Event Review/TMP CLIMATE 気候変動の本当の怖さ、迫られる企業対応とは ~クリティカルミネラル獲得に大きな影響~

「地球沸騰化」という言葉が使われるほど気候変動は現代社会の最重要な課題の一つだ。気候変動が引き起こす社会、政治、経済、安全保障に与える影響や企業に求められる対応、その先にある「鉱物/クリティカルミネラル」の課題について議論が行われた。

データから見えてきた近未来
企業のリスク対応に貢献する

2024年6月10日、気候変動によるビジネス環境の変化に対して、企業はどのように対応すべきかを議論する「気候変動の本当の怖さ、迫られる企業対応とは 〜クリティカルミネラル獲得に大きな影響〜」と題したセミナーが開催された。

ルー・マンデン氏
TMP CLIMATE, TMP Public C.I.C.
ファウンダー
ルー・マンデン

気候リスクに関する専門家であるルー・マンデン氏は、2019年に日本で気候変動対策に関する専門家集団TMP CLIMATE(以下、TMP)を創業した。

TMPは気候変動によって引き起こされる社会、政治、経済、安全保障に与える影響やリスクについて、2020年代〜30年代という近未来に焦点を当てて調査・分析を行っている。

気候データは2050年や2100年など長期予測が多いが、TMPは猛暑などの異常気象に焦点を合わせたモデルの基礎研究を行う釜山大学IBS気候物理学センター(ICCP)と共同で、既存の気候モデルを基にした気候データを開発した。

マンデン氏は「今後3年から5年、10年先の近未来に、ビジネスに影響を与える極端な異常気象が起きる可能性があるのか。それが経済・社会・政治にどう関係するかといった詳細なデータを基にした、リスク対応のソリューションを提供している」と話す。

「過去数十年にわたって続いた気候変動問題に正面から向き合わずに解決策を考えるだけの時代は終わりにすべきです。再生可能エネルギーを増大する計画があっても調達できる鉱物資源の量や地域は限られている。現実に向き合って有効な対策を取り、より良い未来につなげることに貢献していきたい」とマンデン氏は言う。

江守氏
東京大学
未来ビジョン研究センター・教授
江守 正多

基調講演を行った東京大学未来ビジョン研究センター教授の江守正多氏は、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)で第5次および第6次評価報告書の執筆もした気候変動の専門家だ。IPCCの報告書に基づき、気候危機の現状と見通しを地球規模の視野から概観し、気候変動が企業活動や社会にどのような影響を及ぼすかについて講演した。

江守氏は「地球温暖化が人間の影響であることは疑う余地がない。世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力を追求するというパリ協定の目標と比べて、現状の温室効果ガス排出量の削減ペースは全く足りていない」と指摘する。「脱炭素はしぶしぶ努力して達成できる目標ではない。脱炭素に向けた社会の大転換を起こす必要がある」と江守氏は言う。

重要鉱物の調達に潜むリスク
気候変動が影響する可能性も

ジャスティン・ムル 氏
TMP Public C.I.C.
アナリスト
ジャスティン・ムル

TMPは、とくに電気自動車(EV)用蓄電池や再生可能エネルギーの設備に必要なリチウム、コバルト、ニッケルなど「クリティカルミネラル」について調査と分析を進めている。

クリティカルミネラルは脱炭素に向けて急速に需要が高まる重要鉱物である一方、産出地が中国やアフリカ、ロシアなどに偏在するため地政学リスクも考慮する必要がある。資源を囲い込む資源ナショナリズムの動きが広がり、サプライチェーンは複雑になっている。サプライチェーンに支障が出ればクリティカルミネラルの価格が高騰したり調達が困難になったりする可能性もある。

TMPアナリストのジャスティン・ムル氏は南アフリカ共和国を拠点に鉱物採掘と生産を専門に分析を進めている。「大半の鉱山は僻地にあり、住人の多くは天然資源に依存した生活をしています。気候変動の影響を受けることで鉱山開発の期間は以前より長くなっている」と指摘する。

ゴンザロ・シルバ・アヤルザ 氏
TMP Public C.I.C
アナリスト
ゴンザロ・シルバ・アヤルザ
神保 氏
TMP CLIMATE
ディレクター
神保由美子

中南米が専門のアナリストのゴンザロ・シルバ・アヤルザ氏はチリでの採掘について説明した。チリは世界の銅の23%、リチウムは24%を産出・生産している。

EVや電子製品のバッテリーなど、いわゆるグリーン製品の生産に不可欠なリチウムはチリの1つの県から産出される。鉱山と先住民のコミュニティが併存し、様々な野生動物が生息する地域でもある。気候変動の影響で豪雨に見舞われることもあり、地域コミュニティは貧困問題を抱える。シルバ・アヤルザ氏は「TMPは鉱山会社などと協力し、気候変動に備える情報技術や財務面などで地域社会を支援している」と話す。

TMPディレクターの神保由美子氏は鉱物生産だけでなく加工でも大きなシェアを握る中国の状況について紹介した。

「中国は地政学的なリスクだけでなく気候変動リスクも大きい。とくに中国の水資源は気候変動の大きな影響を受ける可能性がある」と指摘する。

鉱物加工は洗浄などで大量の水を使用し、必要な電力の大半は水力発電で賄われている。中国では加工地の場所によっては渇水で水力発電が中断して電力不足が断続的に発生し、現地で操業する日本企業もその影響を受けてきた。

TMPは加工場のある地域ごとに気候変動でどのような影響を受けるかリスク分析を行っている。

「高リスクの地域について対策を講じる提言をするなど、将来の事業計画の検討で参考にしてもらうことを目指しています」(神保氏)

鉱物資源のリスクに対して
日本企業はどう対応すべきか

本郷 氏
三井物産戦略研究所
シニア研究フェロー
本郷 尚

日本企業は深刻になる気候変動にどのように対応するべきか。三井物産戦略研究所シニア研究フェローの本郷尚氏、SMBC日興証券チーフESGアナリスト兼サステナビリティ・リサーチ室長の浅野達氏、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)金属企画部調査課課長の原田武氏の3人がパネルディスカッションを行った。

本郷氏は「気候変動の影響の受け方は事業内容や地域によって異なる。サプライチェーンの強靱化など気候変動やリスク対策を考える際にはTMPのような気候変動分析の専門家の力を借りることも考えられるだろう。日本でも地球環境を再現したデジタルツインで将来の気象変化を想定できるようにすることも検討されている」と話した。

機関投資家に情報を提供する立場の浅野氏は「クリティカルミネラルの確保はESGの短期的・急性的な重要テーマになります。企業が重要鉱物にどのように依存し、企業価値にどのような影響を与えるか分析していく」と言う。

浅野 氏
SMBC日興証券
チーフESGアナリスト
兼サステナビリティ・リサーチ室長
浅野 達
原田 氏
エネルギー・金属鉱物資源機構
金属企画部調査課課長
原田 武

経済安全保障推進法により、国は重要物資の安定的な供給を確保するためサプライチェーン強靱化に取り組んでおり、大型補助金の制度も導入した。原田氏は「クリティカルミネラルの採掘までは探査と開発に長い期間がかかる。JOGMECは資源の安定供給のため、様々な民間支援を実施している」と話す。

気候変動がクリティカルミネラルの調達にどのような影響を及ぼすか注視することがますます重要になっている。