世界的イベント「AWS re:Invent」がDXにもたらした効果は?世界的イベント「AWS re:Invent」がDXにもたらした効果は?

100年企業のものづくりを変革する総合電機メーカーが見据えるビジネスの未来

三菱電機株式会社
執行役員
DXイノベーションセンター センター長
朝日 宣雄
2021年に創業100周年を迎えた日本を代表する総合電機メーカー、三菱電機。長年培った総合力のDXによる連携、その先の社会課題解決に向けた取り組みを加速している。そんな同社の変革を主導するデジタルイノベーションセンターの朝日 宣雄氏が、「ビジネスの未来を照らす灯台になるもの」と評価するのがアマゾン ウェブ サービス(AWS)のイベント「AWS re:Invent」だ。三菱電機のDXの現在地と、そこにAWSやre:Inventがもたらした価値について話を聞いた。

循環型 デジタル・エンジニアリング企業
への変革を目指す

――はじめに三菱電機のDX戦略の基本方針を教えてください。

朝日 三菱電機は2021年に創立100周年を迎えました。長きにわたり製造業を続けてきましたが、現在はものづくりの世界にもソフトウエアがどんどん入り込み、ハードウエアと融合した変革が起こっています。また、生成AIをはじめとする新たなデジタル技術が続々登場し、その活用の成否が競争力に直結する時代を迎えていると感じます。

 このような時代の流れを受けて、私たちが目指すのが「循環型 デジタル・エンジニアリング企業」です。製品を販売して終わりではなく、お客様の利用データなどを収集、分析・活用してアップデートしたり、新たなソリューションを生み出して提供したりします。むしろ製品を出荷してからが継続的な価値提供のスタートになる、そんな世界観です。

――この戦略を推進する上での課題とはどのようなものでしょうか。

朝日 私たち自身が変わらなければいけないということです。当社には、ものづくりのマインドセットや行動様式、つまり物理的な製品を軸とした販売モデルや、品質を追求するためのウォーターフォール型の開発プロセスが沁みついていました。しかし、これからの時代は顧客中心の考え方や、「素早く創り、改善していく」アジャイル開発などの新しいマインドセット/行動様式を学び、身に着けることで、従来と違う発想に基づくビジネス創出を実現していくことが不可欠だと考えています。

――とはいえ、100年以上の歴史を持つ企業がマインドセットや行動様式を変えるのは、大変ではないですか。

朝日 いえ、実はそれほど大変ではありません。人は常に入れ替わっています。組織が常に新陳代謝している中で、大勢が共感できるルールや仕組みを提案すれば、社員はすぐに“乗って”くれるのです。特に若い世代は敏感にこちらの思いを受け取って、賛同してくれました。

――そのような仕組みの1つが、新たに立ち上げたのがデジタル基盤「Serendie®」ということでしょうか。

朝日 その通りです。Serendie®はデータ分析のほか、異なる事業領域を横断したサービスを迅速に提供するWeb API連携などの機能で構成されています。これを利用し、多様な人財が技術力と創造力を発揮することで、社内外の技術・ノウハウを結集したデジタルサービスの実現を加速していく技術基盤となります。

 またSerendie®には、今後必要になるDXスキルセットを定義し、全従業員を対象としたDX教育の実施、技術者のリスキリング、DX人財の積極採用およびDX企業のM&Aなどによる強化を図る「人財基盤」、機敏なスクラム活動によってソリューションを創り出す「プロジェクト推進基盤」も包含しています。その活用推進に向けては、私がセンター長を務める「DXイノベーションセンター」(DIC)が核となって活動を展開しています。

デジタル基盤「Serendie®」
デジタル基盤「Serendie®
データ分析、Web API、顧客情報管理などの機能を提供するテクノロジープラットフォームのほか、共創の場である「Serendie Street」、人財基盤、プロジェクト推進基盤なども包含している

人と人の共創をうながす場
「Serendie Street」が始動

――加えて特徴的なのが、共創の場である「Serendie Street」です。この概要についても教えてください。

朝日 Serendie Streetは「人、データ、技術との偶発的な出会いから熱量が生まれ、未知なる価値を創出する実験とひらめきの共創空間」をコンセプトとした “社内特区”です。まずは横浜に「Serendie Street Yokohama」を整備し、2024年度から当社グループ約500人のDX人財やお客様、パートナーによる共創の取り組みを行っています。

 グループの既存の事業所、なかでも製作所(工場)などでは就業規則などが細かく定められており、一人ひとりの行動様式はそのルールに従わなければなりません。しかし、Serendie Streetではあえて細かいルールを定めず、誰もが基本的に自由に活動できます。既に複数のイノベーションがSerendie Streetから誕生しています。

――実際の事例をいくつか教えてください。

朝日 鉄道LMS(ライフサイクルマネジメントシステム)に蓄積されたデータを活用した電力有効活用のソリューションはその1つです。鉄道LMSとは、当社グループが納めている鉄道車両向け電機品(モータやブレーキなど)のデータを蓄積するシステムですが、このデータは多様かつ膨大な量であるため、これまで柔軟な活用ができていませんでした。そこで、Serendieのデータ分析基盤を活用して、列車が止まる際に発生する回生電力の余剰を駅間別、時間帯別に可視化し、余剰分を駅ビルなどに転用する仕組みを開発したのです。お客様との密な共創によって、わずか7カ月で一定の成果を生み出しています。

 もう1つは熱関連のトータルソリューションです。お客様の課題に応じたコンサルティングから設備ごとの熱システム設計、電化に寄与する給湯・産業冷熱機器の提供、電力と熱のエネルギーの効率的な運用支援までをワンストップで実現します。コスト削減や脱炭素化に貢献するこのソリューションは、既に多くのお客様から高評価をいただいています。私も、このソリューションは三菱電機グループの新たな強みになるものだと期待しています。

世界中から集まった参加者の
オープンな姿勢に驚かされた

――DXの取り組みを進める過程では、様々な情報を収集されたと思います。例えば、朝日様は2023年に初めて、AWSの世界的イベントである「AWS re:Invent」に参加されたそうですね。現場の印象を教えてください。

朝日 世界中から約5万人が集まる規模の大きさもさることながら、特に驚かされたのは参加者のオープンな姿勢です。自社の強みや独自技術など、本来は秘密にすべきことも99%オープンにしてしまっているのでは、とこちらが心配になるほどでしたが、偶然出会った参加者たちとの会話からは多くの気付きを得られました。

――AWSの講演や発表の中に、目を引くものはありましたか。

朝日 注目したのは、やはり生成AI技術に関する発表です。2023年には「Amazon Bedrock」に関する多くの講演がありました。また、基調講演で語られた「LLM(大規模言語モデル)は今後、マルチベンダー/マルチエージェントで組み合わせる時代になる」というAWSの見解には、個人的にも共感しました。

 加えて、AWSの思想や考え方の根幹にある顧客志向もイベントの端々から感じ取ることができました。お客様を起点にすべてを考える。この点は、私たち三菱電機グループと共通する部分が大きいと感じています。

re:Invent参加メンバーが
社内AWSコミュニティを立ち上げ

――re:Inventでの体験は、三菱電機グループのDXにどのような価値をもたらしたのでしょうか。

朝日 2023年のre:Inventには私のほかに約40名が参加したのですが、帰国後、参加メンバーが中心となって社内AWSコミュニティ「MAWS(マウス)」を立ち上げました。既にメンバー数は350人以上に達しており、現在も規模を拡大しながら積極的に活動を展開しています。

 DICとしてもDX人財の育成に向けた教育や啓蒙活動などを行っていますが、どうしても人手が足りないことがあります。そんなとき、MAWSのメンバーが自発的に活動をサポートしてくれるので、とてもありがたいですね。

 2024年12月に開催された今年のre:Inventには、MAWSが中心になって社内から参加者を募り、約30名が参加しました。2023年に私と一緒に行ったメンバーが“隊長”となって、旗振り役を務めました。技術にかかわる知識はもちろんですが、オープンイノベーションを加速するムードやAWSが大切にする顧客志向の考え方など、様々なものをre:Inventの現場から社員が持ち帰ってくれたことと思います。それらが、三菱電機の未来に新しい価値をもたらしてくれるのではないでしょうか。

――今後も一層の変革に向けて、取り組みを加速していくことと思います。三菱電機グループのDXの今後の展望をお聞かせください。

朝日 横浜での成功を受け、Serendie Streetの海外拠点をつくる予定です。米国、欧州、東南アジアなど、既に複数の国や地域で検討・調整を進めています。その上で、2030年までにグローバル合計200程度のDX成功事例を生み出したいですね。直近の歩留まりから逆算すると、約5年で1000以上のトライアルを行うことが必要な計算になりますが、拠点を増やせば十分実現可能だと私は考えています。それに向け、人財育成のワークショップやデータ活用支援など、AWSによる支援にも大いに期待しています。

――最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

朝日 最近、お客様と話していて感じるのは、「海外の経営者は本当によくデジタルを知っている」ということです。だからこそ、時代の動きを先読みした判断を行うことができるのでしょう。

 一方、日本企業にはデジタルに詳しい経営層がまだ多くありません。re:Inventのような場に参加し、世界中のエンジニアや経営者と会い、最新のテクノロジーのダイナミズムを肌身で感じることで、きっと大きな気付きが得られると思います。その意味で、re:Inventは、私にとってビジネスの明日を照らしてくれる灯台のようなイベントだと感じています。
進化し続けるAWSの現在地
「AWS re:Invent 2024」
今年も「AWS re:Invent 2024」が12月2日~6日にかけて米ラスベガスで開催された。本カンファレンスでは合計1900以上のセッションが提供され、市内全域をフィールドとして展開。その規模の大きさを反映し、現地参加者数は昨年の5万人から6万人へと拡大した一大イベントとなった。 中でも多くの参加者が注目したのが、2024 年6月に AWS のCEOに就任した Matt Garman氏が登壇するキーノートだ。キーノートでは毎年膨大なサービスのリリース/アップデートが発表されるため、ここを押さえることが、この先のAWSの進化を見据えるよい機会になる。

Garman氏は、AWSのコアとなるコンピュート、ストレージ、データベースサービスの強化を説明するとともにAI (Inference = 推論) を新たなビルディングブロックとして位置づけ、その活用に向けた取り組みを披露した。
特に注目を集めたのが、Apple社のゲスト登壇だった。Apple ML&AIシニアディレクターのベノワ・デュパン氏は、iPhoneやMacなどのハードウェア、サービスの開発においてAWSが独自開発のチップであるGraviton、Inferentiaを活用し、40%の効率性向上を実現したと説明。さらに、AWSの最新AIチップ「Trainium」を使ったトレーニングでは、50%の開発効率性向上を達成したと語った。
また、AmazonのCEOであるアンディ・ジャシー氏も登壇し、同社が内製で開発した新しい生成 AI の基盤モデル「Amazon Nova」を発表。テキスト対応の「Micro」、マルチモーダル対応の「Lite」「Pro」、カスタムモデル向けの「Premier」の4つのバリエーションが用意されており、性能とコストパフォーマンスに優れるとアピールした。
AWS re:Invent 2024の基調講演では、AIを新たな柱として位置づけ、生成AIを含むAIサービスの強化に注力する姿勢が印象的だった。コンピュート、ストレージ、データベースといった従来のビルディングブロックに加え、AIが次世代のコアとなることを示唆した内容となった。

キーノート以外でも多数の新サービスやクラウドの活用法に関する講演が行われたほか、トレーニングやハンズオンラボ、DJ・バンドが出演するアフターパーティまで、参加者は思い思いの場所で5日間を過ごした。現地での出会いが新たなビジネスアイデアにつながる。そんなケースも多いようだ。

日本発のパッケージツアーが旅行会社から提供されている。AWSが起こすイノベーション、そして世界中のエンジニアの“熱”を体感したいなら、ぜひ一度現地に足を運んでもらいたい。