いまや世界中で注目を集めている「ウェルビーイング(Well-being)」。日常生活のみならず、企業経営やマネジメントの分野においても重要な指針となる概念だ。心と体と社会がよい状態にあることを示すウェルビーイングは、「人間の幸福」とも言い換えられる。アサヒ飲料では、長年の炭酸研究により、幸福と炭酸水の関連性に着目。その成果を地域共創にも取り入れている。「100年のワクワクと笑顔」を届けるために、アサヒ飲料が目指す姿とは? 同社代表取締役社長の米女太一氏が、ウェルビーイング研究の第一人者である前野隆司氏、日経BP 総合研究所の西沢邦浩とともに熱く語り合った。
西沢 近年、「ウェルビーイング経営」を掲げる企業が増えています。ウェルビーイングとは一体何なのか。なぜここまで注目されているのか。その背景を教えていただけますか。
前野 ウェルビーイング(Well-being)とは、1946年の世界保健機関(WHO)設立時に提唱された言葉で、「人が肉体的、精神的、社会的に満たされた状態」を指します。それが2000年代以降に広まった、「どういう人が幸せか」を探究する「サブジェクティブ・ウェルビーイング(主観的幸福)」研究の進展により、「人間の幸福」という意味で使われ始めました。一方で、日本は幸福度が低くG7中最下位で、世界では51位※1という課題を抱えており、研究の進展と相まって、その解決が社会的課題として浮上してきたのです。実際、幸せな人は創造性や生産性が高いということも分かっています。こうした背景からウェルビーイング経営や、人を幸せにする製品・サービスの創出に舵を切る企業が増えてきたのだと見ています。※1「World Happiness Report(世界幸福度報告書)」2023年版から
西沢 幸せな人ほど長寿である、という研究が複数発表され、幸福の健康価値が話題になりましたね。そんな流れの中で、人生100年時代の幸福のあり方を考えるという決意を示したのが、アサヒ飲料さんの「100年のワクワクと笑顔を。」というメッセージです。
米女 人が何かにワクワクし、笑顔になるときは、間違いなく幸せな状態だと思うんです。その輪が広がることで、世の中全体が明るくなる。そこで、私たちの商品やサービスを通じて人々が笑顔になり、ワクワクする社会をつくることで、お客様をはじめ社会のウェルビーイング実現に貢献したいと考えました。「100年のワクワクと笑顔を。」は、社会との約束であり、アサヒ飲料の使命です。私たちは「社会の新たな価値を創造し、我々の『つなげる力』で発展させ、いちばん信頼される企業となる」というビジョンの実現を目指しています。

アサヒ飲料 代表取締役社長
米女 太一氏
前野 おいしさは笑顔をつくるし、みんなで共有すればコミュニケーションも生まれます。その意味で、食や飲料は人を幸せにするものだといえます。
西沢 おいしい飲みものを社会に提供することは、まさにワクワクを広めることにつながりますね。さらに、人々をワクワクさせるものづくりは従業員の幸福度を高め、企業成長にも寄与するはずです。
米女 すでに従業員の多くは、「どんなことをすれば、お客様がワクワクしてくれるだろう」という課題に自発的に取り組んでいます。自律性を発揮し、自らの成長を実感できるのは幸せなこと。まずは私たち自身がウェルビーイングを体感して社会に貢献していこうというのが、当社の考え方です。
前野 従業員が幸せな会社は、売上高や利益率、株価が上がり、企業価値が向上する可能性が高いという研究データもあります。その意味でも、従業員がワクワクして働ける会社は成長するし、そうした企業が世に出す商品やサービスは社会を幸せにするといえるでしょう。

慶應義塾大学大学院
システムデザイン・マネジメント研究科 教授
前野 隆司氏
西沢 ワクワクを追求するアサヒ飲料さんの本気を感じられるのが、「アサヒ炭酸ラボ」です。楽しく爽やかな生活をアシストする炭酸水の力をあらゆる角度から検証されています。
米女 私たちアサヒ飲料は、炭酸飲料のリーディングカンパニーとして「炭酸」の持つ力をひもとき、社会に役立つ様々な可能性を明らかにすることで、ワクワクと笑顔を届けていきたいと考え、研究活動に取り組んでいます。

日経BP 総合研究所
メディカル・ヘルスラボ 客員研究員
西沢 邦浩
西沢 炭酸研究の活動と発信の場である「アサヒ炭酸ラボ」での取り組みについて教えていただけますか。
米女 「アサヒ炭酸ラボ」は、長年の研究活動で見えてきた「炭酸」の可能性を広くお伝えすることを目的に、2021年11月に立ち上げたWebサイトです。ここでは、「眠気を予防する」「意欲の低下を抑制」「リラックス状態を維持」「集中力を向上する」といった炭酸水の効果を分かりやすく解説しています。また、研究の取り組みにおいては外部研究機関とも協働で行い、その成果を机上で終わらせることなく、地域の健康課題の解決に役立てていきたいと考えています。




研究から明らかになった、炭酸がおよぼす効果。
仕事や生活の中で役立つ様々な効果がある
西沢 実際に、地方自治体と連携した、地域共創型の炭酸研究を進められているようですね。主な事例をいくつかご紹介いただけますか。
米女 一つは、筑波大学との共同研究をもとにした連携事例です。夏季などの暑熱環境下で、冷えた炭酸水を飲むと喉が潤されるだけでなく爽快な気分になることを、多くの方が経験されているかと思います。しかし、炭酸水の飲用が心身にどのような影響をもたらすかについては、明らかになっていないことが多々ありました。そこで当社は筑波大学と共同研究を実施し、暑熱環境下での強炭酸水の飲用が、身体にどのような影響を及ぼすのかを調査しました。その結果、暑熱環境下における強炭酸水の飲用は、水を飲用した場合よりも脳血流速度が増加し、眠気の減少、意欲および爽快感の向上という変化が見られました。
この成果をもとに、2023年11月から大分県別府市様との取り組みを開始したのです。別府市は温泉の街。温泉入浴は暑熱環境と近しい状態となります。そこで、入浴後の強炭酸水の飲用が心身の爽快感や気分の改善にどう寄与するかを検証することで、別府市民および観光客の皆さまの健康増進のお役に立てるのではないかと考え、別府市と包括連携協定を締結し、「温泉×炭酸 スッキリ生活プロジェクト」をスタートしました。

アサヒ飲料は、大分県別府市と地域の健康増進を目的とした包括連携協定を2023年11月27日に締結。強炭酸水の効果と別府市の健康・観光課題をかけ合わせた事業展開を通じて、別府市の地方創生の推進および「新湯治・ウェルネスツーリズム」構想の実現を目指す。写真は、アサヒ飲料取締役兼執行役員 研究開発本部長・安部寛氏(右)と別府市長 長野恭紘氏(左)
西沢 温泉でリラックスできる上に、炭酸水で爽快感も得られるわけですね。
米女 炭酸水でもオフィスワークなど精神的な疲労を伴うシーンで飲用すると「リラックス状態が維持」されるといったことが分かってきているので、温泉との相乗効果も期待できるかもしれません。
さらに筑波大学との共同研究では、eスポーツにおける炭酸研究の成果が出ています。こちらの研究では、強炭酸水の飲用が「おもしろさのアップ」や「判断力の維持」「空腹感上昇の抑制」「フェアプレーの促進」につながることが実証されました。




eスポーツにおける炭酸研究の成果。
強炭酸水の飲用によって、eスポーツでも様々な効果を得られることが明らかになった
西沢 eスポーツの発展にも寄与できる可能性があるということですね。
米女 はい。そこで、この研究も自治体との連携につなげています。それが神奈川県横須賀市が2023年5月に立ち上げた「Yokosuka e-Sports Partners」プロジェクトへの参画です。本プロジェクトは、横須賀市を舞台に産学民官が連携することで、スピーディーかつフレキシブルな事業展開、eスポーツを通じた新しい価値の創造やコミュニティーの形成を目指す取り組みです。横須賀市内には現在10の高校にeスポーツ部があり、アサヒ飲料では炭酸水を通じて部活動を応援するとともに、eスポーツ文化の進展に貢献したいと考えています。

横須賀市が開始した「Yokosuka e-Sports Partners」制度に賛同し、「炭酸水を活用したeスポーツ部活動応援」の取り組みに参画。写真は、三浦学苑高等学校 情報研究会の活動の様子。アサヒ飲料では今後も対象校を増やしていく予定
前野 eスポーツそのものが人をワクワクさせる楽しいジャンルですから、そこに爽快感をもたらす炭酸水との親和性は非常に高いといえます。また、炭酸水が「フェアプレー※2の促進」に寄与するという研究結果は興味深いですね。ますますウェルビーイングな効果が期待できそうです。※2 フェアプレーとは、反則プレー(ファウル数)が少ないことと定義している。

西沢 ウェルビーイング経営に注目が集まる昨今ですが、企業はこれからこのキーワードにどう取り組んでいくべきでしょうか。
前野 産業界の皆さんには、自社の製品を通してウェルビーイングを実現していくことに真剣に取り組んでいただきたいと考えています。アサヒ飲料さんのように、ワクワクを軸にした価値創造を目指す企業が増えていけば、世の中も変わっていくはずです。商品を通じて生活者がウェルビーイングについて考えたり、実践したりするきっかけも生まれます。また、「アサヒ炭酸ラボ」や地域連携による研究活動も、新しい社会価値創出のあり方として高く評価することができます。同社の取り組みは、ウェルビーイング経営に悩む多くの企業に示唆を与えてくれるのではないでしょうか。
西沢 アサヒ飲料さんは、ともすれば曖昧になりがちなウェルビーイングの本質を、研究エビデンスを背景にしつつ、分かりやすい言葉や商品で発信されています。生活者に役立つ炭酸研究を通して、ウェルビーイングに正面から取り組むアサヒ飲料さんの活動にますます注目していきたいですね。



「健康」「環境」「地域共創」の3つのマテリアリティ(重点課題領域)をビジョン達成の軸に掲げるアサヒ飲料。炭酸研究により、心身の健康や社会のウェルビーイングに貢献するとともに、地域課題の解決にも取り組んでいく
米女 私たちは炭酸飲料のリーディングカンパニーとして、「炭酸」の持つ力をひもとき、社会に役立つ様々な可能性を明らかにすることで、ワクワクと笑顔を届けていきたいと本気で考えています。アサヒ飲料では、ビジョン実現のマテリアリティとして、「健康」「環境」「地域共創」の3つを掲げていますが、「アサヒ炭酸ラボ」を起点とした研究活動は、「健康」「地域共創」をベースに新しい価値を生む重要な取り組みです。これからも炭酸研究を通じて、世の中を明るく、楽しく、ウェルビーイングにしていきたいと思っています。
西沢 今後の研究成果やそれがどんな新商品につながるのかが楽しみです。炭酸飲料愛好者の一人として、ワクワクしながら見守りたいと思います。本日はありがとうございました。
ここ10年ほどの間に、幸福感が生産性向上や健康維持に大きな影響を与えることが科学的に実証されてきた。しかし幸福感を得るための手段が高額だったり、希少だったりしては、日常的な助けにはなりにくい。その点、ワンコインほどで買えてすぐ飲める炭酸水が、意欲の維持など幸福感につながる作用をもたらすというのは吉報。20年以上炭酸水を愛飲する私自身も含め、爽快感やリセット作用を体感してきた人は多いはずだが、実際にその効果を科学的に明らかにした意義は大きい。なぜなら、あるようでない研究だったから。さらに、地域との共創を通して炭酸水研究の地平を広げようとしている点にも注目したい。身近な炭酸水をウェルビーイングの社会実装手段として選び、利用機会の拡大と価値検証を進めるアサヒ飲料。同社事例は、理念先行になりがちなウェルビーイングという課題に取り組む多くの企業人の参考になりそうだ。