データ&テクノロジーでマーケティング変革を起こすために 電通グループの挑戦 データ&テクノロジーでマーケティング変革を起こすために 電通グループの挑戦
『「マーケティングモデル」と「データ基盤」を一対で進化させてきました。』 『「マーケティングモデル」と「データ基盤」を一対で進化させてきました。』
『AIの活用にも早くから取り組んできました。人とAIが協力し、お互いを高め合う世界を目指しています。』 『AIの活用にも早くから取り組んできました。人とAIが協力し、お互いを高め合う世界を目指しています。』

【dentsu Japanの変革 第7回】顧客企業の成長に伴走するマーケティング変革パートナーへ 電通グループが描くデータ戦略とAI活用の未来 【dentsu Japanの変革 第7回】顧客企業の成長に伴走するマーケティング変革パートナーへ 電通グループが描くデータ戦略とAI活用の未来

データがマーケティングの重要な要素へと進化し、人工知能(AI)の活用が企業競争力を左右するとまで言われている。一方で、個人情報保護の意識が高まり、Cookieやセキュアなデータ活用の在り方が大きな課題となっている。デジタル時代のマーケティングは、どうあるべきなのか。国内電通グループ約150社で構成されるdentsu Japanの、データ&テクノロジー プレジデントである山口修治氏に、同社のデータ戦略とAIの考え方、激しい変化の中で方向性を見失わないための秘訣などについて訊いた。

聞き手 日経ビジネス発行人 松井健

マーケティングに資する
データ基盤の在り方を追求

山口氏は2015年ごろ、あるグローバル企業の顧客から「デジタル時代のマーケティングパートナーとして提案をしてほしい」と頼まれた。「世界中のエージェンシーから提案が来ているのに、電通には何もないのか」と問われ、山口氏は困ってしまった。

すぐに東京、ニューヨーク、シンガポールなどにいるグループのメンバーにコンタクトし、試行錯誤の末に、デジタル時代のマーケティング戦略を提案。これを機に、dentsu Japanのデジタル戦略に関わることになった。

「私たちが着目したのは、データです。マーケティング変革を支えるデータ基盤の在り方を徹底的に考えました」(山口氏)

dentsu Japan データ&テクノロジー プレジデント/事業会社担当

山口 修治

2016年ごろから、独自のデータ基盤「People Driven DMP」の開発や、顧客企業のデータ基盤(Customer Data Platform)構築支援を開始した。しかし、顧客が保有するデータだけでマーケティングを実践することの限界も早い段階で感じていた。新規顧客、見込み顧客、買い回り顧客等のデータが十分ではない上に、生活者の深い洞察にも十分ではないからだ。

そこで、すぐに「データクリーンルーム」の取り組みに着手した。データクリーンルームとは、生活者個人を特定することなく、データの統合や分析ができるクラウド環境のことだ。そのころ、生活者の間で個人情報保護の意識が急速に高まっていた。そのため、Cookieに依存しないマーケティングの基盤を、できるだけ早く準備する必要があった。

「データクリーンルームの価値と将来性を知る20~30代の若手社員たちから、強く提案されました。デジタル化に出遅れたと思っていた電通にも、自身で次なるマーケティングを探求し、将来へのビジョンを持つ若手がいたのです」(山口氏)

多くの若手社員たちとグローバルプラットフォーム企業の本社を訪問し、片言の英語で構想をプレゼンテーションした。

反応は、意外なほど良かった。「日本企業が時代を先取りする提案を持ってきた」と話題になり、複数のプラットフォーム事業者が開発パートナーとして迎えてくれた。

その後、まだデータクリーンルームという概念を持っていなかった日本のプラットフォーム企業やメディアにも、データクリーンルームを提案。複数のデータクリーンルームを一元管理できる電通グループの独自システム「TOBIRAS」も開発した。結果、これら新しいデータ基盤や、それを駆使する専門人財を強みとした次世代マーケティングモデル「Marketing For Growth」の提唱へとつながっていった。

「『マーケティングモデル』と『データ基盤』を一対で進化させてきていることが、dentsu Japanの戦略であり、強みです」(山口氏)。今後は日本以外の海外リージョンにも、このノウハウを展開していくという。

顧客企業のマーケティング変革のためにdentsu Japanが提供する価値。
マーケティングモデルとデータ基盤を一対で進化させてきた

ビジョンは「AI For Growth」
人とAIが互いに高め合う

「AIの活用にも早くから取り組んできましたが、本格的なビジネス拡張では苦戦していました」(山口氏)

dentsu Japanは2018年に、東京とモンゴルに多くのAIエンジニアを抱えるデータアーティスト社を傘下に迎え入れていた。同社は優れたAIソリューションを持っていたが、いわゆる過去のAIブームの時代には、PoC(概念実証)で終わることも少なくなかった。

そこで、2023年に同社と電通デジタルを合併。営業機能を電通デジタルに一本化し、エンジニアには開発に専念してもらうことで、全体の効率をアップさせた。データアーティストの参画後、電通デジタルを始めdentsu Japanは、統合マーケティングソリューションブランド「∞AI」を中心に、AI人財育成サービスや事業開発支援、広告コピー生成ツールなど、数々のAIソリューションを矢継ぎ早にリリースしている。

そのような組織変革の一方で2024年8月、dentsu Japanは独自のAI戦略を新ビジョン「AI For Growth」として発表した。「人間の知」と「AIの知」を掛け合わせ、顧客企業や社会の成長に貢献していくというコンセプトだ。

「人のノウハウをAIに導入し、進化したAIから再び人が学ぶ。人とAIが協力し、お互いを高め合う世界を目指しています」(山口氏)

このビジョンの下で、AI活用のガイドライン整備やガバナンスの強化、AI関連の研究、開発、人財の育成などを進めている。

「私たちには、100年以上の歴史の中で培ってきた知恵とノウハウがあります。AIという新たなパートナーを得て、人間の知恵とノウハウは、ますます貴重で重要なものになっていくでしょう」(山口氏)

生成AIの活用が急速に進んでいる。しかし、既存のAIサービスを使っているだけでは、誰もが同じことしかできない。そこにユニークな価値を加えていく源泉となるのが、dentsu Japanの社員が培ってきた知恵や経験、ノウハウだと語る。

「鳥の目」の視点を常に維持
時代の方向性をチェック

今後、データ&テクノロジーの進化はさらに加速する。様々な技術やコンセプトが、生まれては消えていくだろう。時代の方向性を見失わず、無駄な投資を避けるためには何が必要になるのか。山口氏は「鳥の目の視点を忘れないことだと思います」と述べる。

デジタル領域をリードする中で、山口氏は常々感じてきたことがある。一生懸命に専門性を高めれば高めるほど、時として視野が狭くなってしまうことだ。世の中のブームがどうであれ、常に鳥の目で全体を眺め、大きな方向性を見失わないようにする必要がある。顧客企業のマーケティング変革に資するデータ&テクノロジー戦略。その基本を見据えての進化が、これからも続く。

取材を終えて

山口氏は大阪で営業をしていたころ、顧客からデジタル時代のマーケティングパートナーになることを求められた。顧客はもうデジタルを見据えているのに、戦略を持たない。強い危機感を覚え、上司を通じて東京本社に何度も提案したという。「それほど言うなら、自身でやってみろ」という形で東京に呼ばれ、dentsu Japanのデジタル分野を率いることになった。そこが出発点だからこそ、dentsu Japanのデジタル戦略は常に顧客志向であり、ニーズを外さない着実な進化を遂げていると感じる。

日経ビジネス発行人松井 健