
電通グループは、広義の意味でのクリエイティビティをBX(ビジネストランスフォーメーション)に投入し、
他社と一線を画すユニークなコンサルティングスタイルで顧客企業の課題解決に向き合ってきた。
「戦略的なロジック」と「創造的なマジック」を掛け合わせることにより、
「人が動く変革」を成し遂げることができるという。
最前線でBXに挑む戦略プランナーとクリエイターに、
日経ビジネス発行人の松井健がデュオで取り組むことの効果を訊いた。
聞き手 日経ビジネス発行人 松井健

多くの企業が、コンサルタントの力を活用し、事業成長を目指して変革に取り組んでいるが、戦略までは描けても実現や継続につながらないケースがよく見られる。袋小路に入らないためには、構想から実装に至るまでの全フェーズにおいて「人が動く」ことが必要だ。戦略プランナーとクリエイターがチームとなり、戦略立てから実行まで伴走する電通グループの「BX」には、この「人の心を動かし、行動を変える」DNAが宿っている。

BXプロセスのすべてのフェーズで、
戦略プランナーとクリエイターが協業し
コンサルティングを行う
——戦略プランナーとクリエイターが一体となったBXコンサルのスタイルは、以前からあった手法なのでしょうか。
菊池 はい。広告・マーケティング領域でも組織横断的に活動してきた電通グループにとって、一気通貫のスタイルはごく自然なものでした。ただ、これまではキャンペーンの企画実施や広告制作などアウトプットに近いところでの協業が主でした。近頃、私たちが顧客企業の成長を真剣に考える中で、事業そのものの在り方や企業としての変革なども支援させていただく機会が増え、グループ全体でBX支援のさらなる強化に大きく舵を切りました。このような、会社全体の変化にも後押しされながら、BX支援の領域において、これまで以上に戦略プランナーとクリエイターとの協業も進んできています。このようなチーミングを私たちは「BX DUO」と呼んでいます。
例えば、BXでも「実際に人が動いてくれるか?」というのがとても重要になってくる側面がたくさんあります。どんなによくできた戦略でも、その実現に向けてたくさんの人が動いてくれないと、絶対に実現されません。そういった時に、普段から物事の本質を整理して、15秒のCMや、限られた文字数のコピーにまとめるなど、多くの生活者の心を動かすためのアウトプットと向き合い続けてきたクリエイターの発想やアイデアは、すごく大きな力になります。そうした経験と背景から、戦略プランナー×クリエイターのスキームである「BX DUO」は、BXという領域においても非常に効果的なものであると感じています。
私たちがBX領域をサポートする意味としても、戦略立案にとどまるのではなく、実際に人が動き、変革を実現できるまで伴走することがとても大切だと考えています。戦略や解決策にも、心が動き腹落ちする、イメージが指を通して伝わってくるような「しっかりとした手触り」を感じていただけるようにする。そのために、クリエイターの力も活かしながら私たちらしいBX支援を進めていきます。

電通
第1ビジネス・トランスフォーメーション局
プランナー
菊池 創造 氏
坂本 「BX DUO」では、はじめの課題抽出から目標設定、アイデア発想に至るまでを戦略プランナーとクリエイターが一緒に行うので、戦略とクリエイティブアイデアのどちらかに寄ることなく一本筋の通った提案が可能です。異なる視点でのアプローチが掛け合わされるため、アウトプットも客観的かつ多面的な視点に基づいたものになります。私たち自身も、常にお互いに新鮮な気づきを得ることができ、相互反応を楽しみながらプロジェクトを進行しています。
——クリエイターの経験やスキルをBX領域でどのように活かせると考えていますか。
長谷川 かつて先輩に「良いコピーライターとは良い耳を持っていること」という言葉をいただきました。言葉を書くことに優れているだけではなく、巧みなインタビュアーであれというアドバイスです。そのため私は以前から、商品やサービスに対する世の中の声を全方位的にリサーチして「世の中の人たちはどう感じているのか」「どんな言葉を使えば心を動かせるのか」を念頭に置いてきました。
その経験は、企業のミッション・ビジョン・バリュー(MVV)を書くときにも活きています。「BX DUO」のチームでは、経営課題や会社の将来像を経営陣だけに聞くのではなく、全社の様々な職種・性年代の社員の方にヒアリングすることを意識しています。そうすると経営層、マネジメント層、現場社員の方々の考え方の違いが浮かび上がってきます。それらを包括して企業のMVVを言葉にすることで、全社が共感できる言葉をつくれるケースが多いです。
坂本 電通グループのBXはあらかじめ決まったフレームに沿って進めるのではなく、基本的にはすべてオーダーメイドでプランニングします。ひとつひとつ異なる課題や条件に対して、私自身も常に新しい答えで返すことを心がけています。これまで広告コミュニケーションの企画・制作を重ねてきたため、新たに創造することに抵抗がなく、むしろやりがいを感じるカルチャーが背景にあるからかもしれません。また、自分たちの提案が誤った方向に進んでいたと気付いたとき、別のもっといいアイデアにたどり着いたときは、すぐに舵を切り替える早さを備えているのも特徴です。

電通
BXクリエイティブ・センター
コピーライター クリエーティブ・プランナー
坂本 弥光 氏
——一般的なコンサルティングファームは戦略と実行を分担して進めることが多いですが、最初から最後まで同じメンバーが伴走する点が強みなのですね。
池田 おっしゃる通りです。私たちは、いかに「絵に描いた餅」に陥らないようにするか、という点に執着します。きれいな言葉を並べても、現場の人たちにとっては現実感が薄い。現場でリアリティをもって駆動するものにしなくてはなりません。電通グループには課題を多面的に理解しようと、その本質を掘る探求心旺盛なメンバーが揃っているため、いただいたお題を良い意味で越境し、本質をつかむことを大切にしています。こうしたステップを重ね、積むことで、手触りがあり、多方面の人々が「信じる」ことができる内容へ落とし込むことを心がけています。

「BX DUO」では戦略プランナーとクリエイターが共通して「人や組織が動くこと」を強く意識している。ときにはビジュアルを駆使して理解を深めてもらい、全社員が腹落ちするために伴走する姿勢は、コミュニケーションを基盤とする電通グループだからこそ生まれたアプローチと言えよう。
——この仕事をする中で最も重視していること、意識していることを教えてください。
菊池 顧客企業の方々に「企画する力やモチベーションを受け渡せること」は常に意識しています。なぜなら、どこまで行ってもBXの主役は、顧客企業の方々だと思うからです。ただその場で自分たちの提案を受け入れてもらうのではなく、顧客企業の方々がその先に自分たちで新しいものを生み出していくきっかけをつくれるか?という視点を、とても大切にしています。変革コンセプトを提示する際も言葉の良さだけにフォーカスするのではなく、「この先、自分たちが使えるかどうかの判断がほしい」とお願いし、企業の中で育っていくかどうかを常に意識して取り組んでいます。
もちろん業界や規模によって企業ごとの慣習やクセがあるのは確かです。もし具体的なアイデアを出す習慣があまりない顧客企業であれば、自分たちの持っているものと発想の視点を掛け算することでアイデアを出すきっかけになるようなフレームワークを一緒に設計します。逆にゴールとなるような言葉さえあればそこに向けて道筋を自分たちでどんどん発想できる状態の顧客企業であれば、トップを含む全社員の創造力が働き、自分の言葉で語れるコンセプトかどうかを見極めていきます。このように柔軟に対応できるのが電通グループの強みと考えています。
池田 難しい課題や、与件まで落ち切っていないケースも多く、戦略プランナー、クリエイターともに「どのようにプロジェクトに関わる全員の認識をそろえるか」という点にこだわっています。「事業貢献」という言葉1つとっても、経営層と現場では当然、定義が違うものです。異なる人々が共通の目標に向かいやすくするために、プロトコルを合わせる作業を意識的に行います。絵やチャートなどを使って非言語的に伝えることがかなり多いです。ビジュアルで提案することで、ビフォーアフターをすんなりと理解していただけるケースも多くあります。

電通
第1ビジネス・トランスフォーメーション局
ビジネス・デザイナー
池田 真梨子 氏
長谷川 私は「社員の方々が長く愛着を持てる言葉やアイデアになるかどうか」をすごく意識しています。そのために、あえて余白がある状態の言葉やアイデアをご提案し、そのラフ案をもとに、顧客企業の方々から意見をいただき、言葉やアイデアをチューニングしていきます。それらの作業は一堂に集まって忌憚のない意見を交わすセッションスタイルで進行します。社員の方々の生の声が反映されることで「私のアイデアが活かされた」「私の視点が入った」と実感でき、愛着が生まれ、自分ごととして捉えていただきやすくなります。

電通
BXクリエイティブ・センター
コミュニケーションプランナー
コピーライター
長谷川 輝波 氏
坂本 電通グループのクリエイターがBXのプロジェクトに呼ばれる意味は、ブレイクスルーのきっかけや、それまで議論されていない切り口でのアイデアを求められているからだと思います。その期待に応えるためにも、戦略をそのままストーリーやビジュアルなどの形にするのではなく、クリエイターの視点を加えることによって、整理された分かりやすさと驚きのある発見を兼ね備えたアウトプットを出せるように工夫しています。

実際の事例でも「BX DUO」のシームレスな融合は成果を挙げている。戦略的な「ロジック」と創造的な「マジック」がクロスオーバーしながら進めるコンサルティングが、持続性の高い戦略策定とアウトプット創出を実現するからだ。
——これまでの成功事例に関して、エピソードを交えて教えていただけますか。
池田 あるメーカー様の案件で、MVVの制定を支援しました。その企業の経営陣は変わらなくてはいけないと思い続けていましたが、強い事業の柱があったゆえに踏み切ることができないという根深い課題を抱えていました。
そこで、「どのように変わりたいか」「変わった後この会社はどうなれると思うか」について、全社員にアンケートを取り、どこに課題を感じているのかを坂本と一緒に体系化しました。その結果をもとに社内のキーパーソンに抽出した課題を見てもらい、腹落ちするかどうかを確認しました。「どうすれば自分たちの会社に愛着が持てるようになるのか。どんな未来になったらこの会社に居続けたいと思うのか」をテーマに、納得が行くまで話し合いを続けました。
ここで威力を発揮したのがクリエイターの創造力です。私が書くと、ただの論理説明になってしまうのですが、坂本が書くと「こんなふうに自分たちを肯定していいんだ」「こんなふうに自分の会社を愛していけばいいんだ」と心を動かすようになり、企業の方々の熱量が高まるのを感じました。改めてワンチームでの強さを感じましたね。
坂本 「経営層が言いたい」言葉と「社員が聞きたい」言葉をチューニングして書き分けることはターゲットやシチュエーションに応じたコピーライティングであり、私たちクリエイターが得意とする領域です。一方で、「誰が、何を、どんな順番で、どこまで話すのか」といった緻密な組み立ては、戦略プランナーだからこそできるものです。この事例では、その2つをシームレスに融合した「BX DUO」の特性を存分に活かすことができました。
菊池 これまでの経験で感じているのは、BXは非常に分業が難しいということです。レイヤーを区切って分担しても上手く行きません。BXには、あらゆる局面にクリエイティビティが必要な瞬間が散りばめられていて、だからこそプロセス全体でクリエイターとプランナーが組むことによって、全体としてより良いアウトプットを創出できると感じています。

ある種「型破り」な電通グループ式のBXコンサルは、課題・事業の本質をシンプルに構造化し、変革を継続させる。左脳と右脳が融合した新たなアプローチは、今後のコンサルティングの地平を拓く可能性を秘めている。
——コンサルティングの未来像を示すうえでも、とても参考になる内容でした。最後に、事業変革に取り組みたいと考える企業人に向けてメッセージをお願いします。
菊池 正しいことを正しく整理することができたとしても、心に響いてその先まで広げるには高いハードルがあります。そこに絵があったり、琴線に触れる言葉を用意したりすることで、先ほども触れたように、受け渡した後で社内の方々が自走できるようになります。BXの主役はあくまでも顧客企業の方々です。だからこそ社員一人ひとりがプロジェクトの可能性を楽しみ、広げる、プランナーの気持ちで日々の業務に向かえば、日本はもっともっと強くなると信じています。
長谷川 これまでは、CMやコピーを通じて生活者の心を動かす仕事を担当してきましたが、経営・事業・人事・採用などのBX領域に携わるようになってから、経営者・社員・投資家・就活生など、より幅広い人の心を動かすことの大切さを学びました。誰かの心を動かすクリエイティブのスキルを「経営の隙間」に取り入れていただくことで、組織が大きく動くきっかけになるのではないか――そう考えて今後も取り組んでいきます。
坂本 クリエイティブはもっとビジネスの役に立てる、と信じています。事実、従来の広告クリエイティブの枠を越え、顧客企業の事業開発に携わる機会が増えたことで、やりがいを感じる社内クリエイターも増えてきました。新たなものを生み出すための苦しい瞬間や、変革を起こすための大切な局面を突破するために、クリエイティブの力を信じていただき、伴走させていただければ嬉しいです。
池田 これだけコンサルティングファームが求められているのは、難易度の高い課題が溢れていることの裏返しです。重要なのは、どう解決したいか、という点です。左脳のみではタスク分解に留まり、その範囲の限定的な最適化に陥り、能動性・発展性は生まれないと思います。私達は課題解決を超えたいです。そのために、右脳を組み合わせることが必須となります。共通プロトコルやイメージを生むことで、多様な部署・職階の人たちを結びつけることができる。それによって皆の境界線が融解し、現場の一人ひとりが自分の“範囲”を抜け出して、経営陣の会社とせず、自分の居場所として、その組織を背負うために頑張りたくなるDNAを作り出せるのではないでしょうか。ぜひ左脳と右脳が融合した電通グループのアプローチを活用し、未来の戦略を描いていただきたいです。もちろん私たちは実装・定着までお供いたします。

日経ビジネス発行人 松井健
以前、dentsu Japan CEOの佐野傑氏にインタビューした際、BX領域への並々ならぬ意気込みを感じたものだ。そして今回の話にあったように、現場ではコンサルティングの未来を変えるフロントランナーが生き生きと顧客支援を行っている。多数のコンサルと接してきたが、「BX DUO」のスタイルはこれまでのコンサルそのもの、ひいては電通のビジネスそのものを変えるポテンシャルがある。戦略・戦術を描き、変革をかなえる戦略プランナーの「ロジック」と創造・実装し、戦略・戦術の確度を高めるクリエイターの「マジック」。それぞれの経験値を掛け合わせて、何重もの相乗効果をこれからも生み出していくに違いない。