国土交通省/三井不動産/AWSが見据える脱炭素化の未来

地球沸騰化に立ち向かう「建設・不動産業界」の脱炭素化の最前線を追う

CO2削減に向けた世界的な潮流と日本の現在地

国土交通省 住宅局 参事官(建築企画担当)付 建築環境推進官 佐々木 雅也氏
国土交通省
住宅局 参事官(建築企画担当)付 建築環境推進官
佐々木 雅也
 「2050年カーボンニュートラルの実現には、我が国のエネルギー消費量の約3割を占める住宅・建築物分野の取り組みが不可欠です」と話すのは国土交通省で参事官(建築企画担当)付 建築環境推進官を務める佐々木 雅也氏だ。

 国土交通省では、改正建築物省エネ法に基づき、住宅及び小規模建築物の省エネルギー基準への適合を2025年度までに義務化する取り組みを進めている。また、2030年度以降に新築される住宅・建築物は、ZEH・ZEB水準※1の省エネルギー性能の確保を目指す意向だ。

 ただ、大切なのは、さらにその先にある。省エネ・再エネによって、どれだけGHG削減につながったのか。「建設時だけでなく、その利用時から解体まで含めてGHG削減を評価する『ライフサイクルアセスメント(LCA)』が世界の潮流になりつつあるのです」と佐々木氏は訴える。

 既に欧州委員会は加盟国に対し、新築建築物のライフサイクルGWP※2の算定・開示を義務付けることを決定。先行してフランス、オランダ、デンマークなど欧州9カ国が建設に関するCO2排出量の規制を導入済みだ。アメリカでは、連邦政府関係の建築物の調達において低炭素材の使用を促進する「バイ・クリーンイニシアチブ」を実施している。日本も「経済財政運営と改革の基本方針2024」、いわゆる骨太の方針の中でLCAの実施を定義した。LCA算定国際標準と整合性を取りながら、産官学の連携で日本の建築実態に合わせた仕組みづくりが進められている。

 非住宅・集合住宅(オフィスビル、店舗、公共施設、マンションなど)向けには、既に和製算定ツール「J-CAT」を公表した。建材・設備の使用量に対して、CO2排出原単位を乗じて算出する。しかし、CO2原単位データを公開している国産の建材・設備は限られる。国際標準と整合した信頼性のあるLCAとするためには、CO2原単位データのEPD※3対応が求められる。「EPDに対応した建材・設備のCO2原単位データを整備することが急務です」と佐々木氏は語る。

 この実現に向け、国土交通省、経済産業省、環境省、林野庁などの省庁・部局間の連携体制を確立し、LCAの普及を図るための措置や制度化に向けた検討を加速化している。その一環として推進するのが「建築GX・DX推進事業」だ(図1)。ポイントは建築BIM※4の活用にある。「BIMモデルの中に建材・設備ごとのCO2原単位データを取り込み、LCA実施を総合的に支援することを目指しています。LCAの透明性が高まり、事業者の算定作業も効率化できると考えています」と佐々木氏は主張する。
建築GX・DX推進事業の狙い
図1
建築GX・DX推進事業の狙い
BIMの中で部材の数量を集計し、CO2原単位を基にLCAを算定する。ライフサイクル全体に占めるCO2排出量の見える化が可能になる。早い段階で設計見直しに反映することで、事業者はCO2排出量削減とともにリスクも低減できる
 当面は日本建築学会の産業連関表によるCO2原単位を基本としつつ、可能なものからEPDへの置き換えを図る。「LCAの実践には情報が重要になる。多様な情報をどうつなげるかがカギを握ります。ツールの開発やEPDの活用に向けた体制整備、テクノロジーを使いこなす人材育成も欠かせないでしょう」と佐々木氏は今後の展望を述べる。
※1
ZEHは「net Zero Energy House」、ZEBは「net Zero Energy Building」の略で、エネルギー収支をゼロにする住宅・建物のこと
※2
建築物のライフサイクル全体(50年)における温室効果ガスの影響を二酸化炭素量に換算したもの(kgCO2eq/m2
※3
Environmental Product Declaration(環境製品宣言)の略。第三者製品安全認証機関の認定を受け、製品やサービスが環境パフォーマンスと持続可能な基準を満たしていることを示すもの
※4
Building Information Modelingの略。コンピュータ上に作成した主に3次元の形状情報に加え、建物の属性情報(各部位の仕様・性能、居室等の名称・用途・仕上げ、コスト情報等)などを併せ持つ建物情報モデルを構築するシステム

工事金額ベースの算定を「資材量積み上げ方式」に変更

 LCAにおける情報の重要性は業界も強く認識している。実際、国と歩調を合わせた取り組みを進める企業が増えつつある、その1社が、不動産デベロッパー大手の三井不動産だ。同社では、2021年11月に「脱炭素社会実現に向けたグループ行動計画」を策定。グループ全体のGHG排出量を2030年度までに40%削減(2019年度比)、2050年度までに実質ゼロにする目標を掲げている。

三井不動産株式会社 サステナビリティ推進部長 山本 有氏
三井不動産株式会社
サステナビリティ推進部長
山本 有
 「建設会社に削減計画書の提出を義務化し、自社内の活動が中心であるスコープ1、2だけでなく、スコープ3を含めたサプライチェーン全体での排出量削減に取り組んでいます」と三井不動産の山本 有氏は述べる。

 三井不動産のライフサイクル全体のCO2排出量は2019年度ベースで438万トン。そのうち88%がスコープ3だ。これは建設時と運用時の合計だが、建設時が全体の約半分を占める。そこで同社では、目標達成のためにはサプライチェーン全体で連携しながら、「建設時GHG排出量」を削減することが不可欠と判断。まず設計者(日建設計)と協働し「建設時GHG排出量算出マニュアル」を整備、さらに算定を行うためのツールも不動産協会とともに開発した。ポイントは「資材量積み上げ方式」を採用した点だ。

 現在の不動産業界では「排出量=総工事金額×排出原単位」の算定式が一般的だが、この方法には課題がある。物価変動や契約の状況により、工事金額が変わると排出量も変わる。工種別、資材別の排出量の内訳が把握できないため、削減計画が立てられず、サプライチェーンへの働きかけが行えない。実態とかけ離れ、本末転倒な結果になることもあるという。「例えば、低炭素素材を使って排出削減に貢献しても、金額ベースで算出すると、かえって排出量が上がってしまう。高機能素材は価格が高いからです」と山本氏は話す。

 これに対し資材量積み上げ方式は、これまで金額だけで行っていた変数にEPDを適用し「工種別・資材ごとの数量または金額」に変えた。建設時サプライチェーン全体で統一した方法で算定するため、排出原単位は日本建築学会の「建物のLCA指針」を活用。「建設時サプライチェーンにおける排出量削減ポテンシャルがどこにあるかを明確化し、効果的な削減目標を設定できます。事業者の削減努力を数値に反映でき、類似物件との差別化も可能になります」と山本氏はメリットを述べる。

 マニュアルは国際的な基準や国の施策などに伴い、適宜改正されていく。もちろん、算定ツールにもこうした変化を逐次反映させていく必要がある(図2)。部材メーカーに働きかけ、算定のもとになるEPD、その排出原単位のデータを充実させていくことも重要だ。算定精度の向上には、他社とのデータ共有など業界全体での取り組みも欠かせない。
2024年度の主な取り組み課題(2024年9月5日時点情報)
図2
2024年度の主な取り組み課題(2024年9月5日時点情報)
現行のツールには古い原単位が用いられている。3月に公開された「LCA指針」改定版をもとに、変更に伴う算定値への影響を調査。J-CATにおける原単位の動向も踏まえて判断し、原単位を最新のものに改定していく
 このようなサプライチェーン全体の連携を図る上でクラウドは有力な基盤となる。「ツールの開発や活用、その普及を図る上でも大きなポテンシャルがある。AWSをはじめとするクラウドベンダーが貢献できることは大きい」と山本氏は期待を寄せる。

世界22のリージョンで再エネ利用率100%を達成

Amazon Web Services,Inc. Infrastructure Strategic Collaborations Business Development Manager ウォン ロン チョウ氏
Amazon Web Services,Inc.
Infrastructure Strategic Collaborations Business Development Manager
ウォン ロン チョウ
 ネットゼロカーボンに貢献し、持続可能な未来をつくる──。この実現に向け、Amazonはグループを挙げて、グローバルで活動を推進している。パリ協定よりも10年早い、2040年までにネットゼロカーボンの実現を約束する「The Climate Pledge(クライメイト・プレッジ)」を発表するとともに、20億米ドルを投資して、そのためのClimate Pledge Fund(クライメイト・プレッジ・ファンド)も設立した。「この大きな目標はAmazonだけで達成できるものではありません。世界中で525社を超える署名企業とともに取り組みを進めています」とAWSのウォン ロン チョウ氏は述べる。

 ファンドを通じて、ネットゼロの達成につながる技術やサービスの開発も支援している。既にそこから革新的な技術や製品・サービスが数多く生み出されつつある。カーボンキュア・テクノロジーズはその取り組み担う企業の1つだ。リサイクルされたCO2を混合中コンクリートに注入する低炭素コンクリートを商品化した。CO2を恒久的に隔離し、コンクリート性能にも影響を与えず、混合物中のセメント含有量も削減できるという。

 もちろん、Amazon自らもサステナブルな取り組みを進めている。グローバルに展開する数千の建物において、IoT センサー、ビルマネジメントシステム、AIや機械学習を活用してデータを収集・分析。建物を最大限の効率で稼働させつつ、スコープ1から3すべてにおいて、CO2排出量と原材料消費量の削減を図っている。2023年には東京と大阪を含む22のAWSリージョンで、消費電力と同等の電力量を 100%再生可能エネルギーで確保した。

 さらに67のデータセンターを低炭素コンクリートや低炭素鋼で建設し、7万9500 CO2eトンを削減した。「炭素排出量が大きなサプライヤーに脱炭素の働きかけを行うとともに、脱炭素を推進するサプライヤーとのビジネスを優先しています」とチョウ氏は語る。

 こうした成果を支えているのが、AWSテクノロジーだ。「デジタルとデータを活用しています。だからこそ、ビジネスが成長する一方で、温室効果ガスの総排出量であるカーボンフットプリントを3%削減、カーボンインテンシティを13%低減させることができました」とチョウ氏は胸を張る。

多様なサービスで業界のサステナビリティを支援

 Amazonの例が示すようにサステナビリティの目標実現において、データ管理は不可欠な要素となる。しかし多くの企業は、社内外のデータを収集、分析する上でさまざまな課題を抱えているのが実情だ(図3)。
企業が直面するデータ管理の課題
図3
企業が直面するデータ管理の課題
サステナビリティの目標実現において、多くの企業・組織の課題の根本はデータにあることが少なくない
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 技術統括本部 エンタープライズ技術本部 サービスグループ 建設・不動産ソリューション部 ソリューションアーキテクト Sustainability Community Core Team 佐藤 賢太氏
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
技術統括本部 エンタープライズ技術本部 サービスグループ 建設・不動産ソリューション部 ソリューションアーキテクト Sustainability Community Core Team
佐藤 賢太
 AWSはこうした企業の課題を解消し、サステナブルな取り組みを支えるため、テクノロジーを進化させ、ポートフォリオを拡充させている。240を超えるAWSサービスは、建設・不動産業界のサステナビリティにも大きく貢献可能だ。

 「Guidance for Building a Sustainability Data Fabric on AWS」という統合的なデータ基盤を構築するためのソリューションガイダンスはその1つ(図4)。これは多様なデータの活用を促進し、顧客のサステナブルな活動を支援するもの。「例えば、紙帳票の情報ならAI-OCRで読み込んでデータ化し、設備データならIoTを活用して収集する。そこからカーボンフットプリントを把握し、削減のための分析を行い、データに基づいた仮説を立てて検証。その結果をダッシュボードで可視化し、うまくいったものを横展開する。そんな一連の取り組みをAWS上でトータルに実現できます」とAWSジャパンの佐藤 賢太氏は述べる。
SDFの概要
図4
SDFの概要
サイロ化された各データソースを取り込み、品質のチェックやカタログ化により利用者にセルフサービスで検索、利用申請・承認といったワークフローを提供。さらに、きめ細やかなアクセス制御を実現することで安全かつ効率的なデータ活用を後押しする。AIによる高度な分析、外部とのデータ連携、レポーティングなども容易に行える。データの価値を高める多様なアプリケーションとの連携も可能だ
 CO2だけでなく、エネルギー、水、原材料、空気の質など建物の建設及び運用時の幅広いデータを可視化・分析・報告することができるという。企画やプロトタイプの構築、技術的・ビジネス的な価値検証を一貫して伴走支援することも可能だ。

 サプライヤーからのESG関連データの収集と管理を効率化する「AWS Supply Chain Sustainability」というサービスもある。これはアナログなデータ収集・管理手法をデジタル化するソリューション。Amazonの「Global Trade and Product Compliance(GTPC)」チームは、これを活用することで、年間約3000時間の業務時間の削減を見込んでいるという。

建設・不動産業界のサプライチェーン全体の
サステナビリティ目標達成を加速する方法は

 データドリブンな活動を促進するためには、業界による包括的な支援も必要となる。サプライチェーンやライフサイクル全体をカバーする多くの企業データを集約・活用することで、知見や洞察がより深くなるからだ。

 参考にしたいのが、自動車業界のデータ共有プラットフォーム「Catena-X」である。これはドイツ政府が150億円以上を出資して構築したもので、2023年3月時点で152のパートナーが参加している。注目したいのは、サプライチェーン全体を通じて、原材料調達からリサイクルまで追跡可能とする「データのエコシステム」を実現していること。サプライチェーンの途絶や停滞に対して迅速に対応できるようになり、追跡性を利用することでサプライチェーン全体の取引の透明性・公正性も向上したという。「AWSは2023年にCatena-Xに参加し、データスペースとCatena-X向けリファレンスソリュ ーションを提供しています」と佐藤氏は語る。

 物流業界でも同様の取り組みが進んでいる。物流業者であるAmazonは初期段階のProof of Concept(概念実証)からSmart Freight Center (SFC) Exchange Networkの活動に参加し、そのデータ活用基盤はAWS上で構築した。現在は技術面の改善や参加企業の拡大を行っている。

 こうした取り組みによって得られた技術や知見は、建設・不動産業界でも有効な武器となる。「建設・不動産業界向けのデータスペースを構築することで、サプライチェーンの透明性をより高めて、業界全体の協業を後押しできるのではないかと考えています」と佐藤氏は話す。実際、AWSの利用者である三井不動産や国土交通省とも今後の議論を進めているという。

 「日本の企業のお客様から、脱炭素の取り組みについては、欧米に追いつくのが精一杯、という声をよく聞きます。しかし、例えばサプライチェーンの脱炭素化をユースケースとした業界横断のデータ共有システムなど、業界全体で協力が必要な取り組みは、世界的に進んでいる業界もあれば、まだこれから検討段階の業界もある状況です。建設・不動産業界においては、まだこれから検討段階と認識ですが、国や業界各社とともに前進することで、日本が先行して世界の脱炭素の取り組みをリードする可能性もあると考えています」と佐藤氏は力を込める。

 AWSは強みであるクラウドとデジタルのテクノロジーに、業界の知見やノウハウを掛け合わせ、今後も建設・不動産業界の発展と持続可能な未来づくりを力強く支援していく考えだ。