実は、三井物産は生成AIの登場以前から、入札書や契約文書等の書類へのAI(自然言語処理技術)活用を進めていた。従来は識別式の深層学習モデルとルールベース手法を組み合わせる方式を採用していた。しかし、本方式では、ルールベース部分の管理が非常に煩雑で、そこに多くの手間がかかっていたという。「この場合にはこのような処理を行う」というような、人間が登録するルールに基づく管理には限界がある。運用を続けるうちにルールが複雑化し、整合的なルールを維持するための工数が膨らむからだ。
そんな課題を感じていただけに、同社がルールベース部分に対し、生成AIを取り入れようと考えたのは自然なことだった。様々な候補の中から、三井物産が選んだのは生成AIサービス「Amazon Bedrock」をはじめとするアマゾン ウェブ サービス(以下AWS)の各種クラウドサービスである。AWSを選択した理由として、真野氏が挙げるのは2点である。
「第1に、AWSを扱えるエンジニアと学習教材の数の多さです。何らかの業務を委託する際、テクノロジーパートナーの選択肢も広がります。第2に、AIモデルの豊富さです。Amazon Bedrockの採用により、複数LLM(Large Language Model:大規模言語モデル)の試行錯誤を簡単に実施することができました。また、いくつかのLLMを組み合わせて使うこともできます」
入札書の読み込みや契約内容の確認・契約メモ作成業務で活用するシステムを、デジタル総合戦略部のDX人材が事業部門の担当者と議論しながら要件を定義し、協力して構築。ルールベースで処理していた部分を生成AIに置き換える、すなわち、「識別式の深層学習モデルとルールベース手法の組み合わせ」から「識別式の深層学習モデルと生成AIの組み合わせ」に切り替えることにより解析精度や対応可能な範囲が向上。2023年12月に本導入開始に至った。
「最初に鉄鋼製品事業の現場で使ってもらいました。実際にシステムを使う担当者たちと一緒に開発したこともあり、ユーザーからはすぐに良好な反応がありました。このシステムはその後、他の事業部門にも展開しています。ユーザー部門とデジタル部門が一緒になってつくることで、使いやすく優れたシステムができる。それは、多くの企業システムに言えることだと思います」(真野氏)
新たなシステムを構成するのはAWSの様々なサービスである。入札書解析システムの場合、入札書のデータをストレージサービスの「Amazon S3」にアップロードすると、自動的に解析プロセスがスタート。最終的には、Amazon Bedrockを通じて解析結果が出力される。システム構成要素のすべてはAWSのフルマネージドサービスである。
Amazon BedrockなどAWSのサービスを活用して構築した新システムは、既に大きな成果を挙げている。
「入札書解析システムの導入により、入札書の解析時間を40~80%削減することができました。また、契約メモ作成プロセスでは人的ミスが少なくなり、再確認や再入力の手間が大幅に削減される見込みも立ちました。いずれも、大きな価値創出につながっています」と真野氏は評価する(図)。冒頭で同氏が述べた“巨大なインパクト”は、既に三井物産のコア業務における大きな効果となって現れ始めているといえそうだ。