電通グループが世界規模で取り組むサステナビリティ 電通グループが世界規模で取り組むサステナビリティ
『「人」「地球」に加えて「イノベーション」を重点領域としているのが、電通グループのこだわりです。』電通グループ グローバル・チーフ・サステナビリティ・オフィサー 北風 祐子 氏 『「人」「地球」に加えて「イノベーション」を重点領域としているのが、電通グループのこだわりです。』電通グループ グローバル・チーフ・サステナビリティ・オフィサー 北風 祐子 氏
『10年先、20年先のことも考える仕事。「未来の誰かの役に立ちたい」と思って取り組んでいます。』 『10年先、20年先のことも考える仕事。「未来の誰かの役に立ちたい」と思って取り組んでいます。』

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電通グループは、世界のサステナビリティに自社しかできない方法で貢献しようとしている。
例えば、イベントやキャンペーン、事業推進のために
多数の企業と生活者をつないできたノウハウを活かして、企業、政府、市民社会をつなぐハブとなる。
また、理想の未来像を描き、アイデアでイノベーションを起こす活動にも貢献する。
グローバル・チーフ・サステナビリティ・オフィサーの北風祐子氏に、
電通グループのサステナビリティ活動について訊いた。

聞き手 日経ビジネス発行人 松井健

経験から生まれた目標
「全員が活躍できる
職場にしたい」

北風氏は入社以来、「戦略プランナー」の仕事を長く続けてきた。顧客の事業を支援し、戦略の立案から開発、マーケティング、メディアコミュニケーション、社会実装まで伴走した。

2児の母として、仕事、育児、家事に奔走していたさなか、7年前に乳がんの告知を受ける。身体と気持ちが思う通りにならない苦しみを体験した。幸いにも早期発見が功を奏し、入院と手術を経て復帰した。

「死と向き合う日々から戻ると、世界が全く違って見えました」(北風氏)。特に「働きたいのに働けない人たち」に、目が向くようになった。持病や家族の介護、育児と仕事の両立、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)による差別に苦しむ人は、想像以上に多いのではと感じた。

電通グループ
グローバル・チーフ・サステナビリティ・オフィサー

北風 祐子

北風氏は復帰後、そういった人たちをサポートする活動に取り組んだ。がん罹患経験者によるピアサポートの場「ラベンダーカフェ」を自ら企画し、実現。また、アンコンシャスバイアスが人間関係を歪めている状況を改善するため、「バイバイバイアス研修」を立ち上げて、全社規模で実施した。

イノベーションこそ
電通グループの力
サステナビリティ領域でも発揮

電通グループには、世界中に約7万1000人の従業員がいる。うち4万8000人は海外のメンバーだ。北風氏は電通グループとしての共通戦略「2030サステナビリティ戦略」の原案を練り、事業、ガバナンス、法務、人事、広報、コーポレートカルチャー担当役員などで構成され、自らが議長を務める「グループサステナビリティ委員会」の議論を経て策定した。

戦略は「困難な社会課題を解決する未来のアイデアを生み出していく」に定めた。重点領域に「人」「地球」「イノベーション」の3つを設定し、5つの重要課題を特定している。

「人」に関する重要課題は「企業倫理とコンプライアンス/データセキュリティ」「DEI(多様性・公平性・包摂性)」「人的資本の開発」の3つだ。「地球」に関わる重要課題は「気候変動へのアクション」。「イノベーション」の重要課題は「イノベーションに導くリーダーシップ」と決めた。

電通グループ
2030サステナビリティ戦略

特に「イノベーション」には、電通グループならではの視点が表れている。従来の延長線で考えていては、サステナビリティを地球規模で実現することはできない。理想の未来像を描き、未知のアイデアを生み出すイノベーションが不可欠だ。

「イノベーションを創出するには、企業、政府、市民社会の三者をつなぐハブとしての機能が欠かせません。大きなプロジェクトを実現するため、業界や業種の垣根を越えて人と人、企業と組織をつないできた電通グループならではの役割だと考えます」(北風氏)

これを見て、欧州のあるメンバーが「こんな戦略は見たことがない。イノベーションは目的ではなく手段ではないのか」と述べた。北風氏は、多くの企業戦略を作ってきた経験から「見たことがあるとしたら、それは戦略とは呼べません」と説明した。イノベーションは何かの手段と言えるほど容易なものではない。

北風氏は、サステナビリティに関して世界中の人の意見を聞く機会が増えたと言う。「COP28(第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議)」の視察にも参加している。「世界の社会課題の深刻さには、想像を超えるものがあります。日本の常識で考えていては、理解できません」(北風氏)。

英国のあるメンバーが、電通グループが支援しているマラリア撲滅運動の広告に、無料で協力してくれる日本のメディアを探してほしいと依頼してきた。しかし、日本ではマラリアへの関心は低い。無料広告は難しいだろうと考えたが、その後、猛省したという。「マラリアとデング熱が、世界的には毎年どれだけの人命を奪っているか。その事実を知り、自分の狭い常識で無理だと決めつけるようなことはあってはならないと気づきました」(北風氏)。

気候変動やグリーンウオッシュへの取り組みは、欧米の方が進んでいる。世界の動きをいち早く把握できることは、電通グループの大きな強みだと話す。

多様な活動の原動力
「未来の誰かの役に立ちたい」

サステナビリティに対する投資家の目が、厳しくなっている。北風氏は投資家との面談を実施する中で、実感していることがある。「戦略を行動に移せているか。経営陣が課題を自分事化し、PDCAサイクルを回せているかが問われています」(北風氏)。

2023年10月には、マーケティングコミュニケーション活動に伴い排出される温室効果ガスの可視化と削減を目的に、マーケティング領域の脱炭素化イニシアティブ「Decarbonization Initiative for Marketing」を立ち上げた。自社での取り組みだけでなく、業界レベルでのルールの統一を主導している。

そういった取り組みが認められ、2023年12月には、世界的なESG(環境・社会・ガバナンス)投資指標である「ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・ワールド・インデックス」の構成銘柄に電通グループが選ばれた。「励みになります。ESGの取り組み実績を積み上げてきた世界中の従業員、レポーティングの精度を上げてきたチームメンバーの努力が評価されたと感じます」(北風氏)。

今の仕事は、頑張れば10~20年後の未来に誰かの役に立てるかもしれない。「自分が生きている間にできることは限られています。それでも少しでも良き未来につなげたい。当社グループの従業員には、最高の“あとはよろしく”リレーを続けていこう、と話しています。今の役割に感謝しながら、励んでいきます」と語った。

取材を終えて

電通グループは、自分たちにしかできないユニークな方法で世界のサステナビリティに貢献しようとしている。北風氏の言葉には、自身の経験に裏打ちされたリアリティがある。「イノベーション」を重要課題に挙げた点も、その表れだ。人と人をつないでイノベーションを起こしてきた電通グループが、その強みを生かして、どのようなサステナビリティのアクションを打ち出していくのか。今後もその動向に注目したい。

日経ビジネス発行人松井 健