


出光興産が中期経営計画で掲げる3つの事業変革の1つに「スマートよろずや構想」がある。全国に展開する同社のサービスステーションを、多様なエネルギーの供給、モビリティや生活支援のためのサービスなど、生活支援基地として進化させる。特約販売店と協業し、地域が抱える課題を解決しつつ社会インフラの再構築を図る試みだ。
「求めるユーザーが1人でもいれば届けるのが、私たちエネルギー供給責任者の使命です」。出光興産の森下健一常務執行役員は、こう語る。


「近年、サービスステーション(給油所、以下SS)を取り巻く環境が厳しさを増し、SSの数は減少しています。しかし、社会インフラとしての責務を果たしていくには当社のSSをこれ以上減らしてはならない。そうした強い意志を持って、私たちはいま、SSの変革に向けた『スマートよろずや構想』を進めています」(森下常務)
全国で6100カ所を超える出光興産のSSは、各地の特約販売店が運営する。出光興産は、燃料供給や営業支援などを通して特約販売店と密接な関係を築いてきた。
2023年12月には、全SSにおいて「apollostation(アポロステーション)」ブランドへの切り替えが完了する。これらのSSを、地域ニーズに応じて多様なサービスを提供する「それぞれのまちの人と豊かな暮らしをサポートする生活支援基地」に進化させるのが、「スマートよろずや構想」だ。
森下常務が指摘するように、背景にあるのは、脱炭素社会に向けた要請、過疎化・高齢化をはじめとする社会課題の深刻化などを受けたSSの減少に対する危機感だ。SSは地下タンクやポンプなど多額の設備投資を要するため、事業継承に迷いを抱く特約販売店の経営者も少なくない。
「特約販売店の有する資産も活用し収益も確保しながら、各地域のニーズを満たすサービスを構築し、インフラとして存続し続けることがスマートよろずやの狙いです。100の地域には100のニーズがあります。デジタル技術も活用しながら、人々の暮らしを支援し、無限・多様すなわち『YOROZU』に進化していくSSを目指します」(森下常務)
想定する機能は大きく3つある。多様なエネルギーを供給する「エネルギーよろずや」、EV(電気自動車)やドローンなども用いて従来の移動サービスを拡充する「モビリティよろずや」、地域の暮らしを支援する「コミュニティよろずや」だ。SSごとにこれら3つの機能を掛け合わせ、地域のニーズに応じたサービスを構築する。


2023年10月7日、都内に第1号店が誕生した「apolloONE(アポロワン)」。スマートよろずやの在り方を象徴する新タイプの専門店だ。給油以外のモビリティサービスに特化。ニーズや運営する特約販売店の特性に応じて洗車、カーコーティング、カーシェア、レンタカー、車検、板金、整備、車販売・買い取りなどのサービスを組み合わせていく。
第1号店「apolloONE 江東東陽町 KeePer PRO SHOP」では、専門技術を持つスタッフが洗車とカーコーティングサービスを提供する。
この他にも出光興産は、2021年5月の中期経営計画の発表以降、地域の特約販売店や自治体、企業と組んでスマートよろずやの実証実験を重ねてきた。
例えば、東北と関東の一部エリアでは、ハウスクリーニング事業者と連携し、家庭用エアコンのクリーニングサービスを実施している。病院への移送や宅配などの近距離移動を担う超小型EVの検証、SSを基点とするサービスの事業化を視野に入れた国産ドローンの共同開発などにも積極的に取り組む。高知、埼玉、兵庫の3県では、国産のCLT(直交集成板)を使った環境配慮型SS「apollostation Type Green」を開設した。
将来的には、オンライン予約やスマート決済ができるユーザー向けアプリ「Drive On」などと連動させた高付加価値サービスも視野に入れている。
2023年10月7日にオープンした
apolloONE 1号店(東京都江東区)


スマートよろずやは、給油をしない店舗でも、生活者にとって利便性の高い場所に位置しているところに特徴がある。
「車がモビリティの手段として続く限り、何らかの動力へエネルギーを安定的に供給する機能は必要です。燃料サプライチェーンとしての役割は今後も続きます」と、森下常務。仮に10年後、使用するエネルギーが合成燃料やバイオ燃料などに置き換わった場合でも、利便性の高い立地や設備の観点からエネルギー拠点として再起できる。
もう1つの特徴は、信頼関係を培ってきた特約販売店との協業だ。特約販売店経営者はその地域の名士で、地域の自治体とのつながりも深い。お客様との接点に位置している強みも持つ。地域の課題を熟知する特約販売店の知識やリソースの活用は、スマートよろずや構想の大前提となる。
「構想を進める過程では、各地の特約販売店と膝詰めでそれぞれの悩みごとについて議論してきました。今後の実装をスピードアップしていくためにも、特約販売店とともに、お客様や自治体に向けてスマートよろずやの取り組みに関する発信に注力します」と森下常務は意気込む。

2023年9月、出光興産は「スマートよろずや構想」を掲げ、「apolloONE」を主軸に同社が目指すSS変革について説明会を開催。SSが提供する新たな価値を表現する新スローガンを発表した。
