「通常は、言語ごとにコンテンツ制作やサイト構築を行うため、制作・運用体制が個別に必要になります。それが不要になり、コストや人的資源を大幅に削減可能。情報発信の多言語化によるビジネス拡大、イノベーション創発を支援します」と上森氏は強調する(図2)。
多言語体験を通じて、新たな顧客接点と顧客体験を創出するサービス基盤を提供する。既に世界中で1万8000超のWebサイトが採用し、翻訳したコンテンツは累計で500万ページ超に及ぶ
これまで世界中で1万8000超のWebサイトがWOVN.ioを採用。翻訳したコンテンツは累計500万ページを超えており、顧客企業の情報発信能力向上に大きく貢献している。
国内ユーザーの一例が、グローバルな産業機械メーカーであるヤンマーホールディングス(以下、ヤンマーHD)だ。日本に加えて米国やオランダ、中国、ブラジルなど127の海外拠点でビジネスを展開する同社では、各地域のビジネス環境に合わせた多言語サイトを運営中。「ヤンマーHD様にとって、グローバルビジネスを加速させる際のボトルネックの1つが『翻訳』でした。以前は人が日英翻訳を行っていたため、情報更新は日本語サイトの1カ月遅れ。そこからほかの言語に翻訳するため、ドイツ語やスペイン語などのサイトはさらに遅れていました」(上森氏)。情報発信の遅延に加え、地域ごとの情報量も異なっており、ワールドワイドにブランド価値を訴求できない点が悩みだったという。
そこでヤンマーHDはWOVN.ioを導入。グローバルサイトのほか、イントラネットにも適用して多言語化を進めた。社外向けサイトの地域間の情報格差が解消できたほか、海外の自社拠点に向けたタイムリーな情報発信も実現できたという。
加えてWovn Technologiesは、WOVN.ioのほかにも多言語化の機能を拡張・強化したソリューションを投入している。それが、アプリ多言語化ソリューション「WOVN.app」と、2020年秋にリリースした「WOVN.api」だ。特に後者は、API経由でデータベースなどの内部データを多言語化できるソリューション。これまで難しかった「多言語でのサイト内検索」などを実現し、海外からのECサイト利用促進につなげることができるという。
「異なる言語で作られたデータへのアクセスを容易にする。これによって、情報格差の解決に取り組んでいきます」と上森氏は語る。「言語の壁」を取り除く――。同社のソリューションは、まさにその言葉を体現したものといえるだろう。