
世界の喫煙者は約10億人。その11.5%が、非燃焼式のスモークレスな代替製品の利用者だという。
その背景には「たばこハームリダクション」という考え方の浸透がある。
その考え方と世界、日本の現状を、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(以下BAT)で
リサーチ&サイエンスディレクターを務めるジェームズ・マーフィー氏に聞いた。

日本アルコール・アディクション
医学会学術総会で講演する
ジェームズ・マーフィー氏
2024年9月20日、マーフィー氏は「第59回日本アルコール・アディクション医学会学術総会」で、「たばこハームリダクションのためのスモークレス製品の科学的評価フレームワーク」と題した講演を行った。
そこでは「たばこハームリダクション(以下THR)とは燃焼式たばこによるリスクを認識し、喫煙にともなう健康への影響を最小限に抑えることを目的とした公衆衛生施策であり、たばこを吸い続けることを選択する喫煙者に対して、リスク低減の可能性を秘めた代替製品への切り替えを促すものだ」と述べていた。
インタビューではさらに、「THRは、紙巻たばこユーザーにとって、加熱式たばこやベイプと呼ばれる電子たばこ、ニコチンパウチなどのオーラルたばこといった代替製品にチェンジする機会」なのだと語る。
加熱式たばこが日本で販売され始めて10年。現在では、市場における加熱式たばこの割合は、44%を占めるほどになっている。20年前、奈良先端科学技術大学院大学に学んだこともあるマーフィー氏は、加熱式たばこは日本人にフィットしているという。
「モダンなデバイス、そして非燃焼だから灰も煙も出ないため衛生的で他人に迷惑をかけない。これはイノベーション好きで、きれい好き、他人への配慮を重んじるという日本人の文化的要素に合致しているのだと思います」
加熱式たばこの特性が、日本の消費者の製品移行の原動力となった。加えて、BATジャパンは、消費者が十分な情報を得た上で切り替えを決断できるよう、自社製品に関する信頼性の高い科学的根拠とリスク低減の可能性について伝えることが極めて重要であると考えている。
「BATでは科学的フレームワークに基づく研究を行い、排出、曝露、リスクという3つの観点から様々な検証を実施し、2015年から、透明性をもった形で公表しています」とマーフィー氏。
製品から排出されるエアロゾルがどういうもので、紙巻たばこと比べてどの程度有害性があるのかを調査。また、曝露に関しては臨床試験という形で、紙巻たばこを続けた人、加熱式たばこにスイッチした人、禁煙した人という3つの対象群で検証。加熱式たばこにスイッチした人の有害性レベルが禁煙した人と同じぐらいにまで低減されているという結果を得た。リスクについては、いくつかのバイオマーカーを基に、加熱式ユーザーと禁煙者のリスクマーカーを比較。最後にモデリングを行い、加熱式の商品を市場投入した場合、長期的に人々の寿命にどのような影響をもたらすか、ということを徹底的に調べあげたという。
「もちろん加熱式だけではなく、べイプやオーラルたばこについても調査しました。その成果を全部で265本の論文にまとめ、さらに外部機関が発表しているエビデンス、614本のレポートや論文などと相互参照し、信頼できるデータを構築しました。そして、それらスモークレス製品に関するエビデンスをまとめたOmniという書籍を9月に発行しました。これは私たちが今まで集めてきた科学的内容をマニフェスト化しているようなものです。公衆衛生政策の中心にTHRという考えが入らなければならないことを示しているものだと考えます」とマーフィー氏は胸を張る。
こうした科学的裏付けに支えられたTHR。世界ではどのように捉えられているのだろうか。
スウェーデンはTHRの先進国で、政府が紙巻きたばこの代替製品(スヌース)を支援している。結果、直近の紙巻たばこの喫煙率は過去15年間で約3分の1(5.6%)に。たばこに関連する疾患罹患率と死亡率の割合がEUで最も低い国だという。
イギリスでは、2015年に初めて「べイプ商品は紙巻たばこに比べて95%ほど害が少ないと考えられる」と英国公衆衛生庁(PHE)が発表。英国の国民保健サービス(NHS)も100万人の喫煙者に対して、紙巻からべイプ製品への切り替えを奨励する取り組みを始めた。紙巻たばこの喫煙率は13%まで下降している。
ニュージーランドは、政府のべイプへの切り替え推奨によって喫煙率は6.8%へ。さらに2024年には加熱式たばこの税率を50%引き下げることを発表しており、紙巻きたばこからの移行を後押ししている。
アメリカでもべイプ製品の伸長により、紙巻きたばこの喫煙率は11%まで下がり、前述の各国同様、過去最低レベルだ。
「これらの国々がTHRの考え方を受入れたことが、このような良い結果として表れてきているのだと思います」とマーフィー氏はいう。
日本では喫煙率に加熱式たばこも含まれるが、年々下がっており、直近で14.8%。現在、加熱式たばこは紙巻たばこより税負担が若干少ないが、これを同等にしたうえで増税することも議論されている。そこにはTHRが公衆衛生施策であるという視点が希薄に見える。
「グローバルな観点から言えば、紙巻たばこを吸っている人たちが、いわゆる煙の出ないスモークレスな商品、加熱式の商品を選べるという規制・制度を設けることが重要ではないかと思います」と、マーフィー氏からそんな意見をいただいた。
日本は世界を鑑み、THRという考え方を正しく理解して推進していく必要がありそうだ。