環境配慮型の稲の栽培方法で、低コスト・省力化と大幅な温室効果ガス削減が可能に 環境配慮型の稲の栽培方法で、低コスト・省力化と大幅な温室効果ガス削減が可能に
鍵となるのは、ビール酵母を有効活用してつくられた農業資材 鍵となるのは、ビール酵母を有効活用してつくられた農業資材
技術革新が「農業の未来」をつくる 技術革新が「農業の未来」をつくる

ビール酵母資材で実現する「植物活性イノベーション」

米は水田で栽培される——そのような日本の常識を覆す栽培方法が「節水型乾田直播栽培」だ。水を張らない状態の田に種子をまき、出芽後も湛水しない栽培方法である。従来の田起こし、水張り、代掻き、苗代づくり、田植えなどの作業が不要となり、低コスト化・省力化が可能となる。また、水田栽培に比べて大幅なメタンガスの発生抑制と水資源削減も期待できる。この栽培方法では品質の良い米づくりは難しいとされてきたが、可能にした技術の1つが、アサヒバイオサイクルが特許技術を活用して開発した「ビール酵母細胞壁由来の農業資材」である。技術革新によって農業イノベーションに貢献するアサヒバイオサイクルの挑戦について、代表取締役社長の千林紀子氏に訊いた。

ビール製造で培った技術が
稲作の常識を変える

「ビール酵母細胞壁由来の農業資材(以下、ビール酵母資材)」は、アサヒバイオサイクルが独自に開発した製品だ。アサヒグループのコア事業であるビール製造の副産物「ビール酵母」から、植物生理を活性化するバイオスティミュラント(植物活性農業資材)を開発。加えて、ビール酵母細胞壁水熱反応物にRCS(活性炭素種:Reactive Carbon Species)が存在することを発見した。これにより、「ビール酵母資材」による植物の生育や免疫力への影響などの“植物活性のメカニズム”解明に繋がる知見が得られた。すなわち、ビール酵母細胞壁水熱反応物から得られる適量のRCSが “即効性のあるポジティブストレス”を与え、植物ホルモンが内生され、植物の生育促進に効果をもたらす可能性が示唆されたのだ。

アサヒバイオサイクルは、今回の研究成果で得られた技術的裏付けを「X-RCS(クロス アール・シー・エス)」と名付け、この技術に裏打ちされた「ビール酵母資材」のさらなる普及を目指すと共に、メカニズムのさらなる解明を進めていく。

「ビール製造の副産物として生じる『ビール酵母』の有効活用は、アサヒグループが長年取り組んできた研究テーマであり、その成果を事業化に結びつけたいという研究者の思いがスタートラインでした」と語るのは、アサヒバイオサイクル代表取締役社長の千林紀子氏だ。

ビール酵母はすでに家畜の飼料などにも使われている。しかし、ビール酵母が持つ機能を生かした、より付加価値の高い活用法を求めて研究を続けてきた。

「ビール酵母資材」を稲に施用すると、植物の生理が活性化して植物ホルモンをたくさん作るようになる。それによって発根がうながされ、活性や吸肥力を向上させて光合成が活発になる。この効果により、生育が促進され、米の収穫量を増やすことが期待できる。

「この技術・製品の農業分野への応用は、農業に革新をもたらすことに情熱を持って取り組む多くの方々との共創によって実現しました」と千林氏は明かす。

「ビール酵母資材」の可能性は農業だけでなく、生活環境緑化など他の様々な分野にも広がり始めている。同社では、2010年から現在に至るまで、特許を連続的に取得しつつ技術を磨いている。

「ビール酵母資材」を稲に適用すると生育が促進され、米の収穫量を増やすことができる

世界の食料問題を解決すべく
官民タスクフォースが始動
アサヒの植物活性技術で

「ビール酵母資材」は、農林水産省の官民連携のタスクフォース「国内産輸出用米などの栽培技術のマニュアル化及び輸出可能性の検討・調査プロジェクト」の中心的な役割を担い、2024年4月から実証実験を始めている。「未来の米づくり」を目指した官民タスクフォースには、同社以外にも多数の農業生産法人、資材事業者、研究機関、輸出入事業者などが参加。それぞれが専門スキルを持ち寄り、環境配慮型で、かつ、社会課題の解決に直結する新たな稲の栽培方法の確立に挑んでいる。

「官民タスクフォースになったことで、多くの知識、経験、技術などが集積され、スピード感が一気に高まりました」(千林氏)

品質の高い米を省力化かつ低コストで生産できる新たなモデルを確立することは、農業就業人口の減少や気候変動下で日本人の主食である米を安定的に供給していくことにつながる重要なテーマだ。さらにこの技術を海外へ広めることができれば、世界で懸念されている食料危機の解決にも大いに貢献できる。

温室効果ガスを約9割程度削減
食品業界も脱炭素で注目

水田による稲作のもう1つの課題に、温室効果ガスがある。日本の農林水産分野が排出している温室効果ガスの約47%がメタンガスで、その過半が水田に起因している。メタンガスは、CO₂の約25倍の温室効果を持つ。

「節水型乾田直播栽培」は、水を張る慣行栽培農法に比べてメタンガスの排出を約9割程度削減できる可能性がある。そうして栽培される「メタンオフ米」は、脱炭素社会の実現に向けた取り組みでも大きなカギを握っている。

特に食品企業や外食企業では、原料や食材となる農産物の温室効果ガス排出量を削減することが大きな課題になっている。サプライチェーンから排出する温室効果ガスを「Scope3」のカテゴリー1にカウントし、排出削減に取り組もうとしている企業が多いのだ。例えば、従来使用している原料米を「メタンオフ米」に切り換えることで、「Scope3」としての排出削減策になることが期待されている。

アサヒバイオサイクルの
想いと目指す未来

「アサヒバイオサイクルの経営ビジョンは、『バイオのチカラで未来を創る。』です。気候変動や、世界各地の紛争などの影響による食料問題・資源問題・環境問題などが深刻になる昨今、『世界の農業の未来』、『世界の食卓の未来』、『循環型社会の未来』、これらのより良い未来の実現を願って、当社は技術を磨き、イノベーションを世界にお届けできるように挑戦し続けて参ります」(千林氏)。農業イノベーションの実現に向けて、アサヒバイオサイクルは技術力で貢献していく。

https://www.asahibiocycle.com/ja/

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