岐路に立つ物流業界
――キーパーソン集いロードマップを提示

労働人口の減少でトラックドライバーや作業労働者が不足する中、コロナ禍で高まるEC需要がさらに物流業界を圧迫している。「2024年問題」やカーボンニュートラルなど、物流を取り巻く課題は多い。その解決に向け、世界的に注目されているのが「フィジカルインターネット」だ。国交省、経産省、学術界、物流企業やIT企業のキーパーソンが集まり、今年で3回目となるシンポジウムが開催された。国交省と経産省は2022年3月に共同で「フィジカルインターネット・ロードマップ」を発表。「一般社団法人フィジカルインターネットセンター」の設立も決まり、実現に向けて確実な歩みを進めている。

開会挨拶

3年目のコロナ禍、
国家レベルの全体最適化に向けた議論と実行を

ヤマトホールディングス株式会社
代表取締役社長
長尾 裕 氏

コロナ禍が3年目に入り、ビジネスや暮らしのスタイルが大きく変化している。日本のEC市場はコロナ禍で急伸。消費形態の変化に合わせ、市場やサプライチェーンも急速に変わった。

しかし、「日本の物流業界は多数の課題を抱えています」(長尾氏)。労働人口の減少によるドライバー不足、作業労働者不足、労務コストの上昇、燃料費の高騰、物流拠点のコストも上がっている。

こうした課題に個社レベルで立ち向かうことはもちろん重要だが「物流企業と荷主企業が協力し合い、業界全体の最適化へ向けた取り組みが必要だ」と長尾氏は述べる。

ヤマトグループ総合研究所は、フィジカルインターネットの啓蒙活動に尽力し、その必要性を訴えてきた。これが認知度を徐々に高め、政府主導で「フィジカルインターネット実現会議」が開催されるまでになった。「国家レベルの全体最適化に向けた議論と実行に移るタイミングに来ています」(長尾氏)。今日の議論にも大いに期待していると、開会の挨拶を述べた。

基調講演

フィジカルインターネット実現の
ロードマップ

経済産業省
消費・流通政策課 課長 兼 物流企画室 室長
中野 剛志 氏

経済産業省と国土交通省は2021年10月から「フィジカルインターネット実現会議」を進め、6回の会議を経て2022年3月に「フィジカルインターネット・ロードマップ」を策定した。「政府レベルで策定したフィジカルインターネット実現へのロードマップとしては、世界初だと思う」と中野氏は自信を見せる。

実現会議の下に「スーパーマーケットWG」「百貨店WG」「建材・住宅設備WG」という3つのワーキンググループを設け、業界ごとの物流問題を検討。2030年へのアクションプランをまとめた。

物流を支えているトラックドライバーは、労働人口の減少と労働環境の悪化によって減少する一方だ。これを改善するため、2024年からドライバーに時間外労働規制(年間960時間)が課せられる。これを機に、物流コストの高騰が懸念されている。これがいわゆる「2024年問題」だ。加えて、2030年度には温室効果ガスの2013年比46%削減、2050年にはカーボンニュートラルの要求がある。

一方、物流トラックの積載効率は90年代から下がり続け、今や4割以下だ。「積載量の6割が空気を運んでいる状態です」(中野氏)。主な原因は、多品種小ロット輸送が増加していることにある。

かつて企業競争力の源泉は良い製品を安く大量に生産、販売することだったが、物流コストインフレの時代になると、物流やサプライチェーンに長けた企業が市場競争力を得るようになる。実際、欧米の成長企業はサプライチェーン経営に注力している。しかし、その重要性に気づいている日本の経営者はまだ少ない。

物流問題は構造的なものであり、現在の物流システムが限界に達していることを示唆する。物流事業者だけでなく、荷主や行政が一丸となって取り組むべき課題だ。そこで注目されているのが、フィジカルインターネットである。「インターネット通信が革命をもたらしたように、フィジカルインターネットは物流に大きな変化をもたらします」(中野氏)。あらゆる分野で徹底した標準化を進め、データを可視化し、共同配送を極限まで進めるというコンセプトだ。

また、SDGsとの関連にも注目すべきだと中野氏はいう。フィジカルインターネットの実現により、SDGsの17目標のうち8つが達成できる。社会とビジネスの持続可能性も視野に、中野氏らは前述のロードマップを作った。2040年までを5年ごとに「準備期」「離陸期」「加速期」「完成期」に分け、それぞれの時期で達成すべき具体的なテーマを設定している。

招待講演

物流関連の標準化の促進

国土交通省
総合政策局 物流政策課 課長
髙田 公生 氏

「物流の小口化と多頻度化が進んでいる」と、髙田氏はまず日本の物流が抱える課題について説明した。平成2年度には1件あたり平均2.43トンだった貨物量が、27年度には0.97トンまで減少。件数は逆に1365万6000件から2260万8000件に増大している。売上高に対する物流コストの比率は、平成27年度の4.63%から令和2年度には5.38%に拡大した。

令和3年6月15日に閣議決定された「総合物流施策大綱」は、2021年度から2025年度まで向こう5年間の物流政策となる。その柱は3つ。「物流DXや物流標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化」「労働力不足対策と物流構造改革の推進」「強靭で持続可能な物流ネットワークの構築」だ。

まず、発荷主、着荷主、物流事業者が連帯し、サプライチェーン全体の最適化を見据えたデジタル化を進める必要がある。国土交通省はこの取り組みを支援する仕組みを運用しているため「興味のある方はぜひ物流政策課に問い合わせてほしい」と髙田氏は述べた。

モノ、データ、業務プロセスのすべてで標準化を進める必要がある。業種ごとの標準化が必要なことから、現在、加工食品の分野をプロトタイプとして様々な取り組みを進めている。例えば、A4版の納品伝票と外装表示の標準化を進め、パレットは1100ミリメートル四方のT11型パレットと1000×1200ミリメートルのT12型パレットの2規格への統一を試みる。さらに、コード体系や物流用語の標準化なども進めている。

また、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の第2期(2018年からの5カ年事業)で「SIPスマート物流サービス」が進行中だ。物流の各段階で発生するデータを物流・商流データ基盤で統合し、事業者に活用してもらうための検証を進めている。各社のデータベースをつなぎ、連携させることを目指す。

以上の動きを見据え、データ基盤の要素技術とデータ収集の技術を開発している。例えば、地域物流や日用消費財、ドラッグストア・コンビニ、医薬品医療機器などのデータ基盤を共通ルールで統合しようとしている。これにより、きめ細かい共同配送を実現していく計画だ。昨年10月に「SIP物流標準ガイドラインver1.0」を公表。これは、実地試験を通じてバージョンアップさせていくと述べた。

招待講演

2030年にフィジカルインターネットを実現
~物流標準化の提案~

上智大学 名誉教授
ヤマトグループ総合研究所専務理事
荒木 勉 氏

フィジカルインターネットは、相互接続されたグローバルなロジスティクス・システムだ。シームレスなアセットの共有と業務フローの統合を目指す。消費財の物流にのみ注目して議論されることも多いが、本来は、資源や材料の調達から部品の生産、組み立て、出荷までを含む「調達物流」と、流通を介して商品を消費者まで届ける「販売物流」の両方を含んでいる。「ロジスティクス全体が1つのネットワークを使うというコンセプトが不可欠です」(荒木氏)。消費財と生産材を同梱して運ぶことも視野に入れて検討すべきだと語る。

フランスでは、フィジカルインターネットの実現によって物流在庫が現在の3分の1になり、温室効果ガスの排出量を60%、輸送キロを15%削減できると推計している。また、ケベック州からロサンゼルスまで1人のドライバーで運行している約5000キロの長距離輸送を、300キロごとのリレーで17人のドライバーが運ぶ形に変えると、全体の所要時間が半分になり、1人当たりの平均運転時間も削減できることを実証した。

「電子メールが宛先アドレスのみで届くように、フィジカルインターネットで扱うデータもシンプルにするべきです」(荒木氏)。識別番号や宛先、大きさと重さだけのシンプルなデータ構造にして、それ以外の詳しいデータは2次データベースで管理し、トラブルが起きた時だけ利用するような仕組みにすれば、フィジカルインターネットは使いやすい仕組みになると荒木氏は主張する。

また、荒木氏は「複数のフィジカルインターネットがあってよいし、それらが自由競争することで健全な発展が望める」と語った。そこで重要になるのが、標準化だ。

パレットの標準化では1100×1100ミリメートルが日本産業規格(JIS)になっているが、実際には様々な寸法のパレットが使われている。1200×1100に統一すれば、すでに全国に普及している1100ミリメートルの棚に縦に入れることができる。

また、さらに重要なのは「通い箱」の標準化だ。欧州の標準規格に合わせたサイズにすることで、パレットに積載したときに適切な隙間ができ、ICタグの通信にも有利になる。

経産省、国交省、農林省の後援により、「一般社団法人フィジカルインターネットセンター」が誕生する。研究会やシンポジウムの開催、各種調査と分析、標準化の推進、プラットフォームの管理と運営などを進める計画だ。

招待講演

デジタルプラットフォームを活用した
輸配送コストダウン

ラクスル株式会社
ハコベル事業本部 執行役員ハコベル事業本部長
狭間 健志 氏

ラクスルは2009年の創業。印刷会社の空いている時間をうまく活用するオンライン印刷サービスで成功し、そのノウハウを広告や物流などの業界に展開、デジタルによる業務効率の向上を支援している。

「物流業界の大きな課題は2つあります」と今回、リモート参加となった狭間氏は指摘する。1つは、企業間取引が多重下請け構造になっていることだ。6万社ある運送会社の約9割がトラック台数30台未満の小規模事業者であり、相対取引が中心なので情報の非対称化が生まれている。もう1つは、未だに電話とファックス中心のアナログなコミュニケーションが主流であり、業務効率が低いことだ。

同社は主に2つのSaaS製品を提供することでこの課題を解決している。企業間取引を電子化し、荷主と輸送会社を直結するマッチング基盤と、荷主や運送会社のオペレーションをデジタル化し、生産性を高める業務管理システムだ。

ネスレ日本は物流の業務フローを同社のシステムに一本化。業務時間を8割削減し、数百万円の配送コストを減らした。また、NTTロジスコは配送計画を同社のシステムで最適化し、5%のコストダウンと約3割の時間短縮を実現している。

同社はシステムを導入する前に、必ず顧客ごとに詳細なシミュレーションをして効果を可視化する。導入前に導入後の状況が見えるため、ユーザーの安心感が高い。

物流業界における
シェアリングの現状と今後について
1 2

お問い合わせ

一般社団法人ヤマトグループ総合研究所

https://www.yamato-soken.or.jp/